2023年 2月27日

メガデス【武道館公演ライブレポ】マーティ・フリードマンとの共演は24年ぶり!

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メガデスの来日公演「メガデス・ジャパン・ツアー 2023」が日本武道館で開催された日
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80年代当時の過激で尖ったメガデスの残像


「メガデス」と「武道館」ーー。

違和感の正体は80年代の「過激に尖ったメガデス」の残像だった。

メガデス初の武道館公演の告知を見た時、「メガデス」と「武道館」という2つのワードが、自分の中で結びつかずにいた。勿論、今回の公演がバンドとファン両者にとって、歴史的な意味を持つことは良く理解しているつもりだ。

メガデス絶頂期の1993年に予定された武道館公演は諸事情で流れてしまい、30年後という節目で遂に実現したのだから、メタルシーンのみならず話題になるのは当然だろう。それでも「あのメガデスが武道館で!?」という感覚を抱いたのは、マイノリティの象徴としての存在だった、80年代当時の過激で尖ったメガデスの残像が、未だ脳裏に刻まれているからに他ならない。

今やメガデスがビッグネームとなり、メタルの範疇で音楽性の幅を広げても、根底にはメガデスの総帥、デイヴ・ムステインが生み出した「インテレクチュアル・スラッシュ」のDNAが、濃度を薄めても脈々と流れていると感じてきたからだ。

そうした視点でいえば、今回の公演は個人的に「スラッシュ・メタル史上初の日本武道館単独公演」と位置づけたい。スラッシュBIG4と称されるメタリカ、アンスラックス、スレイヤーのいずれもが、過去に武道館公演を行っていないのであれば、その称号を与えても差し支えないはずだ。

80’sの煌びやかなメタルへのアンチテーゼの象徴とも言えるスラッシュ・メタルを生み出したひとつのメガデスが、ロックの殿堂、日本武道館の地で轟音を奏でるのは何とも痛快な出来事であり、HM/HRシーン全体においても意義を持つライヴになったといえるだろう。

ソールドアウトの武道館!ベストタイミングでの日本への帰還


様々な思いが交錯する日本武道館は、3階上段までぎっちりと観客で埋まっており、月曜日にもかかわらず何と満員御礼のソールドアウト。その年齢層は見た限り想像以上に高く、年季の入ったメタラーがこぞって集結した印象だ。久々のメタルライヴ参戦のために武道館へ来場した方々も少なくないだろう。

30年の時を経て叶った約束の地でのライヴ、事前告知されたマーティ・フリードマンのゲスト出演、久々に声出し可能な状況、WOWWOWによる生中継とネットを通じての世界同時生配信など、話題になる要素はいくつもあったとはいえ、高騰するチケット代も考えると、正直その売れ行きには驚いた。

その理由はひとつでないにしても、初期インテレクチュアル・スラッシュ路線への回帰を高らかに示した最新作『The Sick, The Dying…And The Dead!』の高評価こそが、大きな要因となったに違いない。終演後全商品が売り切れたグッズ売り場の長蛇の列も、今回のライヴがどれほど期待されたものだったのか、象徴するかのようだった。



メガデスの「真価」を見せつけた唯一無二のライヴパフォーマンス!


開演前から熱気を帯びた場内は、暗転と同時に怒号のような歓声に包まれ、ファンの間で賛否を呼んだマーティ在籍時、最後の作品となった『RISK』収録の「Prince of Darkness」がSEとして流れ始めた。当時覚えた違和感は不思議と無く、メガデスの世界へと誘ってくれる。

SEが轟音とともに突如鳴り止み、演奏されたのは、これまたマーティ時代からのナンバー「Hanger 18」だ。マーティはまだ登場せず、デイヴ・ムステイン(Vo,G)、キコ・ルーレイロ(G)、ジェイムズ・ロメンゾ(B)、ダーク・ヴェルビューレン(Ds)からなる4人の現行メンバーが、メガデス屈指の名曲を武道館の空間にかき鳴らしていく。

百戦錬磨でツアーをこなしてきたバンドの演奏は実に鋭くタイトだが、それ以上に驚かされたのは1曲目にも関わらず、音作りが難しい武道館とは思えぬほどクリアで完璧なバランスの出音だ。複雑なリズムチェンジを繰り返す難解な楽曲が、一寸の曇りもなくダイレクトに耳に突き刺さってくる。

僕が初めてメガデスを観たのは1988年の2回目の来日公演だったが、速い曲を演奏すると、曲の輪郭が不明瞭になってしまう音像だった記憶がある。PA技術の進化も著しいのだろうが、その違いは圧倒的で、同時にこの日のライヴがいつも以上に凄まじいものになることを早くも予感させた。

ステージの背後には、巨大なLEDのスクリーンが設置されている。80年代当時は、会場で買ったパンフに載ったライヴ写真で初めてステージセットを確認できたけど、今はSNSで事前にネタバレするため、ともすればライヴでの感動が半減してしまいがちだ。メガデスにしても、海外でのツアーの模様が動画で無数にアップされており、事前に知っていたけれど、今回のセットは五感を強烈に刺激する仕掛けが施され、実際に体感するとその迫力は想像を凌駕してくる。

スクリーンには演奏曲に合わせた様々な映像が流れ、イマジネーションを掻き立てられる。冷徹でシニカルな視点を通じて、戦争や政治といったシリアスな題材を多く扱うメガデスだけに、戦場、兵士、独裁者といった類の映像が次々と映し出されていく。ウクライナ戦争が現在進行形の今だからこそ、メガデスが奏でる轟音と相まって、そこに内包されるメッセージがいっそうリアルに響いてくる。

セットリストは、近年10数年ぶりに加えられた「Dread and Fugitive Mind」へと移り、長きに渡るバンドの歴史を網羅的にまたぎつつ、比較的コアなファン層のツボも突いた楽曲がセレクトされ、次々と披露されていく。クリアな音像の中で熱くタイトに奏でられ、音源以上の迫力ゆえに、楽曲が発表された時期は違えど、メガデスの世界観の範疇で地続きなモノとして伝わってくる。

近年咽頭がんを患いファンを心配させたデイヴは、白いシャツ姿でフライングVを構え複雑なリフとリードを奏でながら、同時に歌を通じてメッセージを吐き出していく。比較的コンディションも良さそうで、MCでの上機嫌な笑顔から長年の悲願実現の喜びが、ひしひしと伝わってくるようだ。

ヴォルテージは最高潮! 24年ぶりのマーティ・フリードマンとの共演


豊洲PIT公演では演奏されなかった「A Tout Le Monde」でようやくクールダウンすると、スクリーンには初々しいマーティの姿が映し出される。メガデスのオーディション時の映像だ。いよいよマーティの登場を察した場内は、大歓声とともに期待と緊張に包まれた。

デイヴの呼び込みを受けたマーティが、当時の出で立ちとギターで颯爽と登場。マーティ時代の「Countdown To Extinction」が始まった。それぞれの道を歩んだ長い歳月を埋めるかのように、ミッドテンポのこの曲でお互いのヴァイヴを確かめていく。

試運転を完了したマーティとメガデスは、アクセルを一気に全開にするように「Tornado Of Souls」を爆発させる。名作『Rust In Peace』の中でも人気の高いアップテンポのメタルナンバーに、客席のあちこちから悲鳴にも似た叫びが起こった。

スクリーンに映し出された「トルネード」の回転模様のごとく、メガデスとマーティの演奏は勢いを増し、誰もが待ち構えた中間部の長尺ギターソロに差し掛かると、会場内のヴォルテージは最高潮に達した。マーティが構築した決めのフレーズがきっちりと紡がれていく姿を観ながら、その一音一音を聴き漏らさぬように味わっていると、1991年に観たマーティ加入後初の来日公演の記憶が思わず脳裏をかすめた。そうしたオールドファンの方々も多かっただろう。

もう1曲「Symphony Of Destruction」が演奏され、マーティは大喝采の中でステージから颯の如く去っていった。最後に交わされたデイヴとの抱擁に、バンドの歴史を知る誰もが胸を熱くしたに違いない。



「インテレクチュアル・スラッシュ」の真髄が武道館に響き渡る!


ノスタルジーに浸る会場内の空気を切り裂くように、最新作から「We’ll Be Back」がもの凄い勢いで始まった。メガデスの原点にして本質、「インテレクチュアル・スラッシュ」の真髄を剥き出しにしたのはここからだ。最新作の中でもとりわけ初期の要素が色濃い必殺の激速ナンバーが、武道館をスラッシュゾーンへと塗り込めた。

メガデスならではの高度で複雑なメタルを再現するには、デイヴはもちろんのこと、現メンバーの力量によるところは大きい。流麗なギタープレイを次々と繰り出す日本で大人気のキコに加え、元ホワイト・ライオンという経歴をふと思い出し、不思議な感覚に見舞われたジェイムズも健闘していた。

中でも、現行メガデスの駆動力を格段に上げた最大の立役者はダークのドラミングであろう。初代ガル・サミュエルソンの技巧と、故ニック・メンザのパワフルで目で楽しませるドラミングを兼ね備えた卓越したプレイは、とりわけ光っていた。

メガデス流儀のスラッシュ波状攻撃に放心状態の中、ショウはいよいよ終盤を迎え、名曲「Peace Sells」ではバンドのキャラクター、ラトルヘッドが登場。「Peace Sells...But Who's Buying?」の大合唱が巻き起こる会場を煽り大いに盛り上げた。

最後はもちろん、マーティ時代の代表曲「Holy Wars… The Punishment Due」だ。現行の4人だけで演奏されたが、歴史に残る中間部のクリーントーンのソロだけは、マーティ本人に登場してもらいたかったのが少々悔やまれる。

この日はスペシャルなライヴだけに、いつもより長いかと思いきや、全16曲、約90分で全編が終了。メガデスらしくだらだらしないコンパクトなショウは、もっと観たい! と思えるうちに大団円を迎えた。

30年前に置き忘れた歴史を、当時の仲間であるマーティとともに回収しながらも、現在と過去のメガデスを絶妙に交錯させた、バンド史に残る珠玉のライヴパフォーマンス。過剰なノスタルジーにフォーカスするのではなく、今のメガデスの充実ぶりを前面に押し出した構成に、デイヴの意地と自信が感じられた清々しい一夜だった。

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2023.03.14
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カタリベ
1968年生まれ
中塚一晶
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