2022年もまた、旅の途中だった佐野元春
争いと分断の2022年が終わり、それぞれが痛みと課題を残したまま2023年が幕を開けた。それでも僕らは否が応でも人生という旅を続けなくていけない。そのためにここにきて大切なことというのは、一歩前に進む勇気と、立ち止まって考える余裕ではないかと僕は思う。この相反する2つのアクションこそが2023年を生き抜くために何より重要だ。
2022年、元春もまた、旅の途中だった。リリースされた『ENTERTAINMENT!』『今、何処(WHERE ARE YOU NOW)』という2枚のアルバムでは60年代、70年代のアメリカの豊潤な音楽的土壌をフォーマットにしながら、THE COYOTE BANDと共に今まで辿り着くことがなかった奥行きのあるバンドサウンドに日本語の機微を見事に際立たせた新たな境地を確立。ツアーも大盛況に終わらせた。
また、アルバム『SOMEDAY』リリース40周年を記念して2013年に行われた再現ライブの映像をリリース。そしてリリース30周年となる『SWEET16』の再現ライブ敢行と、時空をも超えた旅をしていたように思う。
考えてみれば、元春はずっと旅人だった。1983年の春にニューヨークに旅立ち、『VISITORS』を作った時も、今のスタンスとさほど変わっていなかったと思う。『VISITORS』が当時ニューヨークで勃発したヒップホップカルチャーや60年代のアレン・ギンズバーグやジャック・ケルアックを輩出したビート・ジェネレーションに触発され、そこにどのように日本語のリリックを乗せ、自らのフォーマットを確立すべく格闘した作品だった。
そしてその2年後にリリースした『Café Bohemia』は、当時ロンドンの最先端の音であったUKソウルやアシッドジャズのエッセンスをいち早く取り入れ、ここでもまたそれまでの元春に対するパブリックイメージをあっさり覆した。ニューヨークからロンドンへ。自らの音楽的経験から生まれる知的欲求心を頼りに旅を続ける元春は、ここでもまた、一歩前に進む勇気と、立ち止まって考える余裕を持ち音楽と向き合っていたと思う。
リリースから38年、「ヤングブラッズ」のメッセージは今も有効か?
この『Café Bohemia』に収録された「ヤングブラッズ」は、前年の85年にリリース。元春初のオリコントップテン入りしたシングルとなっている。国際青年年のテーマソングにもなり、後にリリースされた12インチシングルのジャケットの裏面には、1985年時点での紛争地域をマーキングした世界地図が記載されていた。
ちなみに「ヤングブラッズ」のシングル前作は『VISITORS』に収録されていた「ニューエイジ」だった。未だ見ぬ世界への旅立ちを思わせるこの曲は、ニューヨークの地下鉄の中で天啓を受け生まれたという。ここで「これが人生の意味(That’s The meaning of life)」、「昔のピンナップはみんな壁からはがして捨ててしまった――」と叫んだ元春が、次作でUKムーブメントに接近。世界状況を見据えたメッセージを発しているというのが興味深い。これが佐野元春というミュージシャンの今も変わらないスタンスだ。ひとつの場所に定住せず、その時々の最大級のメッセージをリスナーに投げかけている。
「ヤングブラッズ」から38年。元春のメッセージが今も有効であるという現実は拭えない。しかし、ここで描かれたリリックには、争いと分断を超え2023年を生き抜くメッセージが潜んでいる。
静かな冬のブルースに眠る
この街のニューイヤーズ・デイ
大地に果てしなく降るモーニング・ライト
いつの頃か忘れかけていた荒ぶる胸の想い
アクセルためてルーズな空見あげる
鋼鉄のようなWisdom
輝き続けるFreedom
願いを込めてここに分け合いたい
Let’ Stay together oh together
「ヤングブラッズ」を口ずさみタフに2023年を生き抜こう!
新年のしんとした空気の中で、人気のない場所で深呼吸して、このフレーズを口ずさんでみてはいかがだろうか?
きっと忘れかけていた何かが蘇るはずだ。
鋼鉄(はがね)ようなWisdom
―― つまり、一歩踏み出すために何をすべきか、その時のために僕らの最大の武器となる知恵(Wisdom)だ。そして、
輝き続けるFreedom
―― 争いや分断のない、誰もが求める理想郷だ。今世界を見渡し、誰もが感じる憂いは、元春の言うところの「いつの頃か忘れかけていた荒ぶる胸の想い」ではないだろうか。だからこそ知恵を武器に新しい価値観を身につけ生き抜かなければならない。
さぁ荒ぶる胸に湧きあがった勇気は何にも変え難い人生のギャランティだ。「ヤングブラッズ」を口ずさみ、タフに2023年を生き抜いていこう!
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2023.01.01