洋楽ロックを中心に聴いていた80年代中頃、デイヴィッド・サンボーンやパット・メセニーなどをきっかけにジャズ・フュージョンの世界にちょっと興味を抱いていました。スティーリー・ダンやAORのアーティストのセッション・ミュージシャンにジャズ畑の人が多かったからというのもあります。そうはいってもジャズの知識がなかったので、とりあえずはレンタルなどでビッグネームから入ることに。ビッグネームといえば...で、マイルス・デイヴィス。ワーナーに移籍して初のアルバム『TUTU』が私にとっての初マイルスでした。
80年代には4度の来日公演をおこなっているマイルス。テレビでもちょくちょく公演の模様を放送していたのを観たりしていたので、当時抱いていた印象は「ジャズの巨人と言われている割に他の人ばかり演奏していて、たいしてペット吹かないし、音は掠れてるなあ」といった感じ。ミュートを知らない当時の私が怖い。
当時のいわゆる「ポップマイルス期」は勿論ビバップ~モード~エレクトリック・マイルス期(50~70年代)に比べると評価の高くない声が多かったのもあって、この『TUTU』を聴くのは恐る恐るといった感じだったのです。しかし聴いてみるとこれがカッコイイ。ビバップとかモダンジャズをちゃんと聴いたことがなかったのでよけい入りやすかったし、わかりやすかったのです。マーカス・ミラーによるフュージョン・ファンクがベースにあるんですが、全体的にロックっぽい。
冒頭のアルバムタイトル曲『TUTU』の緊張感あふれるイントロ部など、プログレのコンセプトアルバムがはじまるかのよう。そして私が大好きなスクリッティ・ポリッティの「パーフェクト・ウェイ」も原曲を凌駕するくらいの名解釈。曲中盤でのダークなインプロ展開にはゾクゾクします。続くレゲエ・スタイル「ドント・ルーズ・ユア・マインド」も非常にクール。
80年代も後半にさしかかってたので全体的にシンセがちょっとトゥーマッチな感じがしましたが、トータルで◎、満足して愛聴してました。ただこれを愛聴していてもモード期やエレクトリック期にとりかかるのに、またイメージをリセットして臨まなければならないので、マイルスの旅は本当に果てしない、エンドレスです。
あと、忘れてはならないのがジャケット。マイルスのジャケはその音楽にも勝るほどの魅力があるものが非常に多い。アカデミー受賞者でもある石岡瑛子によるこの『TUTU』のジャケもスゴイ存在感。すでにカリスマ感やオーラがあるパファーマーを切り取ってジャケットに落とし込んで、より新しいイメージを作り上げるのは本当に難しいことなのでしょうけれども、レーベルを移籍した新しいイメージのマイルスがここにはあります。全キャリアの中でも白眉のジャケットではないでしょうか。
結局、この『TUTU』以降、私にとって『TUTU』を超えるアルバムはありませんでした。キャリア全部の中ではそんなに評価されてないかもしれませんが、私にとっては外せない1枚です。
2016.12.26
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