9月1日

矢沢永吉の影響? 氷室京介「FLOWERS for ALGERNON」は大胆かつ繊細!

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氷室京介のファーストソロアルバム「FLOWERS for ALGERNON」がリリースされた日
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“いなたい”アルバム? 氷室京介「FLOWERS for ALGERNON」


1988年4月4日、5日、東京ドームにおける『LAST GIGS』を最後にBOØWY解散。この時にメンバーが語っていた「解散コンサートではなく、少し早い同窓会だった」というコメントの真意は数ヶ月後に分かることになる。

氷室京介はメンバーの中で誰よりも早く、この約3か月後の同年7月21日シングル「ANGEL」をリリース。さらにこの「ANGEL」を収録したファーストアルバム『FLOWERS for ALGERNON』を9月1日にリリースする。つまり、この『LAST GIGS』時点でソロへの構想はほぼ固まりつつあったと思うし、それは、氷室に次いで10月5日にファーストソロアルバム『GUITARHYTHM』をリリースした布袋寅泰にしても同様だったと思う。

布袋の『GUITARHYTHM』がBOØWY時代のUKニューウェイブを起点としながら1986年に「ラブ・ミサイルF1-11」の大ヒット、トリックスター的な手法で世界を席捲したジグ・ジグ・スパトニックに大きな影響を受けた革新的なアルバムだった。

これに対し、ソロ活動に舵を切った氷室京介は、何処か “いなたい”、大陸的な印象を感じたのも確かなことだった。特に「ANGEL」はBOØWY時代よりも、もっと幅広く大衆にアピールできるキャッチ―なメロディがまずは際立った。

『FLOWERS for ALGERNON』にしてみても、モータウン・ビートの引用やロキシー・ミュージックの影響、またかつて「ビーツ・ソー・ロンリー」の大ヒットで躍進、その後ボブ・ディランのバックバンドでもギタリストとして活躍したチャーリー・セクストンの起用など、あらゆるジャンルに精通し綿密に練られたアルバムでありながらも、全体のイメージは何処か “いなたい”。

矢沢永吉の影響が潜んだ方法論


このパイを広げた方法論には、やはり矢沢永吉の影響が潜んでいると思わずにいられなかった。周知の通り、革ジャン、リーゼントで、ハンブルク時代のビートルズを思わせるシンプルなロックンロールがウリだったキャロル。そこから革ジャンを脱ぎ捨てタキシードを着てバラードを歌う矢沢永吉は自らのメロディセンスと類まれな歌唱力でシンガーとして大きな勝負に打って出たソロデビューだったと思う。

氷室にしてもメロディメーカーとしての布袋のイメージが作り上げたBOØWYの幻影をすべて葬り、シンガー氷室京介としての世界観を新たに確立すべく第一歩だったと思う。

「ANGEL」のリリース時、コンビニに入店すると、いつもこの曲が鳴り響いていいたことを鮮明に記憶している。その時の印象は、当時ピークを迎えていたバンドブームとは一線を画したゴージャスさを感じたことも確かだ。それは歌謡曲のシーンともシンガーソングライター系のアーティストとも異なる印象だった。そこには “元BOØWYのヴォーカリスト” という称号はもはや不要だった。

大胆にして繊細、シンガー氷室京介の強み


氷室にはBOØWY時代から、どこかドメスティックな歌謡曲の系譜を感じるのは確かだ。それは後に多くのフォロワーを生んだ歌唱法や日本人の琴線に触れるメロディラインだったりするのだろう。ソロに転身した氷室はそんなドメスティックな匂いをより強く味方につけ、当時のアメリカのヒットチャートにも通じる大衆性を全面に打ち出してファーストアルバムを完成させた。これも僕が感じた “いなたさ” の要因だったと思う。

『FLOWERS for ALGERNON』というアルバムタイトルにしても特筆すべき秀逸なものだと思う。

周知の通り、同アルバムの制作過程において精神面で強い影響を受けたダニエル・キイスの同名小説をそのままアルバムタイトルにもってくるという大胆さ、そしてBOØWY時代のヤンキー気質とは相反する繊細さの両面を感じ取ることが出来るだろう。この小説のテーマでもある儚さや愛情、そしてSF的な感性をアルバムのメインテーマにしていることも興味深い。つまりBOØWYを離れ、ひとりのシンガーとして打って出た時に自らのすべてをさらけ出すという覚悟がこのアルバムタイトルにも表れていたのだろう。

大胆さと繊細さ…。『FLOWERS for ALGERNON』にしてみても、このような繊細さを内包させながらも、大きなパイに響かせるような音楽性であったことは確かなこと。これが、氷室のシンガーとしての大きな強みになっていったと思う。

自らの判断で明確にしたシンガーとしての立ち位置


セカンドアルバム以降の氷室京介は、サウンドクリエイトとシンガーに専念し、リリックに関しては、松井五郎、森雪之丞といった職業作詞家に依頼。自らが手掛けることは稀になっていく。こういった部分でも同手法でカリスマに君臨し続けている矢沢永吉の影響を考えずにいられない。

BOØWY時代、刹那な憧憬が脳裏に浮かび上がる氷室の描くリリックがバンドの輪郭を描く要素として欠かせないものになっていたはずだ。この部分をバッサリ断ち切り、シンガーとしての立ち位置を明確にしていった独断もまた、大胆さと繊細さがあって成せる技だった。そして、このスタンスで氷室京介は、コンスタントにヒットを飛ばし、シンガーとしての唯一無二の個性を確立。矢沢同様、揺るがぬ地位を築くことになる。

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2021.11.08
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カタリベ
1968年生まれ
本田隆
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