普通の女の子が主人公、小泉今日子「魔女」の魅力
1985年7月25日に発売された、キョンキョン16枚目のシングル「魔女」。
レコード屋で見つけたジャケットには、ボブのヘアースタイルで、こちらを怪訝な目つきで笑みも浮かべずに見つめる女性。黒の衣装のセーターも胸元まで開いていて、背景の色も黒。まるで夜に怯える黒猫のような―― 今まで知っているキョンキョンではなかったことを、当時10歳だった私は鮮明に覚えています。
「魔女」は作詞:松本隆、作曲:筒美京平のゴールデンコンビが手掛けた1曲です。男女問わず好きな方が多く、特に女性が「小泉今日子の好きな曲は?」と聞かれると候補に挙げる方が非常に多いそうです。そんな、多くの人から愛される「魔女」の魅力は2つあると思っています。
1つめは、この曲の主人公が “普通の女の子” であることです。この曲の主人公は、親の言うことを聞き、真面目に学校に行く女の子。たまたま好きになった人が年上のちょっと悪っぽい男性で、フラれてしまいます。そして、自分の部屋で独り、どうすれば振り向いてもらえたのか… を、考えます。
女の子の空想や妄想は、可愛らしさの中で何処か現実味を帯びます。あんな風に… こんな風に… と、好きだった男性の好みであろう「魔女」を作り上げながら、自分ならどう行動するかまでシミュレーションします。
聴き込んでわかった “自分自身と向き合う” 曲
こうして、どんどんと具体的になる魔女は、“もう一人の自分”。
ジェラシー Umm
ジェラシー Umm ジェラシー
女の子は、もう一人の自分である魔女に嫉妬し始めます。仕返しの計画はバッチリ。多分、化粧も出来るし、着たことがなかったタイプの服も買ってみた。だから、頭の中ではイキイキとしている魔女になれる! と一歩踏み出そうとしますが、
魔女になれないの今夜は
涙がシトシトながれて
素顔の私に戻るの 戻るの
結局、魔女にはなれないと思い留まる主人公。もはや、フラれたことよりも、魔女になれなかった自分自身に対しての悔しさや、もどかしさを感じさせます。
昔は、「魔女」を失恋ソングと思って聴いていた私。しかし年齢を重ね、いろんな経験も重ねるにつれ、ちょうど女の子と大人の女性の境目を描く “自分自身と向き合う曲” に聴こえるようになってきたのです。
そこには、誰もが持ち合わせている心の声、本音がいっぱい詰まっています。仮に大人の女性に成長していても、体よく振られた相手ならば仕返しをしたくなるものです。でも実行に移す人はほとんどいないはず。
誰しもが、心の奥に魔女を潜ませては、涙で引っ込めてしまう… そんな “共感” できる部分が非常に多いところが、たくさんの女性が “大好きな1曲” に挙げる所以なのではないでしょうか。
サビで感じる、歌手・小泉今日子の魅力
2つめは、歌手・小泉今日子の魅力です。
落ち着いた曲調で、シンプルなメロディーの「魔女」。発売されたのは、トリッキーかつ、クセの強めな楽曲をサラリと歌いこなし、“キョンキョン” という七変化する可愛らしさと、遊び心と、少しヤンチャなキャラクターが定着していた時期でした。
一歩間違えれば “地味な曲” として埋もれていたかもしれなかった楽曲ですが、テレビで唄うキョンキョンは笑顔で、どこか嬉しそうにも見えました。歌全体を通しても、可愛らしく歌っている部分と、真面目に歌う部分を使い分けていたり… と工夫が多く見受けられます。
そんな中で、この曲における歌手としての小泉今日子の1番の聴かせどころは、サビに入る直前の、「だけど」。
たった3文字ですが、まるで魔法が解けるような言葉。妄想から現実へと引き戻される、少女と大人の女性の境界線を繋ぐ言葉。
それまでの、声を張り上げ、ありのまま “素の部分” をぶつけるキョンキョンの歌唱とは、「あれ、いつもと違う」という魅力を感じた方は多かったのではないでしょうか?
失った恋をテーマに、女性ファンの心を掴んだ小泉今日子
この曲以降、キョンキョンは女性ファンを増やしていきます。「魔女」を含めて3年間、「夜明けのMEW」、「Smile Again」と7月に発売されたシングル曲は “失った恋” をテーマにじっくり聴かせる楽曲を発表していきます。
それは「キョンキョンになれるかも!」という憧れとともに、「キョンキョンならわかってくれるはず」というシンパシーを「魔女」という作品以降、歌の中で感じ取ったから… ではないしょうか。
冒頭に書いたアイドルには珍しい真っ黒なレコードジャケット。初回スリーブ仕様の裏面にはボブのウイッグを取り、笑みを浮かべるキョンキョンがいます。
「まだまだ皆、私のことわかってないでしょう?」
… と言わんばかりの表情で…。
もしかすると、乙女の私も黒の魔法をかけられ、未だ解けてないのかもしれません。皆さんも、小泉今日子という「魔女」の魅力に今も取りつかれていたりしませんか?
40周年☆小泉今日子!
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2022.03.02