土曜の夜8時、絶大な人気を誇った「8時だョ!全員集合」
物心がついて近所の子と遊んだ初めての記憶は「ままごと」だった。
ごっこ遊び―― 何かになったつもりになって遊ぶ所謂ロールプレイだが、身近な大人たちを真似たその遊びはテレビと接する内に男子なら「仮面ライダーごっこ」、女子なら「リカちゃん遊び」へと変わっていった。そして僕たちの世代、最後のごっこ遊びが「8時だョ! 全員集合ごっこ」だった。
小学生だった僕たちはテレビで観たザ・ドリフターズのコントを毎週暗記、覚えたての記憶を頼りにメンバーになりきってよく遊んだものである。
ピラミッド探検に向かう5人の男たち。彼らは王家の財宝を狙う墓泥棒だ。新米隊員の志村は一人見張りに残されてしまう。5つある棺のひとつを開くと別の棺が開きミイラが出現! 背後から志村を襲おうとする。
「志村ー! 後ろ、後ろー」
僕たちは大きな声を出して叫ぶ。もちろんテレビの前で観ていたときと同じように――
絶対的ヒーローだったドリフターズ、なかでも志村けんは別格
そう、ドリフは僕たちにとって絶対的ヒーローだった。なかでも “志村けん” は別格の存在。皆が志村役を演じたくて仕方がなかった。男子のごっこ遊びで一番人気の大スターだ。いや、もっと身近な存在だったかもしれない。何しろ大の大人を「志村さん」ではなく、子供たちは「志村ッ」と呼び捨てていたのだから―― 僕たちは年の差を越えて “志村” を遊び仲間のように愛していた。
こうして志村けんの “お笑いDNA” は、彼のシャウトと共に子供たちの心に深く刻み込まれていった。
一丁目、一丁目 ワーオ
一丁目、一丁目 ワーオ
ヒ! ガ! シ! 村山一丁目 ワーオ
その人気は「志村けんの全員集合 東村山音頭」(76年)で頂点に達した。純白のバレリーナの衣装の股間から伸びた白鳥の首をブンブン振り回すエキセントリックな姿が日本中の子供たちの心をさらっていった。
ヒゲダンスが大ブーム、「ヒゲ」のテーマもオリコン5位!
その後も志村絡みの楽曲はザ・ドリフターズ名義で「ゴーウエスト」(78年)がオリコン最高25位、たかしまあきひこ&エレクトリック・シェーバーズの『「ヒゲ」のテーマ』(80年)が最高5位と次々とランキング上位へと進出した。
そうそう、志村けんといえば『全員集合』後半のショートコーナーで人気を博したヒゲダンスだろう。
志村と加トちゃんの2人がチャップリンのような黒の燕尾服に付け髭姿で登場。両腕を下に真っ直ぐおろして手首を外側に90度曲げ、軽快なステップでペンギンのように踊りながらいろいろな芸に挑戦した――
吹き矢で風船を割るパフォーマンスやバケツに水を入れたまま振り回して水を零さないなど、様々な大道芸に挑戦。芸が成功するたび僕たちは大声で声援を送った。
オリジナルはテディ・ペンダーグラス「ドゥー・ミー」
その BGM となったのが、かの『「ヒゲ」のテーマ』である。オリジナル楽曲ではなく、ギャンブル&ハフ(ケニー・ギャンブルとレオン・ハフ)が作曲したもの。志村けんが好きだったというフィラデルフィアソウルのトップスター、テディ・ペンダーグラスのアルバム『テディ』(79年)収録の「ドゥー・ミー」が元曲である。
I never had nobody that love me the way you do
Said, it's real, so real
I never knew how good and true love
Can make me feel, make me feel
I surely love you, baby, without digging my soul
That's why, that's why I want you to do me
Do me, would you do me?
愛する女性への赤裸々な告白… 大人になった今ならわかるセクシーな歌詞、多くの女性と浮名を流した志村けんらしさを感じさせる選曲だ。クールで洗練された都会的なサウンドが不思議なぐらい加トケンの大道芸を煌めかせた。
新型コロナウイルスによる肺炎で死去。志村けんよ、永遠に…
最後に――
東村山駅には3本のけやきの木があり「志村けんの木」と名付けられ、駅前の東口ロータリーに植樹されている。これは東村山市の名を全国に広めた功績が認められてのことだ。
コロナウィルスの感染拡大に終止符が打たれたら、東口ロータリーへ出向いてみるのもいいだろう。その場所で僕の心は一気に子供に返っていく。
そして、大きなけやきの木を見上げると、そこには青い大空―― 雲の上から僕らの志村婆ちゃんがディスコミュージックにのせてシャウトするんだ。
あ~あ~ぁーオ!
あーぁ、
サンキューベイベー!
2020.04.18