山瀬まみ「メロンのためいき」松本隆とユーミンが描く世界を歌ったデビューシングル

キャッチコピーは「国民のおもちゃ新発売」？

山瀬まみさんが歌っている姿を初めて見た時に、その歌声が大人びているのに驚いたことを覚えている。デビュー曲の「メロンのためいき」は、アイドルソングらしい可愛い曲名だが、そのメロディや歌詞にはどこかアンニュイさを感じさせる。

CDジャケットはピンクの背景の前で、ピンクの服に、髪の毛をくるくるに巻いてポニーテールにしてやわらかく微笑む山瀬まみの写真。黄緑色の文字で書かれた「メロンのためいき」のタイトルが映えて、まるでファンシーグッズのようだと思う。

ただ聞いてみると曲の方はやっぱりジャケットが描いた “アイドルちっく” なイメージ、「国民のおもちゃ新発売」というキャッチコピーよりももっとずっと大人びていてみずみずしいと思うのだ。

松本隆×呉田軽穂が描く恋の絶妙な間合い

作詞：松本隆、作曲：呉田軽穂。歌詞の世界の中で、映画のように描かれる、雨のプールサイドに佇む２人の様子。「メロンのためいき」を聞いていると「世界にたった２人だけ」と思える恋の絶妙な間合いを思い出す。そういう瞬間の目線の交わし合いや心の機微が丁寧にすくいとって表現されていると思うのだ。

歌詞の中に出てくる、「くちびるが青ざめ」たり、「少しだけ胸が震えている 何も怖くないのに」という言葉は、ポップな恋のときめきとはまた違う人と、心と心を交わらせることに伴う緊張感を感じさせる。

　太陽がご機嫌斜めなの
　濡れた髪に雨粒
　くちびるが青ざめているのは
　泳ぎ疲れたせいよ

かんかん照りのハツラツとした夏の太陽というよりも、「太陽がご機嫌斜め」から始まるアイドルソング。プール上がりの濡れた髪、太陽を雲が遮り肌寒くなる。

　飛び込み台へと座り
　あなたと雨雲見上げた

この瞬間、たぶん２人の間には言葉はなくて、飛び込み台に座り、曇った空を見上げる。恋を感じる瞬間って、言葉を交わさずとも何となく間合いが揃っていくあの奇妙さにあると思うのだ。

　蒼いメロンのためいきみたいなキッスを
　頬に素早くあげたらはにかむかしら
　白いタオルにくるまり
　肩を寄せれば
　Fall In Love With You
　お願いよ冷たくしないで

サビで、キスをしようか企んでみるまみ。そこには大胆不敵なフレッシュさよりも、「蒼いメロンのためいき」という表現に宿る憂いがある。人との心の距離が近づく瞬間って、そういう不安な気持ちと隣り合わせな気がする。

アイドルだからといって、都合のいい漫画のヒロインのように眩しいキスだけプレゼントしてみたり、過剰に恥じらったりもしない。相手に近づきたいという気持ちとその反対の気持ちが揺らぎ、手触り感のある恋の描き方をしている。同じ白いタオルにくるまって雨を避けながらお互いに恋を確信するけど、そこで出てくる言葉は「お願いよ冷たくしないで」。

―― 好きって、やっぱりちょっと不安でこわくて、やさしいものだ。

憂いと幸福が込められた夏の恋の歌

２番の歌詞では１番に続き、恋するときのスローな時間の感覚をそのまま映し出す。

　すこしだけ 胸が震えている
　何も怖くないのに
　人気ない雨のプール・サイド
　水の輪を数えてた
　このまま黙っていたら
　時間がとぎれてしまうわ

　赤いイチゴを一粒
　ほお張るように
　好きと言えずに
　言葉を噛み締めてるの
　そうよあなたは何にも感じてないの？
　Fall In Love With You
　お願いよ瞳を見つめて

沈黙の方が、多くのメッセージを発することはしばしばある。雨のプールサイドで、水の輪を数えている間に込み上げてくる自分の感情を確かめるのは、長く長く感じる一瞬だ。どちらが沈黙を破るともなく、言葉を噛みしめ、相手に「何も感じてないの？」と訴えたくなる心の内。次に目があった瞬間に、何かが通じたことがわかる気がする。

何かを語らずとも、不思議と通じていく恋の瞬間があることを「メロンのためいき」は雨のプールサイドを舞台に描いた。曲の中では、何かを話している様子もなくて、ただ、女の子の心情と景色の描写だけでその空気を伝えている。

これまで感じてきたものよりも、もっと複雑な感情で他者との心の距離が近づいてしまう現象に出会った、憂いと幸福が込められた「メロンのためいき」は、私にとって他のアイドルのサマーソングとはちょっと毛色が違って、成長を感じさせる夏の恋の歌なのである。

大人の山瀬まみが歌う「メロンのためいき」も聴きたい

さて、10月２日は山瀬まみさんのお誕生日である。『世界ウルルン滞在記』『新婚さんいらっしゃい！』や『天才！志村どうぶつ園』で、幼い頃からテレビに出る姿をずっと拝見しているが、私は山瀬まみさんがテレビで歌っている姿は観たことがない。

昔の映像を初めてネットで観た時は、あまりのかわいらしさに胸が高鳴った。プラスチックのグリーンの大きなイヤリングをつけて、メロンソーダのような衣装を身にまとった姿はまるで魔法少女のようだった。

もう一度マイクを持って大人のまみさんが歌う「メロンのためいき」が聴けるのを心待ちにしている。

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2021.10.02