5月12日

谷村有美の名盤「PRISM」再評価著しい90年代シティポップの名曲 “6月の雨” も収録!

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90年代前半に存在感を示したガールポップ


1990年代前半の音楽界は、アイドル冬の時代とも言われている。テレビでは歌番組が軒並み終了し、ヒットチャートはロックを歌うバンド上位を占めていた。こうした状況のなか、アイドルに代わり存在感を示したのが、自ら曲を書いて歌う女性アーティストである。彼女たちの曲は “ガールポップ”(ガールズポップ)と呼ばれ、アイドルファンも巻き込みながら人気を高めていった。

筆者に至っても、1980年代からファンだった森高千里に始まり、平松愛理、鈴木祥子、井上昌己、永井真理子、遊佐未森、辛島美登里、そしてZARDなど、CDラジカセやCDウォークマンで聴きまくった。店頭で目にするジャケットの写真はキュートだったりミステリアスだったり、つい手に取ってレジに向かったことも数知れず。再生する時は、どんな歌声が聴けるのかワクワクしたものだ。

アイドルの印象を払拭した「Hear」


そんなビジュアルと曲がマッチしたアーティストのひとりが、谷村有美だった。筆者が彼女を聴き始めたのは、1989年に発売された3枚目のアルバム『Hear』から。きっかけは、ジャケットのアイドルっぽい写真に惹かれたからだ。

しかし、アルバムを聴くと、ポップスからバラードまでを歌いこなすボーカリストとしての面はもちろん、自ら詞曲を紡ぐ才能を持ったアーティストであるということも分かった。特に、彼女の代表曲の1つ「がんばれブロークン・ハート」や、ドラマ主題歌にもなった「明日の恋に投げKISS」といったポジティブな曲が耳に残り、クリスタルボイスといわれる高音部が魅力のボーカルに癒やされた。

谷村有美のデビューは1987年11月。シングル「Not For Sale」と、アルバム『Believe In』の同日リリースという華々しいスタートだったが、当時はアーティスト風アイドルといった印象が強かった。実際、80年代にリリースした3枚のアルバムには、彼女以外の作家が提供した曲が多かった。

そして、2枚目、3枚目とアルバムを重ねる毎にアイドル要素は払拭され、アーティストの側面が強まってゆく。それが結実したのがサードアルバム『Hear』。シティポップ風の明るいサウンドとポジティブな歌詞が際立ち、谷村有美らしさを確立した1枚だと今にして思う。筆者も含め、このアルバムでアーティストとしての谷村有美を発見したリスナーも多かったのではないか。



自由奔放な曲作りに徹した「PRISM」


そんな彼女が個性を全開にしたアルバムが、1990年5月に発売された4枚目の『PRISM』である。この作品では、彼女自身が作詞または作曲した作品が9曲と、前作の6曲から増加。特に作詞を手がけた曲は8曲あり、彼女のビビッドな感性が表現されている。

例えば、“勇気" という単語が3曲に登場し、前向きに頑張る女性へのエールを感じる。また、「ラッシュ・アワーのアダムとイヴ」では、仕事とプライベートを両立した女性の一面が歌われる。いずれも女性の社会進出が進んだ当時の世相が垣間見えて興味深い。

特筆すべきは、このアルバムでは作家陣が絞られ、ミュージシャンの西脇辰弥が5曲を作曲し、全曲をアレンジしている。多様な作家がバランス良く参加していた過去作と比べ、音作りを2人で楽しんでいる印象が強いのだ。彼女が好むフュージョンサウンドをはじめ、多様な楽器の音色が曲中に散りばめられ、前作以上にポップで明るい作品に仕上がっている。

特に「6月の雨」は、彼女が自ら作詞作曲した失恋ソング。低音から高音まで跳ねるようなメロディラインに軽快でポップなアレンジが加わり、現在シティポップとしても再評価されている。彼女自身も後年のインタビューで、“「ここまでやっていいのか」って話しつつも、「すごくいいね!」って言いながら、存分にやり切ったと思います” と語っており、冒険したことが窺える。

そう、過去作が “守” と “破" だとすれば、この『PRISM』は明らかに “離”。自分らしさの追求が終わり、新たな境地を求めて好きな音楽を好きなように歌っていることがよく分かる。まさに、多彩な色調の光線を拡散しているプリズムのよう。好きな音楽を好きなように作り、歌うことがガールポップの本質ではないかと思えてならない。



リマスター盤のリリースが相次いでいる谷村有美


そんなガールポップの再評価が最近では著しいが、それを切り拓いた谷村有美の存在感は今も大きく、根強いファンも多い。そんなファンの期待に応えるように、リマスター盤のリリースが相次いでいる。

昨年3月に7インチシングル「Tonight / HALF MOON」が出されたのを皮切りに、アルバムのリマスター盤が、LPとCDの両媒体で発売順にリリースされている。そして今回、リマスターされた『PRISM』のアナログとCDが発売された。もちろん、アナログ盤のリリースは初めてである。35年前のキラキラした音楽と彼女のクリスタルボイスがどのように聴こえるのか楽しみでならない。


2025.01.22
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カタリベ
1966年生まれ
松林建
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