さて、私の新刊
『イントロの法則80's~沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)が絶賛発売中です。80年代の邦楽ポップスをイントロから分析していくという、おそらく日本初、いや、もしくは世界初の「イントロ評論本」。
というわけで、新刊発売記念の特別企画として、「80年代イントロなんでもベスト3」と題して、色んな評価基準で、80年代イントロの「ベスト3」を決めていくこの企画。その第3回は、「コミカル・イントロ」ベスト3。
「コミカル」―― つまり、コミックソングのように笑えるイントロ。イントロが流れた瞬間、プッと笑えてしまう… けど、曲全体として素晴らしい、そんな3曲を選んでみました。
第3位:チェッカーズ『ギザギザハートの子守唄』作詞:康珍化
作曲:芹澤廣明
編曲:芹澤廣明
発売:1983年9月21日今や耳に馴染んでしまったイントロですが、あの「♪ シド・ッド・ッド・ッド・ミー・ッド」(キーは Em)という、珍奇なイントロのインパクトは絶大でした。何といっても、メンバー自身がこう語っているのですから。
―― そして、師匠(註:この曲の作・編曲を手掛けた芹澤廣明)はちょっと間を置いて、真剣に二曲目の「ギザギザハートの子守唄」のメロディーを弾き始めた。やけに熱が入っている。俺は最初、「師匠何やってんの? ギャグやってんの?」って感じだった。だって、この曲、俺の耳にはモロに小林旭さんのコミックソング「自動車ショー歌」に聞こえたんだから(高杢禎彦『チェッカーズ』-新潮社-)
それでも、やはりこのイントロの功績は大きかったと思うのです。さらに言えば、このイントロがあったからこそ、チェッカーズは大ブレイクしたと思うのです。
というのは、このイントロは、とてもオリジナルな感じがする。具体的に言えば、原典が洋楽にある感じがしない、80年代日本オリジナルなもので、それがイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)以降の、洋楽原理主義から解き放たれた80年代音楽シーンに、ぴったりハマったと考えるからです。
実は、チェッカーズのスタッフは、先日お亡くなりになった秋山道男以下、いわゆる「YMO人脈」で固められていました。つまりは、そういうこと。
第2位:C-C-B『Romanticが止まらない』作詞:松本隆
作曲:筒美京平
編曲:船山基紀
発売:1985年1月25日とにかく一度聴いたら忘れられない、異常にキャッチーなイントロです。
まず「イントロのイントロ」として、「♪ ベベ・ベベ・ッベ・ベベ~」というベースが2小節。その後、強烈なシンセのフレーズが入ってくる――「♪ ッミ・ミミ・ミッミド・ッドラッ・レー・ソミ・ー」(キーは Em)。
シンセがびんびん鳴っているのだから、聴感上は YMO的なはずなのですが、しかし「♪ ッミ・ミミ・ミッミド・ッドラッ・レー・ソミ・ー」というメロディーが、ものすごくベタなので、機械的で冷徹なテクノではなく、どことなく親しみやすい。
川瀬泰雄他『ニッポンの編曲家』(DU BOOKS)によれば、このイントロの制作過程が実に面白いのです。アレンジの船山基紀の追想。
――(このイントロについて)物議を醸したんですよ、あれ。スタジオが凍りついたという。(註:筒美)京平さんと渡辺忠孝さん(註:ディレクター。筒美の実弟)がレコーディングの現場に来ていて、プレイバックの時に、イントロのフレーズが気に入らなかったみたいで、「やっぱりこういう曲は船山くんじゃないな」ってうしろで言ってるのが丸聞こえなの(笑)。打ち込みのサウンドで京平さんとしてはかっこいい洋楽みたいなサウンドを期待していたところに。♪ テテテ・テテ・レッテレ・テーレテーっていうあのフレーズが期待はずれだったみたいで(笑)。
しかし、その場に出てくるのが C-C-B のメンバー。
―― 笠くんとベースの渡辺(英樹)くんがやってきて、「僕たちこのイントロが好きなんですけど」って言ったの。そしたら京平さんかたーちゃん(註:渡辺忠孝)が「あぁそう? じゃ、これでやろうか」って言ってその場はとりあえず収まって。
結果からすると、このイントロが奏功して大ヒットとなったわけで、メンバーの助言が船山基紀を助けた格好となったわけです。その結果に対して、筒美京平が、見事に KY な発言をするのですが、それについては私の『イントロの法則80's~沢田研二から大滝詠一まで』をご一読ください(と宣伝)。
第1位:少年隊『デカメロン伝説』作詞:秋元康
作曲:筒美京平
編曲:新川博
発売:1986年3月24日80年代を代表するコミカル・イントロ。空前絶後の「口ギター+階名イントロ」。口ギターとは「♪ ワカチコ!」で、階名イントロとは、イントロで歌われる「♪ ドレ・ミラ・ーミ・レド・ラシ・ドミ・ード・ラソ」。
まず「♪ ワカチコ!」という、この呪文のような謎のフレーズの由来は諸説あるが、私の認識では、ワウワウペダルを付けたギターのカッティングの音の口真似であって、TBS『ザ・ベストテン』でも、実演も交えてそのように説明されたと記憶している。それが巡り巡って、お笑い芸人「ゆってぃ」の「ちっちゃいことは気にするな それワカチコ・ワカチコ!」になる。
そして、最高にコミカルなのが、イントロのメロディーを階名(ドレミ)で歌いこむ「♪ ドレ・ミラ・ーミ・レド・ラシ・ドミ・ード・ラソ」である。どこをどうつつけば、こんなアイデアが出てくるのでしょう。
作詞は秋元康で、作曲は筒美京平。当時まだ新興勢力の作詞家と、作曲界の重鎮の組み合わせ。と聞くと珍しいコラボのように思われるかもしれませんが、このコラボによる作品は案外多く、100曲近くあるといいます。
階名で歌うイントロという珍奇な発想も、小泉今日子だ、とんねるずだ、おニャン子クラブだと、やりたい放題の時代の寵児「1986年の秋元康」の仕業だったのかもしれません。
―― 以上、80年代「コミカル・イントロ」のベスト3をお届けしました。
新刊
『イントロの法則80's~沢田研二から大滝詠一まで』では、こういう話を、こういう筆致で、でももっと長文でこってりと分析していますので、ぜひご一読下さい。
2018.10.26