ザ・ローリング・ストーンズの『ダーティ・ワーク』を買った日のことは、よく覚えている。あのとき僕は16歳で、ストーンズに強い憧れを抱いていた。でも、手元にあるのは友人が録音してくれたカセットテープ3本だけ。もっとストーンズを知りたい。できれば新曲がいい。僕はニューアルバムが発売されるのを、ずっと心待ちにしていた。
発売当日、レコード店のカウンターで、僕は予約しておいた『ダーティ・ワーク』を受け取った。ジャケットには真っ赤なセロハンが被せてあり、その上に悪そうな(悪趣味な)ステッカーが貼ってあった。これがストーンズのニューアルバムなのかと思うと興奮した。帰りのバスの中で、はやる気持ちを抑えながらライナーノーツを読んだ。そして、家に着くとすぐステレオの前に座り、レコードを取り出し、ヘッドホンをしてから、慎重に針をおろしたのだ。
ノックアウトだった。「ワン・ヒット」、「ファイト」、「ハーレム・シャッフル」と3曲つづいた時点で、僕はあまりのかっこよさに叫び出したくなっていた。怒り狂うミック・ジャガーのヴォーカル。その後ろでは2本のギターがスリリングに絡み合っていた。ドラムとベースもタイトでシャープ。まるで鋼のようだった。とにかく怒っているというのがアルバムの印象で、楽しさや陽気さといったピースフルな空気は皆無だった。そして、それまで聴いてきたどんな音楽よりもドスが効いていた。
これは不良少年の音楽ではなく、自らの手を汚してきた大人の不良達の歌なのだと思った。とりわけレゲエのビートが効いた「トゥー・ルード」は、そんな彼らがつるんでいる様子が目に浮かぶようで、ガラが悪いにもほどがあった。後日、友人に「ストーンズってこえーな」と言われたが、まさにその通りで、こちらとしてはぶっとばされないように気をつけねばならず、そんなところがたまらなく魅力的だった。
当時からミック・ジャガーとキース・リチャーズの不仲説は耳に届いていたが、他にもチャーリー・ワッツのアルコール中毒、デビュー前からの仲間であるイアン・スチュワートの死など、『ダーティ・ワーク』はストーンズにとってはきつい時期に作られたレコードだった。そんな普通じゃない状況が、このアルバムを過度に攻撃的なものにしたのかもしれない。
だから、きっと評価が分かれる作品だと思う。実際、ミック・ジャガーが『ダーティ・ワーク』をクソミソにけなしているのを、どこかの雑誌で読んだ記憶もある。でも、16歳で出会うには最高のアルバムだった。これをきっかけに、僕は加速度的にストーンズにのめり込み、過去のアルバムを片っ端から聴きあさることになる。そして、ストーンズがビートルズと同様に、音楽だけでなく存在そのものを聴き込むべき対象であることを理解するのだ。
『ダーティ・ワーク』は今でも大好きなレコードだ。この後に出たどのストーンズのアルバムよりも気に入っている。あの日買ったレコードに針をおろせば、いつでも乱暴に、突き飛ばすように、僕を16歳にしてくれる。
2018.03.24
YouTube / The Rolling Stones
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