映画「愛し合ってるかい?」が映し出す、今もリアルな忌野清志郎 10月2日に公開されたドキュメンタリー映画『愛し合ってるかい? 忌野清志郎が教えてくれた』。この作品は、愛と平和への願いを生涯一貫して伝え続けた忌野清志郎の真髄に迫るドキュメンタリーだ。
劇中では、1970年にデビューを果たしたRCサクセションの最初期から、2008年2月に日本武道館で行われた『忌野清志郎 完全復活祭』まで、厳選されたライブ映像を通してその音楽遍歴を堪能できる。また、古くからの盟友である三浦友和や泉谷しげる、そして1980年代にRCサクセションのサポートメンバーとして活躍した梅津和時らが語る貴重なエピソードから、清志郎の存在をグッと身近に感じることができるだろう。さらにはアイナ・ジ・エンドや百世(消しゴムハンコ作家)などを通して、清志郎のアティテュードが若い世代へ受け継がれていることも浮き彫りになっている。その姿を見れば、忌野清志郎がなぜ今もノスタルジーに回収されることなく、リアルな存在であり続けているのかも見えてくる。
“愛し合ってるかい?” という言葉は、清志郎の人生観そのものだ。その一方で、清志郎は時にユーモアを交え、時に辛辣な言葉で反骨精神を剥き出しにしていった。その象徴ともいえるのが、自らをZERRYと名乗った覆面バンド、ザ・タイマーズとしての活動だ。本稿では、映画でも触れられている清志郎のラディカルな側面に焦点を当て、RCサクセションがオルタナティブなロックバンドとして唯一無二の存在感を放っていた1980年代半ばから、ザ・タイマーズで反戦・反核・反権力を掲げるに至るまでの経緯を振り返っていきたい。
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強まっていった忌野清志郎の反骨精神 清志郎の反骨精神は、タイマーズの結成に向かった時期に突然湧き上がったのかといえば、決してそうではなかった。初期のRCサクセションの楽曲にも、主体性のない集団心理を皮肉った「シュー」や、環境汚染の問題と向き合った「どろだらけの海」など、自身の心の中で渦巻いた疑問をストレートに表現した楽曲はあった。清志郎は、デビュー当時からその時々に自分が置かれた環境や心情を作品にダイレクトに反映させるアーティストだった。
こうした反骨精神がより顕著に表れはじめたのが、東芝EMI(現:ユニバーサル ミュージック)移籍後初のフルアルバムとして1984年にリリースされた『FEEL SO BAD』だろう。この作品は所属事務所からの独立騒動の中で作られたこともあり、ラディカルな側面が目立つ。1曲目には「♪俺を縛ることなどできねえ だって俺は自由、自由、自由」と清志郎がシャウトする「自由」が据えられた。そしてアルバム前半の楽曲からは、反権力的な姿勢が強く感じられる。そのサウンドや姿勢は極めてオルタナティブで、RCサクセションが次のフェーズへ移行したことを強く印象づける。
そして、そうした傾向がさらに強まったのが、1988年にリリースされた『MARVY』だった。ここに収録されている「SHELTER OF LOVE - ツル・ツル」には、プロテストソング的な要素がすでに芽生えている。このように、この時期のRCサクセションには、刺々しく攻撃的な表現が目立つようになっていく。
発売中止となった「COVERS」が皮肉にも初のオリコン1位 この流れを考えれば、反原発を前面に打ち出したカバーアルバム『COVERS』が生まれたことも不思議ではない。清志郎がカバーアルバムという形態を選んだ背景には、メンバー間の共通言語であるエルヴィス・プレスリーやボブ・ディランなどの曲を取り上げることで、変化しつつあったバンド内の関係をつなぎ直そうとした側面もあったようだ。それと同時に、歌いたいことを歌い、言いたいことを言うという清志郎の本質が、『COVERS』の根底にはあったのではないか。
『COVERS』は、桑竹伊助(桑田佳祐)、泉谷しげる、坂本冬美、ジョニー・サンダースなど、音楽的背景の異なる多数のゲストミュージシャンを迎えて制作された。そこには、《キング・オブ・ライブ》と呼ばれたRCサクセションのイメージとは異なる表情があった。そして何よりこのアルバムからは、ロマンティックな多幸感に包まれたロックンロールのファンタジーに安住することを拒む、清志郎の強い決意が感じられた。自身の中で湧き上がる怒りをテーマに、虚飾を排した言葉で問題提起していくという険しい道を選んだのだ。
清志郎自身は大きな手応えを感じていた『COVERS』だったが、所属レコード会社の親会社だった東芝の意向により発売中止。「素晴らしすぎて発売できません」という文言を添えた新聞広告は大きな反響を呼んだ。結局、『COVERS』はRCサクセションが以前所属していたキティレコードから発売され、皮肉にもバンドとして初のオリコン1位を獲得することになる。
『COVERS』に収録された「ラヴ・ミー・テンダー」では反核の意思をストレートに語り、「サマータイム・ブルース」ではコミカルな表現を交えながら、その真意を聴き手に突きつけた。つまり『COVERS』には、この時の清志郎が何を考え、歌を通じて何を伝えたかったかが凝縮されていた。だからこそ発売中止の一件は、歌いたいことが歌えない状況では “愛し合ってるかい?” と問いかけることさえできない―― そんな危機感を清志郎に抱かせたのではないだろうか。
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反骨精神と愛が同居したザ・タイマーズ そしてこの思いは、存在が大きくなったRCサクセションとは別に、よりフットワークの軽いバンドを結成する構想へとつながっていったのではないだろうか。その先に生まれたのが、ザ・タイマーズだった。
“言いたいことを言って、パッと逃げる” をコンセプトに掲げたザ・タイマーズは、反戦・反核・反権力のメッセージを携え、数々のフェスや学園祭にゲリラ出演して大きな反響を呼んだ。しかし彼らのファーストシングルは、春の陽射しに包まれたような優しさを持つラブソング「デイ・ドリーム・ビリーバー」だった。
番組中に放送禁止用語を連発し、前代未聞のテレビジャックを行ったFM東京事件をはじめ、数々のゲリラパフォーマンスの傍らには、土木作業員の覆面スタイルというユーモラスなコスチュームと同様に「デイ・ドリーム・ビリーバー」が鳴り響いていた。
「♪ずっと夢見させてくれてありがとう」と歌われる「デイ・ドリーム・ビリーバー」は清志郎の育ての母に捧げられた歌だという。まさに “愛し合ってるかい?” という清志郎の世界観を、これ以上なく体現した楽曲だろう。そう、タイマーズで剥き出しになった反骨精神も、“愛し合ってるかい?” に象徴される愛への希求も、清志郎の中では表裏一体だったのではないだろうか。
忌野清志郎は、映画『愛し合ってるかい? 忌野清志郎が教えてくれた』で描かれているように、愛と平和への願いを生涯一貫して伝え続けたアーティストだ。そして、その愛と平和への願いと表裏一体だった反骨精神もまた、彼を語る上で欠かせない側面なのだ。
Information 映画『愛し合ってるかい? 忌野清志郎が教えてくれた』 ▶︎ 公開日:2026年10月2日(金)
新宿バルト9ほかにて公開
▶︎ 出演:忌野清志郎
三浦友和、竹中直人、三宅伸治、泉谷しげる、梅津和時、角田光代、金平茂紀、百世、SWEET LOVER SOULS
▶︎ 監督:相原裕美
▶︎ オフィシャルページ:
https://www.toei-video.co.jp/kiyoshiro-movie/ ⓒ2026 Kiyoshiro Movie Project
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2026.10.03