2月7日

今週のスポッ・・・トライト! 回転扉の向こうからやってきたヒット曲

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吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」がザ・ベストテンの今週のスポットライトに登場した日
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80年代、毎週木曜夜9時と言えば、一週間に一度のお楽しみ『ザ・ベストテン』(TBS)の時間だった。番組が始まったのは1978年1月。僕の記憶ではその年の6月頃から観始め、当時はまだ5歳だったので、まさに物心ついた時から毎週見続けていたことになる。

そんな『ザ・ベストテン』の中で、11位以下の曲の中から有望そうな楽曲を紹介する「今週のスポットライト」というコーナーがあった。久米さんの「今週のスポッッ… トライト!」という独特のコールの後、あの回転扉の向こうから出てくるのは、僕が初めてテレビで見る人達だったケースも多く、いつも楽しみにしていた。

サザンオールスターズ「勝手にシンドバッド」、ゴダイゴ「ガンダーラ」、ジュディ・オング「魅せられて」、海援隊「贈る言葉」、山本譲二「みちのくひとり旅」、シュガー「ウエディング・ベル」、葛城ユキ「ボヘミアン」、チェッカーズ「涙のリクエスト」…

これらは『ザ・ベストテン』の初出演が、「今週のスポットライト」だったアーティストのほんの一例である。いずれも出演をきっかけに認知度が急上昇して、後にベストテン入りを果たしている。

コーナーでは、大体、出演者の歌唱時のセットはランクイン曲よりも簡素に設定されていた。その代わり、トーク時間は通常のランクイン歌手よりも長めに設けられており、毎回、短縮版・徹子の部屋のような趣きで、黒柳さんならではの機転の利いたインタビューによってゲスト歌手の魅力を引き出していた。中には、全く予期せぬハプニングで曲のブレイクに一役買うようなケースもあった。

それは、吉幾三が「俺ら東京さ行ぐだ」で登場した放送回だった。このとき、吉さんは緊張のあまり、歌い出し早々で歌詞が飛んでしまったのである。

「あれ? 詞、詞忘れちゃいました…」

―― とうろたえながら「すんません… 二時間ちょっとの散歩道… 電話も無ェ 瓦斯(ガス)も無ェ」と続けるシーンがあまりに滑稽だった。当時小学生の僕はその一部始終に腹を抱えて大笑いしてしまった。

結局は黒柳さんの即断で、もう一回唄い直しの処置が取られるのだが、そんな可愛さ? が怪我の功名となってか、「俺ら東京さ行ぐだ」は、ベストテンに7週間ランクインするスマッシュヒットとなったのだ。

逆に、ヒットを期待されながら、スポットライト止まりでベストテン入りが叶わなかった曲も少なくない。その代表格が、ヨッちゃんこと野村義男がいたグループ、ザ・グッバイのデビュー曲「気まぐれOne Way Boy」だろう。

トシちゃんとマッチが華々しく活躍する中、満を持してのデビューで、黒柳さんのインタビューに対し「シブがき隊が出た時はちょっと焦りが出た」などと言いながらニコニコ笑っていたヨッちゃん。彼等がいよいよスタンバイへ向かうその時、マッチから、仲間への応援コメントとは思えない迷言が飛び出した。

「これが最初で最後のベストテンなんで精一杯頑張って欲しいと思います」

その後、ザ・グッバイが『ザ・ベストテン』にランクインすることは一度も無く、マッチの予言どおり、この日のスポットライトが本当に最初で最後の出演になってしまった。

ところで、スポットライトで紹介されたのは、初出演の歌手だけとは限らなかった。番組の視聴率が40%を超えることもあり、このコーナーはテレビから離れていた大物アーティスト達にとっても無視できない存在となっていたようだ。

82年~83年にかけて、当時ヒット戦線から2、3年離れていたサザンオールスターズ、長渕剛、大橋純子といった実績あるアーティストが、起死回生を狙ってスポットライトに登場したことは、一視聴者としては新鮮な驚きがあった。

「僕等の音楽はお茶の間に浸透すると、いうところで頑張ってみたいと思います」(サザンオールスターズ)

「(アイドルとも)同じ土俵で勝負しなきゃいけないなっていうことでね。やっぱり負けたくないなと」(長渕剛)

トシちゃん、マッチ、松田聖子などのアイドル達が上位で凌ぎを削る中、既に広く名前の知られた彼等がベストテン戦線に真正面から殴り込みをかけてきたのだから、それはもう番組が面白くならない訳がなかった。

今思えば、両者にとってこのスポットライトでの大衆への宣戦布告は、その後の彼らの長期間に渡る活躍を考える上でひとつのターニングポイントとなっているのではないだろうか。特にサザンに関して言うと、そのマインドは40年近く経った2018年大晦日の NHK 紅白歌合戦でもバリバリに息づいていた。これは本当に嬉しいことだ。

80年代、“聴いたことのない” ヒット曲はいつも回転扉の向こうからやってきた。そして、この先に広がる新しい時代、ヒット曲はどこからやってくるだろうか――。

僕は今、その扉を探しているところだ。

2019.02.16
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カタリベ
1972年生まれ
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