78年ごろから始まったパンクムーヴメントは80年代に入ってとたんに終息した。セックス・ピストルズは1枚しかアルバムを残さず解散したし、ダムドもファースト以降は(印象では)ぱっとせず、ジャムもクラッシュもどことなく軽快なポップになった(あるいはもともとそうだったような気も)。
僕がパンクを聞き始めたのは「パンク10年」とばちかぶりが歌っていた1988年ころだったが、その頃華々しかったのは、ツェッペリンやディープ・パープルといった様式美を追い求めた初期のハードロックとは打って変わったメタルやスラッシュメタルなんかで、とにかく速い。ギターは速弾き、ドラムはツーバス、ボーカルも早口でまくし立て、何を言っているのかよくわからなかった。
そのころ僕の友人は、パンクとハードロックの区別がつかないとぼやいていたが、それはたとえば、演歌に興味のない僕がどの曲も同じに聞こえてしまうというのと大差ない。音楽は趣味と割り切り、その定義や用語に通じていない僕でも、これはハードロック、これはパンクとだいたいの選別はできるものと考えていた。ハードコアを聴くまでは。
1980年代の一時期、ハードコア(他の分野でも使われるから、ハードコアパンクということもある)が最盛期を迎えた。初期のパンクといえば、過激なファッション、聞き辛い英語(若者言葉)、反抗的挑発的な歌詞を特徴とする一方、楽曲はどれもメロディアスで、歌詞も挑発が分かる程度には聞き取れるものだった。その後本家本元のパンクバンドがポップやニューウェーブ、アヴァンギャルドに流れてゆくなか、“アナーキー&バイオレンス” のみを抽出したかのようないわば激しい音作りをしたのがハードコアという印象だ。
スリーコードではないが(そもそも純粋にスリーコードしか用いないパンクスなんていましたか?)、聞き辛い言葉、単純なだが破壊衝動にも似た暴音、肉体を酷使した疾走感溢れる演奏をパンクから受け継いでいる。とにかく速く激しく絶叫に近く、どうにも歌詞が聴き取れない。
日本にもハードコア四天王なんて呼ばれたバンドがいた。これが僕が記憶力が悪いせいで今となってはどうにも曖昧なのだが、確かOUTO(オウト)、G.I.S.M.(ギズム)、GAUZE(ガーゼ)、Lip Cream(リップ・クリーム)だったか。あるいはGHOUL(グール)が入っていたかもしれない。他にもThe Execute(エグゼキュート)やThe Comes(カムズ)がいたし、同じオムニバスアルバムに収録されていたせいか、僕には全くハードコアに聞こえなかったLaughin’Nose(ラフィンノーズ)やGastunk(ガスタンク)もハードコアに分類されることがある。
これらハードコアバンドのほとんどは短命だったが、その演奏は激烈で、つねに暴力沙汰がつきまとっていた。四天王云々は別として、個人的にはOUTOの「I like cola」、Lip creamの「鋭角な未来」、アルバムならGAUZEの『Fuck Heads』『Equalizing distort』は今でも結構な頻度で聴いている。
2010年にはLip Creamが再結成ツアーを行い、即完売した東京のチケットを友人たちがとってくれたおかげで、初めて生でライブを観ることができた。さすがの臨場感。 LCのファンは歌詞に反応し、「鋭角な未来」や「Night Rider」では唱和する(ハモる)。疾走感に溢れ、メロディに特徴があり、詩が心を捉える。速くなければならない、激しくなくては無意味、歌詞が聞きとれない。系譜としてはパンクであろうに、僕には時に、同じ頃に出て来たスラッシュやメタルとの境界が曖昧に思えるのだった。
2017.02.16
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