サマーソングのネタを書くために悶々と考えていたら、もう少しで夏季オリンピックが始まるのを思い出した(注:このコラムは2016年夏に書かれたものです)。この盛大な夏の祭典にまつわる音楽も、ある意味サマーソングと呼べるのではないだろうか…。
そんな勝手な解釈が私の記憶線上に一枚のアルバムを浮かび上がらせた。1984年のロサンゼルス大会(以下、LA大会)の公式アルバムとしてリリースされた「The Official Music of the 1984 Games」(邦題:L.A.オリンピック公式アルバム)だ。
回を重ねるごとに興行色が強くなる一方のオリンピックだが、こうした流れの起点になったのは1984年のLA大会である。そしてこのアルバムもその成功に寄与した記念すべき作品なのだ。
東京五輪をめぐる招致合戦がまだ記憶に新しい我々としては信じがたいが、1984年大会はLA以外に立候補がなく無投票で決定している。つまり、それだけオリンピックはカネがかかるイベントであり、また儲からないイベントでもあるという負の常識があったわけだ。それが、自由と競争とイノベーションの聖地が手掛けることによって、オリンピックは税金を使わずとも都市(国)に大きな利益をもたらす一大事業になることが証明された。
来場者を増やしたり協賛スポンサーを獲得するためには、競技やセレモニーのコンテンツとしての魅力を高めなければならない。地元ハリウッドが作るスポーツ映画のワンシーンのように興奮や感動を呼び起こす音楽が必要だ。
その戦略を実現するべく、映画界で既に最大級の名声を得ていたジョン・ウィリアムズや、同様に「ロッキー」のテーマで名を馳せていたビル・コンティの他、ラヴァーボーイ、ジョルジオ・モロダー、ボブ・ジェームス、クリストファー・クロス、TOTO、クインシー・ジョーンズ、フォリナー、ハービー・ハンコックなど、まさにメダル級のアーティストが集結。それぞれが担当する競技のイメージに合う書き下ろしの曲で参加している。
意外なのは地元出身のアーティストがほとんどいないこと。生粋のご当地アーティストはTOTOくらいで、他はNYなどの東部や外国人だったりする。ラヴァーボーイはカナダ人、フォリナーは英国人主導のバンドだし、ジョルジオ・モロダーにいたってはイタリア人だ。ついでに思い出したけれど、本作には収録されてないものの、同じくLA大会のテーマ曲として同年に「オリンピア」をリリースしたセルジオ・メンデスもブラジル人だったね(肝心のリオ五輪では何もリリースしないみたいだけど)。
話を元に戻そう。本作は “オリンピックのサントラ” にふさわしく、競技をドラマチックに演出する旋律や歌詞の楽曲が並ぶ。たとえばクリストファー・クロスの「チャンス・フォー・ヘヴン」(水泳テーマ)は、もう何というか、NHKのハイライトシーンのBGMそのもの。五輪実況の巨匠だった西田善夫アナの声とか、勝者と敗者の印象的なシーンをまとめたダイジェストなんかが思い浮かぶ。ちなみに、この曲は彼最大のヒット曲「ニューヨーク・シティ・セレナーデ(Arthur's Theme)」と同じくバート・バカラックとキャロル・ベイヤー・セイガー夫妻(当時)がソングライターとして参加している。再びサントラからのヒットを狙ったのかもしれないが、こちらは不発に終わってる。
当時の私といえばほどほどの県立高校に通う極めて凡庸な高校生だった。どこにでもいそうな、否、あまりにも凡庸過ぎて周囲に埋没した高校生。しかし、妄想力と空想力にかけてだけは金メダル級の実力を誇っていた。このアルバムもアスリートになってオリンピックで活躍する自分の姿を空想しながら聴いていたのを思い出す。実際にはスポーツからほど遠い帰宅部員だったのだけれど。
2016.07.30
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