あくまでも音楽的見地からのアイドルベストテン
(はじめに)時代・流行・風俗的視点やルックス・プロポーション・ファッション的視点ではなく、あくまで音楽的な見地、より詳しく言えば、本人の音楽的才能と後の音楽シーンに残した影響から、可能な限りロジカルに選ぶよう努めたいと思います。論旨的に1位からの流れでの発表になりますのでご理解ください。
第1位:松田聖子
「ニューミュージックの総括」(別名「はっぴいえんどの復讐」)としての作家陣、とりわけ松本隆による新世代の女性観に溢れた歌詞、そして言うまでもなく歌唱力。個人的にはシングル『夏の扉』(81年)までの爆発的な声量を推す。イチオシシングルは『チェリーブラッサム』(同年)となるが、デビューアルバム『SQUALL』(80年)全体に横溢するパワーボーカルは、もうハードロックの世界だ。
第2位:中森明菜
80年代的「陽」の聖子に対して、70年代的「陰」のポジションを孤高で守り切った人(驚くべきことに80年代のシングルはすべて短調)。中域のふくよかな声量は唯一無二で、『SOLITUDE』(85年)以降のアーバン&アダルト歌謡を確立した功績やセルフプロデュース力もまた然り。総じて、彼女が残したシングル群は高品質で個性的でそして哀しい。とりわけ(90年発売だが)『水に挿した花』のはなやかさたるや。
第3位:小泉今日子
プロデュース力を推したいが、中森明菜のそれが「作品性」に向かっているとすれば小泉今日子は「商品性」(話題性)に向かう。音楽を軸に時代と話題を吸引し、驚くべきはそのスタンスが現代にも続いていること。シングルは秋元康・高見沢俊彦・近田春夫・野村義男・小室哲哉、そして大瀧詠一という賑やかな作家陣を誇ったが、1曲と言われれば、橋本淳・筒美京平という超トラッドなチームによる『半分少女』(83年)。
第4位:薬師丸ひろ子
上記3人と並べるのにちょっとした違和感を抱くのだが、それそのものが彼女に関するマーケティングの成功要因とも言える。大瀧詠一による『探偵物語』(83年)と呉田軽穂(松任谷由実)による『Woman "Wの悲劇"より』(84年)は「80年代ソングライター頂上決戦」の趣き。その横綱対決は甲乙付け難いが、真の勝者は、これら超絶難曲を歌いきった薬師丸ひろ子本人。よってこの2曲をイチオシとする。どちらかを選ぶのは失礼だ、音楽の神様に対して。
第5位:河合奈保子
「80年代音楽はよかった、最高!」的な論調が、少しばかり過剰に語られていると思う中、もし偏りがあるとすると、その偏りでいちばん割を食っているのがこの人だろう。豊富な音楽的知識に裏打ちされた、プロフェッショナルな歌唱はもっと語られていい。「サブカル性」の低さが影響しているのだろうが、しょうがないだろう。彼女はバリバリの「メインカルチャー」だったのだから。デビュー曲『大きな森の小さな家』(80年)の「♪鍵をあげるわ 真心の鍵」のメロディとコード進行が忘れられない。
第6位:浅香唯
以上、80年代前半デビュー組の話は無限に盛り上がるが、対して「アイドル氷河期」に突き進む中で世に出た後半組は、一斉に加点してあげたいところ。その中で、『セシル』ま(88年)という超名曲を残したという一点において、下位打線のトップに置かせていただく。イチオシシングルももちろん『セシル』。その抜群の声量は、弘田三枝子から木村カエラへと続く、長い長い一本線の中点で燦然と輝く。
第7位:早見優
「世界一美しいいきもの」といくつかの媒体で評したが、ボーカリストの視点からも上位に食い込む。80年代後半、アン・ルイスの影響を受けた金属的ロックボーカルが素晴らしく、『PASSION』(85年)と『Newsにならない恋』『Love Station』(ともに86年)がよい。1曲と言われれば『Love Station』。なお、最近のライブも拝見したが、実は、もっとも声が出ているのは今かもしれないということを付記する。
第8位:松本伊代
平山三紀、郷ひろみの流れを受けて「筒美京平・変声(へんごえ)偏愛ライン」を継いだ人。私の位置付けは「82年組の中でもっとも都会的・東京的なポジション」というもので、田舎性/ヤンキー性をも引き受けなければならないアイドル界の中、ある意味、損をしたのかもしれないが、その意味でも平山三紀の後継となる。ただイチオシを聞かれたら。筒美京平作品ではなく、「カフェバー」「デュラン・デュラン」「女子大生」が歌詞に出てくる、いかにも80年代東京的な『Last Kissは頬にして』(86年)が楽しい。
第9位:おニャン子クラブ
音楽性から背を向けたプロジェクトではあったが、80年代中盤、松田聖子や中森明菜の先導の下、過剰な作品主義に走りそうだったアイドル音楽シーンにおける「ポップの復権」という意味もあった。福永恵規『風のInvitation』(86年)のストレートポップ感や、河合その子『青いスタスィオン』(同年)のエレガントポップ感は忘れられない。逆に言えば「ポップの復権」としての取り組みが、翌87年には早くも潰えていた感じがするのが、返す返すももったいなかった。イチオシは新田恵利『冬のオペラグラス』(同年)。
第10位:森高千里
ある意味ではトップ3に食い込むが、やはりこの人は「90年代のヒロイン」で、80年代の小泉今日子からバトンを受けた人だと思う。ただ小泉今日子以上に、商品性・話題性に向けられすぎたきらいがあり(平たく言えばタイアップシングルの多さ)、こういう場所で振り返るときに評価が難しくなる。個人的にはアルバム『非実力派宣言』(89年)の『夜の煙突』を好んだが、それはこのランキングとは別の物語だろう。
なお、次点は本田美奈子(イチオシ『CRAZY NIGHTS』87年)とさせていただきます。
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2022.12.17