植草克秀と井上ヨシマサ、ROX66として初ライブ! 台風26号の接近が懸念された2026年10月1日の横浜。幸い進路が東寄りとなったため晴天に恵まれたが、もう1つの台風がKT Zepp Yokohamaに上陸した。近年は演出家としても活躍中の植草克秀と、作曲家 / シンガーソングライターの井上ヨシマサが結成した音楽ユニットROX66のファーストライブ『着地点は御座いません』が開催されたのだ。
2人はともに1966年7月生まれの60歳。かたや少年隊としてデビューし、現在はソロアーティストとして活動するエンターテイナー、かたや1980年代より数々のヒット曲を生み出してきたクリエイターで、その交流は30年以上に及ぶ。出会いは1993年、井上が作曲を手がけた中山美穂「Rosa」(1991年)の音楽性に注目した少年隊が、アルバム制作にあたって井上にオファーしたことがきっかけだった。
井上は少年隊に4曲を提供するが、シングル化された「EXCUSE」(1993年)は井上の作家デビュー40周年記念アルバム『再会〜Hello Again〜』(2024年)で植草とのデュエットが実現。それを機に、お互いのソロライブにゲスト出演するなど音楽的な交流を深め、9月16日に6曲入りミニアルバム『SIDE BY SIDE』でユニットデビューを果たすことになる。この日のライブはそのお披露目であった。
シャッフルビートの「Side By Side」で幕開け 青空が広がった横浜には、当日を待ちわびたファンが集結。植草の後輩にあたる室たつきが場内アナウンスを務め、これから始まるショーへの期待を高めていく。 “かっちゃん!” “よすす!”(井上の愛称)のコールが鳴り響くなか、18時に開演。 “ウェルカム!” の音声に続いてオーバーチュアが流れ、ステージ中央のバックスクリーンには2人のさまざまなショットが映し出されていく。そしてアルバムでもオープニングを飾る「Side By Side」のイントロとともに主役の2人が登場すると、大歓声が巻き起こった。
ともに黒の革ジャンと黒のパンツ、サングラスという出で立ちながら、植草は白のインナーで赤と黒のチェックシャツを腰に巻いたスタイル、一方の井上はプリントシャツにマフラーをコーデ。いずれもアルバムのジャケットで見せたアメカジ風のオシャレなファッションだ。
シャッフルビートの「Side By Side」は同じ時代を走ってきた2人の関係性を思わせる、新ユニットのテーマ曲とも言える軽快なダンスチューン。ジャケット撮影時の会話から誕生したそうで、歌詞には “これからも一緒に歩いていこう” というファンへのメッセージも込められている。ともに還暦を迎えた今だから歌える楽曲で、ステージ上の2人は楽しくて仕方がない様子。その姿を目にして、こちらまで笑顔になった。
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都会的な疾走感が心地よい「Lonely Umbrella」 嬉しかったのはスクリーンに歌詞が表示されたこと。植草のソロライブ「MOVING ON」ではお馴染みの光景だが、歌詞を間違えるとすぐに分かってしまうリスクがある。しかし、彼らにとっては、一緒に歌って盛り上がって欲しいという想いの方が強いのだろう。新譜のリリースからそれほど日が経っていないこともあり、筆者のようにうろ覚えの観客にとってはありがたい演出だった。
2人は続けて「Lonely Umbrella」をパフォーマンス。井上の作家デビュー40周年アルバム第3弾『Y-POP』(2025年)で植草とコラボすることを前提に書き下ろされた、疾走感のある都会的なナンバーだが、植草から「ミニアルバムのためにとっておこうよ」と提案されたため、『Y-POP』には井上のソロバージョンが収められた経緯がある。この日は井上が構想していたデュエットバージョンが初めてステージ上で披露され、2人の声の相性の良さが生歌でも証明された。
ノリのいい2曲で会場を十分に温めたところで、ライブは最初のMCに。 “こんばんは!” の挨拶に続いて話題にしたのは天気のことで、晴れ男を自任する植草は “ほら、見たろ!” と得意気に語り、会場から拍手と歓声が送られた。プライベートでも話し始めると止まらない2人だけに、この日のトークも絶好調。前日の睡眠時間からお互いの性格、ユニットに懸ける想いへと話題がどんどん展開し、その間に相手へのツッコミや観客いじりも挟み、客席の笑いを誘う。
植草克秀が歌う、井上ヨシマサ作曲の「愛は強いはずなのに」 “ソロとは別に、こういう活動がしたかった” 。そう述べた植草は、次に井上からかつて提供されたソロ曲「愛は強いはずなのに」(1993年 / 少年隊のアルバム『愛は続けることに意味がある』収録)を歌唱。今まで自身のコンサートやディナーショーでは歌ったことがないレア曲で、場内から “まさかこの歌を聴けるとは……” というどよめきが起きる。ここからは植草のソロコーナーで、2023年リリースのソロアルバムからポップな「100%のLove Song」と究極のバラード「Polaris」を緩急自在のボーカルで聴かせてくれた。
曲間のMCではステージから捌けた相棒について “今いないから言うけど、いい曲を書くんです” と称賛。ユニット作品の創作を担当する井上のボーカルディレクションに関しても “俺の癖を直してくれる” と感謝を述べた。レコードデビューから41年。エンタメシーンの第一線を走り続けるスターに “そこは違います” と指摘でき、指摘された側もそれを素直に受け止められるのは、タメ年でなんでも言い合える関係性が構築できているからに違いない。
ジェントルなお辞儀で「Polaris」を歌い終えた植草は “この歌は毎回緊張する” とコメント。この日は自身のライブとは異なる “よすすバンド” の演奏だったので、新たな化学反応に体温が上がったのだろう。革ジャンを脱いだことに反応したファンにふざけて “全部脱いでいい?” と訊くと “いいよ~” の合唱になったため “ベースケ!” (スケベ)と笑って諫める一幕もあった。
予定調和ではないライブの醍醐味 そしてステージには、スパンコール付きの白シャツに真っ赤なジャケットを合わせた井上が再登場。ピアノで「Polaris」を即興で演奏した井上に植草が驚くと “実はAIなのよ” と笑わせつつ “ライブでは目を瞑ってでも弾けるようにならないといけない” と、ミュージシャンとしての矜持も示す。続けて、このライブのためにタップダンスに挑戦するも難儀したことを告白し、それを難なくこなす植草への敬意を表明した。それぞれの道を究めた2人だからこそ、相手のプロフェッショナルぶりにリスペクトを寄せることができる。そう感じ取れたやり取りだった。
続いて “よすすバンド” のメンバー紹介――だったのだが、観客の帰りのことを考えて、トークを制限時間内に収めようと意識しすぎたのか、下手の4人だけを紹介して、次の演奏にいってしまう。終演後、井上のXから全員の名前が発表されたが、予定調和ではないライブならではのハプニングであった。
井上ヨシマサが歌う中毒性の高い「前ノリ」 さて、ここで選手交代。ステージは井上のソロコーナーとなり、秋葉原の劇場からスタートしたAKB48に数々のヒット曲を提供している井上が、彼女たち初の東京ドーム公演の際に書いた「前ノリ」(2012年)と、1995年発表の「Save 4 U」の2曲が披露された。前者は一度聴けばすぐに覚えられる、中毒性の高いダンスチューン。歌唱前にサビの部分の振り付けをレクチャーしたため、オーディエンスがこぞって「♪前ノリ 前ノリ 後ろノリ(のりのり)」と踊る一体感が生まれた。後者は大人のシリアスな恋を歌ったロックバラード。トークではおちゃらけがちな井上だが、ドラマチックなラブソングをソウルフルに歌い上げ、ボーカリストとしての魅力を発揮した。
そして黒のセットアップに深紅の織が入ったジャケットに衣装替えした植草が登場すると、ライブは後半に突入。MCではユニット名がROX66に決まるまでの経緯が明かされたあと、井上が “かっちゃんは普段、ファンの方たちの優しさに甘えているように見えるけど、演出面では皆さんが喜ぶことを第一に考えている” と話すなど、舞台裏のエピソードが次々と語られた。
井上ヨシマサのピアノで聴く少年隊「君だけに」 きっと普段の2人もこうやってワチャワチャしているんだろうな――。そう窺わせるトークのあとはお互いの代表曲である「君だけに」(1987年)と「それぞれの夢」(2004年)がデュエットで披露された。「君だけに」は井上のピアノソロから始まる、この日のための特別なアレンジ。弾き語りを尊敬する植草が、井上の後ろから手元を覗きながら歌うシーンもあった。作曲をした筒美京平は井上の大先輩で、かつて筒美作品の編曲を手がけた経験があることから、MCでは “簡単そうに聴こえて実は凝っている” 筒美作品の奥深さにもクリエイターの視点で言及。こういう話が聞けるのも、作曲家が参加しているユニットの楽しさと言っていいかもしれない。
一方、「それぞれの夢」に関しては、植草が “大好きな曲で、どうしても歌いたかった” とコメントしてから歌唱。不動産会社のCM曲として長年オンエアされてきた同曲は多くのカバーバージョンが存在するが、創作者の井上から “かっちゃんが一番!” とのお墨付きを得るパフォーマンスを見せた。いざ歌おうとすると、よすすバンドのメンバーが大合唱で妨害する、クレージーキャッツやビジーフォーを思わせるコントも展開されたが、アドリブ満載のステージはキャリアを重ね、場数を踏んできた2人だから成立するのだろう。
「Last Dance」で魅せた植草克秀のタップダンス 楽しいライブもいよいよ終盤。ここからはデビューアルバム『SIDE BY SIDE』収録の3曲が歌われた。まずは、ジャズをやってみたいという植草の要望を受けて制作された「Last Dance」。長年連れ添ったカップルが別れる前にダンスをする、切ないシチュエーションのナンバーだ。間奏の8小節でタップの靴音が挿入されるため、井上は3ヶ月前から猛特訓。膝の痛みや筋肉痛にも見舞われて挫折を味わうも、リハーサルで植草が見事に踊ったことに感動したという。
“こっちはコレで勝負してるからね” と笑う植草は、「Last Dance」には少年隊のライフワークだった「PLAYZONE(プレゾン)」(1986年から2008年まで主演を続けたミュージカルシリーズ)のイメージがあると述懐。青山劇場で踊っていたときのタップシューズで歌い始めると華麗な足さばきを見せ、満場を魅了した。その靴音をマイクで拾おうとしていた井上は苦戦しながらも、植草から “本番に強いね” と合格点をつけられる大健闘。表情には、この日最も緊張するパートをやり終えた安堵感が漂っていた。
次に披露された「君は僕のもの」は、井上が初めて植草のライブにゲスト出演したとき(2024年6月 / 大手町三井ホール)の客席の歓迎ぶりや、SNS上での植草ファンとの交流に着想を得て書き上げた作品。ひとりの女性をめぐる男2人の恋のさや当てを描いた井上の歌詞は、植草ファンから好意的な反応を寄せられている自身の状況を踏まえて書いたという。井上からは2年前、植草のライブの1コーナーに出演したことがユニット結成に繋がったことの感慨も語られたが、植草も同じ気持ちだったようで、 “これからも2人でいろんなことにチャレンジしていこう” との決意が両者から示された。
大人の青春ソング「Forever Young」 終始2人の仲睦まじさと信頼関係が伝わってきたが、本編はアルバムでもエンディングを飾る「Forever Young」で締めくくられた。過去を懐かしむのではなく、上を向いて、これからも人生を楽しもうよと歌う大人の青春ソングで、先ほど宣言したチャレンジの一環として、植草はイントロでハーモニカを演奏。井上はギターを弾きながら歌い、息の合ったコンビネーションを見せた。
“このユニット自体が挑戦。これからも見守ってください” と井上が言えば、植草も “みんなで温めてもらって、少しずつ成長していきたい。また会える日を楽しみにしています” と挨拶。2人がステージをあとにすると、すぐに “アンコール!” の声が飛ぶ。程なくして、オフィシャルのラグランTシャツに着替えた2人が登場すると、一段と大きな拍手と歓声が巻き起こった。
還暦から始まるROX66の新たな挑戦 それぞれのソロライブとは異なる表情やパフォーマンスを見せた、今回のステージ。理想の音を追求する井上が招集しただけあって、よすすバンドはグルーヴ感に溢れた厚みのある演奏で、サウンド面でも聴衆を惹きつけた。アンコールに応えて、2人はユニット結成の端緒となった「EXCUSE」と、植草の後輩たちが歌い継いでいる「PGF」(1995年に少年隊「Oh!」のカップリング曲としてリリース)を立て続けに披露。原曲よりもテンポアップした「PGF」で会場を大いに沸かせてROX66のファーストライブは大団円を迎えた。
希代のエンターテイナーとヒットメーカーが60歳を機にタッグを組んだ新ユニット。公演名の『着地点は御座いません』が示すとおり、これからどう進化していくか目が離せない存在であることを知らしめた一夜だった。
【公演概要】 ROX66 1st LIVE『植草ヨシマサ 着地点は御座いません』 ▶︎ 日時:2026年10月1日(木)18時開演
▶︎ 会場:KT Zepp Yokohama
▶︎ 出演:ROX66(植草克秀、井上ヨシマサ)
▶︎ 演奏:多田涼馬(Dr)、斎藤昌人(B)、小金坂栄造(G)、原川マコト(Key / Cho)、大竹ひとみ(Cho)、渡辺尚仁(Tp / Cho)、大堰邦郎(Sax)、りょう君(Mani)
▶︎ セットリスト
01.Side By Side
02.Lonely Umbrella
03.愛は強いはずなのに
04.100%のラブソング
05.Polaris
06.前ノリ
07.Save 4 U
08.君だけに
09.それぞれの夢
10.Last Dance
11.君は僕のもの
12.Forever Young
13.EXCUSE
14.PGF
2026.10.27