私が “初マイルス” として愛聴したジャズ界の巨人マイルス・デイヴィスの『トゥトゥ』には、スクリッティ・ポリッティの「パーフェクト・ウェイ」の絶妙なカヴァーが収録されてましたが、マイルス・デイヴィスによる80年代の絶妙なポップソングのカヴァーといえばアルバム『ユア・アンダー・アレスト』に収録された2曲を忘れてはなりません。
スクリッティ・ポリッティに比べると “どメジャー” なマイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」とシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」です。
まずは「ヒューマン・ネイチャー」。原曲に比べるとかなりゆったりとしたテンポです。イントロはまんま「ヒューマン・ネイチャー」なのでマイケル感漂いますが、マイルスのペットが始まった瞬間、マイルス・ワールド。どちらも大物なのでこの「時が止まった」ような感覚がいいですね。音数少なく、いいメロだけ切り取って吹くマイルスのペットもいつもより歌っているように聴こえます。
そして「タイム・アフター・タイム」。もう断言してしまいましょう。無伴奏のトランペットだけで始まる最初の2秒間だけで昇天です。すぐさま曲の主題に突入し、さっさとサビにいった後は独特のマイルス節。音数の少ないあの無双の「間」はこういうキャッチ-なメロディのポップ・ソングの中ではときに必殺になるのですね。最初の2秒間で昇天してしまうのでその後のことは実はあまり覚えてないんですが… とにかく、この名曲の哀愁と醍醐味を頭の2秒間だけで表現(しかもサビメロではない)していることがスゴイ!
速弾きなどテクニカルな演奏ができるプレイヤーが上手いと思っていた私は、こういった「間」を自在に駆使できる音楽を前に、改めて名演奏者の凄さみたいなものを知ったような気になりました。ギタリストでいうとキース・リチャーズのあの独特の「間」とか(本当にあまり弾いてないだけのときもあるかもしれませんが w)。
80年代のマイルスはこの3曲のカヴァーが強烈過ぎて、あまり他の作品の印象がありません。しかもそのうちの2曲は有名曲すぎて尻込みしそうなところ(巨人なんで尻込みするわけないですが)、巨人は楽々と片付けているような印象さえ感じます。
90年代のヒップホップへの挑戦など、発売時よりは再評価がなされていると思いますが、この80年代のさりげなくもベタな曲のカヴァーも再評価されるといいなあと思う今日この頃です。
2016.12.16
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