それにしても日本人は実にバラード好きが多い。ご多分に漏れず私もそうである。
ロックの源流はブルース、そして日本の心は演歌。以前マーティ・フリードマンが「演歌はロックだよ」と、石川さゆりの「天城越え」を弾いたことがあったが、そんな日本の美意識のひとつ、侘び寂びの効いたバラードは聴く人の心を掴むのかもしれない。力強い抑揚感に繊細さを持ち合わせるバラードはHR/HMならではでないかと。
まあHR/HM好きとしてはオリジナルアルバムの大半がバラードだったら、それはそれでまた困ってしまうんですが…
バラードの定義というのは案外と曖昧なのだが、曲のテンポと悲愴感漂う美しいメロディーラインは外せない。亀田誠治さんによると主にJ-POPではBPM90以下がバラードゾーン。
またHR/HMにバラードは必要ないという考えもあるようだが、それはある意味間違ってはいないんじゃないかとも思う。しかし、ゴリゴリの曲だけでは自ずと聴く人を選んでファン層を狭めてしまうのではないだろうか?
80年代から90年代にかけて音楽業界も群雄割拠、HR/HM界も押し寄せる生き残り競争の波に揉まれて、バンド自身の曲に対する意思よりもレーベル側が売れそうな曲をと考えるようになるのは必然。商業的にもう少し幅広い層にも聴きやすい曲をと考えるとバラードという選択になったのかもしれない。
当時HR/HMバラード集の2枚組コンピレーションアルバムなんてのもあったし、実際にバラード曲のヒット率は高かったように思う。しかし、HR/HMに於いてはバラードのイメージが強くなってしまうことがバンド生命を左右してしまうこともある。
その良い例はナイト・レンジャーではなかったか。そして、メタリカにおいても「メタリカにバラードはいらない」と批判されたことがあった。痛し痒しとでも言ったらいいのか、何とも悩ましい世界である。
―― とは言え、ロックバラードの名曲は多い。当然、バラード曲によって名を馳せたバンドもあった。その代表格とも言うべきは、2017年8月渋谷WWWで27年ぶりの来日公演を行ったスティールハートであろう。
1stアルバム『スティールハート』(1990年)収録のバラード曲「シーズ・ゴーン」は翌91年にシングルカットされ インターナショナルチャート1位を獲得し大ヒットした。そのタイトルからも予想される渾身のバラードナンバーだ。
イントロの切ないピアノソロからのブレイク、Aメロに入るのかと思わせもう一押しクリス・リゾーラの泣きのギターが切なさを倍増させこの曲への期待を高めてくれる。しかし、それ以上に圧巻なのはマイク・マティアヴィッチ(現 ミレンコ・マティアヴィッチ)の力強く艶がありどこまでも伸びやかな4オクターブを超えるハイトーンヴォイス。歌唱力が問われるバラードで圧倒的な存在感を醸し出している。
マイクは、スティールハートとしてMCAレコードと契約する以前にはレッド・ツェッペリンやスコーピオンズのバンドカヴァーをしたりしていたらしい。2ndアルバム『タングルド・イン・レインズ』ではロバート・プラントの影響を感じさせる才能豊かなヴォーカルを聴かせてくれる。
しかし92年、ライブツアー中にステージ上で事故に遭ったマイクは大怪我を追い、その後バンドは活動休止、再開を繰り返すことになる。
それでも2006年に再始動したスティールハートは現在も圧巻のバラード「シーズ・ゴーン」を歌い続けている。
2017.11.16
YouTube / SteelheartVEVO
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