2022年 11月11日

映画「すずめの戸締まり」に流れる昭和のヒットソング!松田聖子と河合奈保子編

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「すずめの戸締まり」に詰め込まれたギミック


AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」や、TVドラマ『傷だらけの天使』の舞台にもなったビルを『天気の子』(2019年7月公開)にぶっこんだ新海誠監督は、最新作の『すずめの戸締まり』(2022年11月公開)にもあれこれとギミックを詰め込んでいる。

日本の神話を連想させる固有名詞やら、ポテトサラダ入りの焼きうどんやら、アルファロメオ風のコンバーチブルやら、物議を醸すことが確実な「イケメン」というワードやら……。ギミックの数と種類を増やすことで、いろいろな年代や属性のたちが、SNSで話題にしたくなる、ググりたくなる、「どんな意味があるんだろう?」と謎解きをしたくなる。それが新海流マーケティング戦略のひとつなのかもしれない。

そして、今作ではギミックのひとつに昭和のヒットソングがあった。カラオケバーのシーン、主人公らがクルマで長距離移動をするシーンなどで、何曲かが連続して流れるのだ。

ジャンルや時代背景にバラつきがあり、必ずしも関連性があるとは限らないそれらの楽曲のなかで、本稿で取り上げたいのは下記の2つである。

■ 松田聖子 / SWEET MEMORIES(1983年8月)
■ 河合奈保子 / けんかをやめて(1982年9月)

少なくとも、この2曲はガッツリと関連している。「1980年にデビューした女性アイドルが数年後に生んだ “代表曲” である」という共通項があるのである。

80年デビュー組、対象的だった松田聖子と河合奈保子


1980年3月、70年代後期を代表する女性アイドル・山口百恵が引退の意志をアナウンスしたことで、岩崎良美、松田聖子、河合奈保子、柏原よしえ(のちに柏原芳恵)、浜田朱里、甲斐智枝美、三原順子(のちに三原じゅん子)ら、その年の有力女性新人アイドルたちは “ポスト百恵” 候補として遇された。そして、42年後に『すずめの戸締まり』で代表曲が流された松田聖子と河合奈保子は、そんな80年デビュー組のナンバー1とナンバー2であった。

それまでのアイドルは、デビューから1〜2年かけて徐々に人気を獲得していくのが通常だったなかで、「裸足の季節」(1980年4月)でデビューした松田聖子の爆発的な売れ方は異例だといえる。2枚目のシングル「青い珊瑚礁」(1980年7月)は2ヶ月に渡るロングヒットに。そして、次の「風は秋色 / Eighteen」(1980年10月)は、10月に引退した山口百恵を含むその年の女性アイドル楽曲のなかでもっとも売れたシングルとなったのだ(データはすべてオリコン調べ)。

つまり、松田聖子はデビュー1年目にして、レコードセールス面でいきなり “百恵超え” を果たしてしまったのだ。

これに対して、河合奈保子の売れ方は一段ごとに階段を上がるようだった。新曲をリリースするたびにチャートの順位を上げていき、デビューから1年後、5枚目の「スマイル・フォー・ミー」(1981年6月)で初めてトップ10入りを達成。これで、聖子に続くナンバー2のポジションを確かなものとした。同年秋に事故で重症を負い2ヶ月の休業期間を要する悲運もあったが、人気に影響はなかった。

河合奈保子の殻を破った「けんかをやめて」


デビュー当初の松田聖子と河合奈保子とでは、プロデュース面で差異があった。松田聖子は4枚目の「チェリーブラッサム」(1981年1月)以降、財津和夫、呉田軽穂(松任谷由実)、大滝詠一、細野晴臣と当時は “ニューミュージック” と呼ばれたジャンルのミュージシャンに作曲を依頼した先進的なプロデュースがなされた。作詞家の松本隆らが手掛けた歌詞の世界も含め、その楽曲は常に80年代の風を掴んでいた。特に呉田軽穂が作曲した8枚目の「赤いスイートピー」(1982年1月)が多くの女性ファンを獲得するきっかけとなることで、松田聖子は他のアイドルとは別の次元に到達している。

これに対し、河合奈保子はデビューからしばらくは保守的なプロデュースがなされた。デビュー曲「大きな森の小さなお家」(1980年6月)以降、専門の作家による正統派ともいえるアイドル系歌謡曲のリリースが2年近く続いたのだ。その点では、松田聖子とは対照的だった。

『すずめの戸締まり』で流れた「けんかをやめて」は、そんな河合奈保子が、ニューミュージック系ソングライターと初遭遇することで殻を破った楽曲だ。作詞・作曲を手掛けた竹内まりやが後年語ったところによれば、もともと「けんかをやめて」は、“河合奈保子に歌って欲しい” との思いから作っていた曲だったとのことだ。それがたまたま関係者より曲作りの依頼があったことで、シングル化が決まった経緯があるという。



河合奈保子が作曲やピアノ・キーボードの演奏をこなす高い音楽性の持ち主であることは、当時はほとんど知られていなかった。そんな彼女のボーカルの才能に着目していた竹内まりやの慧眼ぶりにも驚くばかりである。

「けんかをやめて」の歌詞は、今なら “炎上必至” な自己中心的な内容だが、河合奈保子の表現力は、それをマイルド化させることに成功。そのキャリアにおいて突出した大ヒット曲ではないが、人々の記憶に残った。だからこそ、こうして40年後に再評価の機会を得ているのだろう。

中森明菜、小泉今日子らのデビューもあり、「けんかをやめて」がヒットした1982年以降、女性アイドルの生存競争は激烈化するが、河合奈保子は人気の高値安定が続いた。翌年には歌詞に性的要素も含めた意欲作「エスカレーション」(1983年6月)を自身最大のヒット曲に。さらにデビュー5年めにして「デビュー〜Fly Me To Love」(1985年6月)で初のオリコン週間チャート1位をゲットした。

そして、セールスは少しずつ落ちていったものの、「ハーフムーン・セレナーデ」(1986年11月)以降は自身が作曲したシングルを連続リリースするという、アイドルとしては前例のない活動を展開していくのだった。

1996年に結婚した河合奈保子が表舞台を去り、音楽活動も停止してしまったのは残念でならない。なお、2008年には竹内まりやのブログに写真入りで登場し往年のファンをざわつかせたこともあった。

rリリースごとに際立つ松田聖子の別格感


一方、1983年の時点で不動の地位を築いた松田聖子にとって、「SWEET MEMORIES」は、「青い珊瑚礁」、「赤いスイートピー」に続く3つめのブースターとなる。サントリーの缶ビールのCMで起用されたこの曲は当初、14枚目のシングル「ガラスの林檎」(1983年8月)のカップリング曲としてリリースされた。CMは、ペンギンを擬人化したアニメーションがモチーフで、ジャズバーのような店で女性歌手が「SWEET MEMORIES」の英語パートを歌うのだった。

どこかノスタルジーを感じるこのCMは評判となり、曲の注目度もアップする。当初はCMに歌手名が表示されていなかったので、「ガラスの林檎」のレコードを買っていない人には誰が歌っているか分からなかった。そして途中から「唄 / 松田聖子」というクレジットが入ることで、「松田聖子だったのか!」という驚きとともに、「SWEET MEMORIES」のニーズは従来のファン以外からも急激に高まった。

これを受けて、改めて「ガラスの林檎 / SWEET MEMORIES」というタイトルの両A面シングルとしてジャケットを刷新したシングルが発売され、オリコンシングルチャートのトップ10内に再浮上。実に11週ぶりの1位に返り咲いている。



「ガラスの林檎 / SWEET MEMORIES」は、80年代の松田聖子にとって最も売れたシングルであり、「SWEET MEMORIES」は彼女がボーカリストとして正当に評価される機会を得た曲だといえる。この曲が従来のファンとは異なる層にも届くことで、松田聖子の別格感はますます際立っていった。だからこそ、1985年に結婚してからも彼女の人気は衰えることがなかったのだ。

なお、「SWEET MEMORIES」の作曲者は財津和夫でも、呉田軽穂でもない。アレンジャーとして「青い珊瑚礁」から松田聖子のサウンドに不可欠な存在だった大村雅朗が初めて作曲を手掛けたシングル曲だった。なお、1997年に46歳で他界した大村は、河合奈保子の「エスカレーション」の編曲者でもあることも書き添えておこう。

トップを走った松田聖子と、それを追走した河合奈保子は、80年代にアイドルブームを起こした大功労者である。また両者は、「SWEET MEMORIES」、「けんかをやめて」のような楽曲に恵まれ、それを歌い継がれる代表曲に昇華させたすぐれたボーカリストでもあった。

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