デュラン・デュラン、2022年のコンサートフィルム、「デュラン・デュラン:ハリウッド・ハイ」
アメリカという国に、子どもの頃から憧れのような感情を抱いていたリマインダー世代の方は少なくないのでは? かくいう筆者もそのひとり。とりわけLA、すなわちロサンゼルスだ。昔から映画が好きだったこともあり、映画の都ハリウッドを擁するこの街は、いかにも暖かそうな気候を含めて、筆者のような日本の雪深い北国で暮らす子どもを魅了していた。音楽もしかりで、ビーチ・ボーイズは、洋楽にのめりこむ以前からカリフォルニアの象徴のように映った。とにかく、まぶしかったのだ。
そんなことを思い出したのは、『デュラン・デュラン:ハリウッド・ハイ』を観たからだ。
デュラン・デュラン、2022年のコンサートフィルム。“ハリウッド・ハイ”というと、音楽に詳しい人ならばエルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズのライブアルバムの舞台となったり、モリッシーのコンサート映像が収録されたりの、ハリウッド・ハイスクールを連想するだろう。しかし、本作のライブ会場はそこではない。デュラン・デュランはハリウッドのハイな場所、つまり高いところ=ビルの屋上でライブを敢行している…… というワケ。
© 2022 Duran Duran A Hollywood High 屋上での演奏というと、ビートルズがゲット・バック・セッション時に行なったルーフトップ・コンサートが有名だが、それを思い出さずにいられないのは、デュラン・デュランがライブを行なったビルは、アメリカでビートルズのレコードの配給を行なったキャピトル・レコードの本社ビルが間近に見えるから。デュラン・デュラン自身も米国でのレコードはキャピトルからリリースされていた。この本社ビルは円柱型の独特のフォルムで観光地としても知られており、ハリウッドの象徴のひとつともいえる。
© 2022 Duran Duran A Hollywood High
全米初のトップテンヒットとなった「ハングリー・ライク・ザ・ウルフ」
で、この映画の冒頭部分、15分ほどはインタビューパートで、デュラン・デュランのメンバーによるLAへの思いが語られるが、英国バーミンガム出身の彼らにも最初のLA訪問はかなり刺激的な体験だったようだ。ドラムのロジャー・テイラーいわく、
「バーミンガムは陽が短くてヤシの木もない。だから初めてLAを訪れたときは楽園だと思った」
わかる。わかるよ、ロジャー……。
「NYがパンクなら、LAはロックンロールだった」
というボーカルのサイモン・ル・ボンのLA初体験は、より直接的だ。
「石油採掘機と、巨大な広告看板」
…これはLAに行ったことのある人ならば、“そう、そう!” と思うだろう。空港から市の中心部に向かう車中、車窓から目に留まるのは、荒野でノンビリと規則的に動いている石油採掘機。しばらく行くとビルボード、すなわち巨大な広告看板が目につくようになる。映画でしかみたことがない風景がそこに広がるのだから、興奮するのもわかる。わかるよ、サイモン……。
彼らがLAで、アメリカでの成功の足かがりを得たことも語られる。以前のコラム
『輸入盤のドラッギーな魅力!真空パックを破ると漂う…あの匂い』でもチラッと触れたが、1982年のセカンドアルバム『リオ』は当初アメリカでは売れず、数曲をリミックスすることになるのだが、このリミキサーも本作に登場。新たにミックスされたシングル「ハングリー・ライク・ザ・ウルフ」が、彼らの初の全米トップテンヒットになったのは、ご存知のとおりだ。
「デュラン・デュラン:ハリウッド・ハイ」のライブ映像とは?
『デュラン・デュラン:ハリウッド・ハイ』のライブ映像についても触れておこう。
会場となったビルの屋上は、そんなに広くなくて、オーディエンスも200〜300といったところか。アリーナクラスの会場でプレイしている彼らにしてみれば規模的には小さい。それでも、7〜8台のカメラはLAの夕暮れと夜景をしっかりとらえ、キャピトル・レコードのビルはもちろん、遠くにハリウッドサイン、眼下にハリウッド・ブルーヴァードも見えて、まさにザッツ・LA。自分も仕事で何度か行ったことがあるが、また行きたいと思えてくる。あ、その前に円安とインフレを何とかして欲しいぞ。
彼らのパフォーマンスに関していうと、自分は90年代以降、デュラン・デュランを聴かなくなったので、80年代の曲しか知らなかったが、その知らない曲たちが思った以上にかっこいい。パンクは比較的タテノリだが、ロックンロールにはグルーヴも宿る。そのグルーヴがLAの夜景に溶ける心地よさ。また、当然といえば当然だが、サイモンが、80年代よりも歌が上手くなり、ボーカリストとして円熟していることにも感激した。
この原稿を書いているその日、デュラン・デュランは「ロックの殿堂」入りを果たし、LAでの表彰式に出席している…… のだが、その矢先、映画には出演していなかったギターのアンディ・テイラーが、ステージ4の前立腺がんで闘病しているとのニュースが飛び込んできた。彼らがアメリカでの成功を手にしてから、早いもので40年。彼らも僕らも、そういう年齢だ。アンディの回復を祈りつつ、今宵はデュラン・デュランを鳴らしてみようと思う。
© 2022 Duran Duran A Hollywood High
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2022.11.18