7月23日
不朽の夏メロ「サマー・マッドネス」が導いてくれる心のエンドレスサマー
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photo:Discogs  

いわゆるサマーソングという音楽は、いったい何をもってそう呼ばれるのだろうか? その理由を考えてみた。

夏の定番と言われるような曲をいくつか思い浮かべてみると、そのほとんどは歌詞の中に夏を思わせる言葉を含めているか、アーティスト自体に夏のイメージが浸透しているかのいずれかである。前者の例としては「ボーイズ・オブ・サマー」(ドン・ヘンリー)や「少年時代」(井上陽水)、後者は挙げるまでもなくザ・ビーチ・ボーイズとか。そうした曲は記号的な意味、そして常識的な範囲においてサマーソングであることにブレはない。

では、メロディや音色自体に夏を感じさせるサマーソングとなるとどんな曲が思いつくだろうか? サマーソングならぬサマーメロディ、略して夏メロと言ってもいいかもしれない。こうなると感覚的な要素なので人によって意見の違いが大きくなりそうだけれど、わたしにとってのベスト夏メロはクール&ザ・ギャングの「サマー・マッドネス」(1974年「Light of Worlds」収録)である。

実を言うとこの曲を知ったのは原曲ではなく、DJジャジー・ジェフ&ザ・フレッシュ・プリンス(改めウィル・スミス)の大ヒット曲「サマータイム」(1991年)でサンプリングされたトラックの方が先だった。

聴いた刹那、アメリカの都会の片隅にありふれていそうな夏の光景が脳裏に浮かんだ。日中の灼熱の太陽に充分熱せられたコンクリートの上で揺らめく、夕方の気だるい人々や街並み。ビデオを見たわけでもないのに自然と浮かんだその光景はわたしを捉えて離さなかった。その光景をいつでも再現できるように、わたしは「サマータイム」を録音したカセットをウォークマンに入れて持ち歩いた。

それからしばらくして、どこかのバーのカウンターに座って酒を飲んでいた時、目の前にあるカセットデッキから「サマータイム」が流れてきた。いや、ちょっと待てよ。違う。ウィルのラップがない。普段のバーテンとは違う助っ人と思しき女性店員に、わたしは慌てて「この曲は何? DJジャジー・ジェフのと同じメロディなんだけど!?」と尋ねた。

そう、当時のわたしは「サマータイム」のトラックがサンプリングされたものだということを知らなかったのだ。その助っ人女性はわたしの強引な質問に少し困った表情を浮かべながら「知り合いに作ってもらったテープなので分からない」というようなことを言った。それでもその時の衝撃と興奮が知る機会を引き寄せたのか、程なくしてそれがまさかのクール&ザ・ギャングによる「サマー・マッドネス」という曲だということがわかった。

彼らのことはもちろん知っていた。いや正確には知っているつもりだったのだが、それはすなわち「セレブレーション」や「チェリッシュ」とか、遡ってもせいぜい「トゥー・ホット」といったヒット曲を量産しているポップなファンクバンドとしての彼らであった。主に全米チャートとロックを聴き漁っていた当時のわたしはR&Bやファンクの、しかも70年代以前の知識がまだ浅かったのだ。

かくして本家本元の「サマー・マッドネス」と出会って以来、わたしの夏には必ずこの曲が流れるようになった。陽炎のように揺らめくイントロのエレピに始まり、濃密な熱気を包んだベース、そして当時はまだ珍しかったシンセのARP2600による炎天のごとく高いピッチまで一気に吹き上げるポルタメント。歌詞のないインストでこれほど鮮やかに夏を表現している曲をわたしは他に知らない。

何度聴いてもこの冒頭のメロウな1分弱を過ぎた頃には空想移動が完了している。カリフォルニアなのかフロリダなのか、探しようのないアメリカのどこかの街の夏景色へ。

かつて「夏は単なる季節ではない。それは心の状態だ」と記したのは片岡義男だが、この名文になぞらえるならばサマーソングとは心の状態を夏にしてくれる音楽でなくてはならない。わたしにとって「サマー・マッドネス」はそんな真のサマーソング、いや「夏メロ」である。

この曲さえあれば、わたしの夏は終わらない。

2016.08.28
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カタリベ
1967年生まれ
阿野仁マスヲ
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