発掘が続く初期・山崎ハコの貴重なライブ音源
1975年のデビューアルバム『飛・び・ま・す』と、その翌年のセカンドアルバム『綱渡り』が、それぞれオリジナルテープからリマスターされたデラックス・エディションとしてリリースされた。これらをきっかけに、初期の山崎ハコへの再評価が高まっている。なかでも特筆すべきなのが、ここに来て当時の山崎ハコの貴重なライブ音源の発掘が続いていることだ。
デラックス・エディションの『飛・び・ま・す』と『綱渡り』には、スペシャルディスクとして1976年の新宿ロフト・オープニングセレモニーでの弾き語りライブ音源がそれぞれ7〜8曲収められて収められている。さらに今年(2026年)7月には、1975年9月26日に横浜市教育文化センターで行われた『デビュー・リサイタル』の全貌を2枚のCDに収録した『1975 デビューライブ 〜飛・び・ま・す』もリリース。こうして次々と発掘された初期のライブ音源を聴いてみると、山崎ハコが “暗い情念” だけにとどまらない、ジャンルを越えた幅広い音楽性と卓越した表現力を備えていたことが、あらためて見えてきた。
アルバム発売日に行われた18曲の記念リサイタル
そして、2026年9月30日には『1976 リリースライブ 〜綱渡り』がリリースされた。収められているのは、セカンドアルバム『綱渡り』の発売日である1976年5月25日に、東京・都市センターホールで行われた『綱渡り・発売記念リサイタル』。ライブのMCも含めて完全収録されており、『1975 デビューライブ〜飛・び・ま・す』に続いて、初期の山崎ハコのライブの醍醐味を追体験できる作品になっている。
都市センターホールは1996年に閉館するまでコンサートや講演会などに使用されたホールで、キャパは約1,000人。『飛・び・ま・す』の記念リサイタルを行った横浜市教育文化センターが約500席だったから、1年足らずでキャパが倍増したことになる。『飛・び・ま・す』の発表以降、TBSラジオ『林義雄パック・イン・ミュージック』などの深夜放送や、『新譜ジャーナル』(自由国民社)などの音楽誌への露出も増え、山崎ハコへの注目度がアップしていたこともあって、チケットは発売と同時に完売となったという。
この日のコンサートは『デビュー・リサイタル』と同じ2部構成。1部が山崎ハコの弾き語りと、『デビュー・リサイタル』でも共演した笛吹利明のギターによるアコースティック・セッションで、2部がバンド編成となっている。また、『デビュー・リサイタル』がアンコール曲を含めて14曲だったのに対し、こちらは全18曲となっている。
「飛・び・ま・す」と「綱渡り」で構築された山崎ハコの音楽世界
第1部で披露された9曲のうち、前半の4曲は『飛・び・ま・す』の収録曲。セットリストの中で興味深いのは、『デビュー・リサイタル』やその後のコンサートでは「望郷」が1曲目に置かれることが多いのに、この時は「飛びます」が1曲目で、「望郷」は2曲目に歌われていることだ。続いて「橋向こうの家」「かざぐるま」が歌われた後、スタジオアルバムには収録されていないブルース・テイストの「二日酔い」、そして宮崎県の民謡「刈干切唄」へ。その後、セカンドアルバム『綱渡り』から、「綱渡り」「ひとり唄」「ひまわり」が演奏された。
粗削りさも残しながら深い想いが伝わるボーカルと繊細なギターアンサンブルが、はかなく切ない抒情を感じさせた第1部。そこからガラリと雰囲気を変えた第2部は、バンド編成の「気分を変えて」でスタートする。続く「さすらい」は『飛・び・ま・す』からの選曲。その後は『綱渡り』から「ハーモニカ吹きの男」「ヘルプミー」「向かい風」と続き、「サヨナラの鐘」「誕生祝い」で本編を締めくくる。アンコールでは、『飛・び・ま・す』と『綱渡り』から1曲ずつ、「歌いたいの」と「子守唄」が披露された。
『デビュー・リサイタル』では、『飛・び・ま・す』の全曲が披露されていた。一方、このライブはニューアルバム『綱渡り』の楽曲を紹介するだけでなく、『飛・び・ま・す』と『綱渡り』の2枚で築かれた山崎ハコの音楽世界を提示する色合いが強かったように感じる。
スタジオ盤とライブの距離感が浮かぶ第2部のバンド演奏
このライブアルバムで注目したいのは、第2部のバンドアンサンブルだ。『デビュー・リサイタル』の第2部でも、『飛・び・ま・す』のレコーディングに参加したキーボードの佐藤準、エレキギターの竹中尚人(Char)がバンドメンバーとして演奏していたが、この日は『綱渡り』のレコーディングメンバーであるアコースティックギターの笛吹利明、キーボードの信田かずお、ドラムスの見砂和照がステージに上がっている。
スタイルとしては似ているが、『飛・び・ま・す』が通常のスタジオセッションで録音されたのに対し、『綱渡り』ではレコーディングメンバーが事前にリハーサルを重ね、ボーカルも含めて一発録りに近い形で収録された。そうしたライブ感の強い演奏を、そのレコーディングメンバーが実際のステージで披露しているところも、このライブ音源の興味深さだ。
実は、このライブに参加したギタリストとベーシストの記録が残されていないらしく、クレジットも “Unknown” となっている。残念ながら、僕もこのコンサートには行っていないので、誰が弾いているのかはわからない。アルバム『綱渡り』のレコーディングでは、ギターを松原正樹、ベースを藤井真一が担当しているから、この2人が演奏している可能性もある。ただ、『デビュー・リサイタル』ではレコーディングに参加していないミュージシャンもステージに上がっていたので、やはり断定はできない。
実際、このライブアルバムと『綱渡り』を聴き比べてみると、スタジオ録音のテイクをかなり忠実に再現していることがわかる。一方で、細かなニュアンスには違いもある。誰が演奏しているのかも含め、耳で聴き比べながら考察してみるのも面白いかもしれない。
10代ですでに際立っていた山崎ハコの表現力
聴き比べるといえば「ハーモニカ吹きの男」も興味深い。この曲は『1975 デビューライブ〜飛・び・ま・す』でもアコースティックバージョンを聴くことができるので、こちらのバンド演奏とのニュアンスの違いも楽しめるだろう。このほかにも、海外で人気の高い「ヘルプミー」や、難曲といわれる「誕生祝い」など、聴きどころは多い。デビュー間もない10代の山崎ハコが、これらの曲をどのようにパフォーマンスしていたのかを確認できるのも、本作の大きな魅力なのだ。
こうして10代の頃の山崎ハコの作品を聴くたびに改めて思うのは、本当にこの人は末恐ろしい才能の持ち主だということ。そして2026年の山崎ハコのパフォーマンスに接すると、それがけっして思い違いではなかったと確信できる。そんな実感も、ずっと音楽を聴いてきたご褒美のひとつなのだろう。
Information
山崎ハコ「1976 リリースライブ 〜綱渡り」
山崎ハコデビュー50周年記念第4弾。セカンドアルバム『綱渡り』リリースライブの貴重なフル音源を発掘。初商品化!
▶︎ 発売日:2026年9月30日
▶︎ 価格:3,850円(税込み)
▶︎ 山崎ハコ50周年リリース特設サイト
https://hakoyamasaki-50th.ponycanyon.co.jp/
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2026.10.01