2023年 3月17日

闘うロックバンド《U2》の終わりなき旅!今までの代表曲をセルフカバーした理由は?

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U2のアルバム「ソングス・オブ・サレンダー」がリリースされた日
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「ソングス・オブ・サレンダー」はセルフカバーアルバム


2023年3月17日、U2はアルバム『ソングス・オブ・サレンダー』をリリースした。

本作は純然たる新作アルバムではなく、今までリリースしてきたバンドの代表曲をセルフカバーした企画色が強いアルバムとなっている。

そのリリース形態もスーパー・デラックス・エディションが40曲入り、デラックス・エディションが20曲入り、通常盤は16曲(日本盤はボーナストラック含む17曲)入りというボリューム満点の内容だ。1980年のデビューから積み重ねた長いキャリアの中から代表曲やヒット曲を選んでいるのだから、ボリューム満点になるのも当然だろう。

そして、その内容はアコースティックな演奏で録音されており、若い頃よりも声が太くなったボノの落ち着いた声が印象的な穏やかな音像の作品になっている。

ベテランアーティストがセルフカバーアルバムを作ることは特段珍しいことではない。特にデビュー間もない頃の作品における演奏や録音の質に満足できず、今現在のスキルとスタジオ技術によって音源化したいという気持ちがセルフカバーに向かわせるのだろう。

しかし、ファンはセルフカバーの新たな音源も最初は新鮮に聴くものの、やはり耳馴染んだ演奏と歌に愛着を感じてしまい、“やっぱりオリジナルヴァージョンが好き” ということになりがちなのではないだろうか? かと言って、原曲のアレンジを現在の演奏能力とスタジオワークで再録音したとしても、さほど新鮮さは感じられない。

そう考えると説得力のあるセルフカバーアルバムを作るのは、我々が思っている以上に難しいことなのではないだろうか?

ウクライナに対する最大限のサポートの意、「ウォーク・オン(ウクライナ)」


まず、ファンなら気になるところは、過去のどんな曲がセルフカバーされているのか… だろう。私が聴いた通常盤でもボーナストラックを含め17曲が収録されている。ヒット曲や代表曲はおおよそ網羅されてはいるものの、完璧にフォローできているとは言い難い。何せキャリアが長いバンドであるから仕方ないところなのだろう。

そして、その選曲もアコースティックヴァージョンを作ることを考えると、おのずとスローな曲やバラードが中心となるはずだ。しかし、本作では「アイ・ウィル・フォロー」や「プライド」、「ザ・フライ」が取り上げられているばかりか、「ブラディ・サンデー」や「ヴァーティゴ」といった元々はハードに演奏されていた曲まで取り上げられている。こうした激しい曲については、原曲よりもテンポを落としたり、音数を減らし、かなり新しい印象を与えている。

また、歌詞に関しても、いくつかの曲で原曲から手直しがされているものがある。その代表的な楽曲が「ウォーク・オン」だろう。原曲はアウン・サン・スー・チー氏に捧げたことでも有名だが、本作においては、「ウォーク・オン(ウクライナ)」というタイトルになっており、

 自由のために立ち上がること
 それはあらゆる中で最高の行為
 戦うか逃げるか
 僕らは自由のために生まれ
 自由のために死ぬんだ

―― と歌われ、ウクライナに対する最大限のサポートの意を表している。

闘うロックバンド=U2が今もなお健在


本作を作るにあたって、単純にU2がレイドバックした作品を作りたいだけであれば、原曲がアップテンポの楽曲は選択しなかっただろうし、歌詞についても現在の世界情勢に対するメッセージを込めるために大幅な書き直しをしたことからも、単純にアンプラグドがやりたかった訳ではないことは明らかだ。

アコースティックで穏やかな音像の本作だが、バンドの内面は今までと変わることのない攻撃的で挑戦的な姿勢に貫かれている。そうした所謂 “U2らしさ” は私たちファンにとってはたまらない魅力で、“闘うロックバンド=U2” が今もなお健在であることを示している。

それでは、本作の制作意図は一体どこにあるのだろう?

ギタリストであり、本作制作の中心的存在を担ったジ・エッジは、

「音楽はタイムトラベルを可能にする。そこでこれらの曲を現代に持ち帰り、21世紀風に再構想したなら、どんな恩恵がもたらされるのか否か、それを知りたいと僕らは思い始めたのだ」

ーー と語っている。

また、ボノは2022年に自身の回顧録『Surrender:40 Songs, One Story』を発表している。この回顧録の各章のタイトルの多くが本作の楽曲のタイトルと重なっている。



こうしたジ・エッジの発言やボノの回顧録からも分かるとおり、本作のセルフカバーは、40年以上にわたって活動してきたバンドの道程を振り返り、俯瞰で見るための作業だったのではないだろうか? そのためには、楽曲の装飾を極力取り除き、素っ裸の楽曲の本質を見抜くためにアコースティックヴァージョンを作ることが必要だったと私には思えてならない。

俺たちに明日はある。U2が向かう未来とは?


そして、振り返り作業を行ったU2が、これからどこに向かうのかがファンならずとも気になるところだ。果たして、U2はどこに向かうのだろうか?

昨年秋、『ニューヨーク・タイムズ』誌に掲載されたボノのインタビューにおいて、「来るべき新作はロックンロールアルバムにしたい」と語られている。また、ジ・エッジも最近のインタビューで、「ギターの力を借りた音楽を作るのは素晴らしいことだし、大歓迎だ」と語っている。

こうした発言からも次の新作は、ロックンロール、ギターサウンドに向かう可能性はとても高いように感じる。

40年以上積み重ねてきたキャリアは、経験や様々なスキルと同時に垢や埃もかなり溜め込んでしまったことは容易に想像がつく。

そうした垢や埃を綺麗さっぱりと洗い流す作業が本作『ソングス・オブ・サレンダー』であり、ロックンロールの終わりなき旅を続けるための大切な経由地だったと考えることができるのではないだろうか?



長い旅の疲れをアコースティックサウンドで心地良くリフレッシュした “最強ロックバンド=U2” が、新鮮な気持ちで取り組むロックンロールアルバム! もう、想像するだけで私は物凄く興奮してしまう! そして、相変わらずのメッチャ激しい振り幅もU2らしくて最高だ!

そして、彼らの終わりなき旅はまだまだ続く。その旅の途中で、もう少し頻繁に日本に寄り道して、私たちにライブを体験させてくれたら言うことはない。

ライブでも披露されるアコースティックセットを想像しながら、本作『ソングス・オブ・サレンダー』を楽しみながら、彼らの終わりなき旅の行く末に注目したい。

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2023.03.31
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カタリベ
1972年生まれ
岡田 ヒロシ
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