6月8日

KYON²「ハートブレイカー」小泉今日子 × 高見沢俊彦が放つ異彩のハードロック!

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小泉今日子(KYON2)のシングル「ハートブレイカー」がリリースされた日
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小泉今日子「ハートブレイカー」タイトルが醸し出すハードロック感


どんなアーティストでも、キャリアにおけるターニングポイント(転機)と呼べる出来事のひとつやふたつは、必ず起こり得るはずだ。ましてや活動歴の長いアーティストであれば、いくつものターニングポイントを経て時に変化し、時に成長しながら、そのキャリアを積み重ねていくだろう。

デビュー以来、40年ものキャリアを誇る小泉今日子とて、それは例外でない。80年代の王道を行く正統派アイドルとしてスタートした彼女にとって、永きキャリアにおけるターニングポイントのひとつになったのが、15枚目のシングル曲「ハートブレイカー」だ。

“ハートブレイカー” というワードを目にすると、僕のような洋楽のハードロックやヘヴィメタルを聴いてきた者にとっては、レッド・ツェッペリンやグランド・ファンク・レイルロードの名曲が真っ先に浮かんできてしまう。

フリーにも同名異曲があるし、不思議と70年代の名ハードロックバンド達に、多く名付けられたタイトルだ。女性ハードロックシンガー、パット・ベネターの同名異曲も忘れることはできない。

そんな洋楽ロックファンには馴染み深いタイトルから連想するように、正統派アイドルにとって最も親和性の薄かった音楽ジャンルのひとつ、ハードロック、ヘヴィメタルのエレメントを大胆に注入した楽曲に仕上がっている。

高見沢俊彦との3部作、その第2弾に仕掛けられた攻めの姿勢


「ハートブレイカー」は、小泉今日子としてではなく、KYON2名義で発表された。この名義は12インチシングル「ヤマトナデシコ七変化」のロングヴァージョンで、すでにお披露目されていたが、新曲まで歌う別キャラクターとしてここで本格始動し、彼女の中に新たな二面性を生み出すことになった。

今でこそ、アイドルが激しいロック調のナンバーを歌うのは、何ひとつ珍しくないことだ。80年代のアイドルでも、以前『中森明菜に見いだしたハードロック魂!攻めのロックナンバー「1/2の神話」』で中森明菜とハードロックの親和性の高さを書いたように、初めてのケースという訳ではない。

それでも、明菜とは全くタイプの違う小泉が、こうしたロック色の強い楽曲を歌うのは、時代を考えると相当にチャレンジングな判断だったと思える。

この試みの仕掛け人こそが、誰あろうアルフィーの高見沢俊彦だった。「メリーアン」や「星空のディスタンス」の大ヒットで、一躍日本の音楽シーンの中心に、アルフィーが躍り出た直後の脂が乗り切った時期。高見沢と小泉による “3部作” が幕を開けることになる。

その第1弾「The Stardust Memory」は、アルフィー流儀による極上のポップセンスと、小泉が放つ正統派アイドルのテイストが、絶妙に溶け合った盤石の佳曲に仕上がった。そこから2枚のシングルを挟みリリースされたのが、第2弾の「ハートブレイカー」だった。高見沢に加え共作詞が高橋研、編曲が井上鑑と、全く同じ作家陣が再び揃った。

オリコン1位、50万枚以上のセールスを記録した「The Stardust Memory」の成功を受けて、本来ならその延長線上の楽曲を提供するのが常套手段だろう。しかし、高見沢の決して眠らないハードロック魂は黙っていなかった。小泉の清廉潔白なアイドルのイメージを、いい意味で打ち壊すかのごとく、尖りまくった楽曲を提示してきたのだ。

アイドル小泉今日子が果敢に初挑戦、ドラマ仕立ての哀愁ハードロック


約7分強にも及ぶ長尺の「ハートブレイカー」は、本編の前後をドラマ仕立てのパートで挟む、珍しいアレンジで構成された楽曲だ。TVから懐かしいメガネスーパーのCMが流れる中、まるでドラマのワンシーンのように呟く小泉のセリフから、別れの場面が自ずと脳裏に浮かんでくる。文字通り “ハートブレイカー” との絡みを演じているようだ。

シンフォニックなイントロを切り裂くように、歪んだヘヴィなギターリフと、硬めで無機質なデジタルのシャッフルビートに乗せて、曲本編が走り出していく。

アイドル特有の明るい快活さとは真逆の力強いタイトルコールを叫び、一転シリアスなテイストでしっとりと歌い出す小泉の歌唱は、早くも新境地を予感させてくれる。

哀感を滲ませた高見沢ならではの切ないメロディの合間には、耳を引く派手なギターハーモニクスが響き渡り、劇的なアレンジを織り交ぜながら、これまでの小泉の楽曲にはない世界観を、さらに強固なものにしていく。

感情が迸るサビの歌唱は、いつにないパワフルさで、彼女なりのロックを懸命に表現しようとしているのがみて取れるようだ。それに呼応するように、激しいギターソロがこれでもかと随所に盛り込まれ、楽曲にさらなるハードロックテイストを息づかせる。

クライマックスに向かいタイトルを繰り返し呟く小泉の声色は艶やかで、セクシーな色香を醸し出し、ひとつのストーリーが一気に結実していくかのように聴こえる。遂に別れを告げ、曲中のメロディを口ずさみながらその場を立ち去る、余韻を残したアウトロのドラマパートも印象的だ。

ハードでありながらも歌謡曲な雰囲気も残した音像は、当時隆盛した80sのジャパメタ的な色合いも想起させ、小泉の新たな一面を引き出すことに成功した。

ロックシンガーKYON2、本格始動!


新機軸はヴィジュアル面でも徹底された。EPのジャケットにはワイルドな筆跡で書かれた、バンド感をイメージさせるKYON2のロゴが踊り、そこに映る彼女は、微笑みながらもキュートなルックスを敢えて隠したサングラス姿だ。

異なるキャラクターに対してのヴィジュアルイメージは徹底され、歌番組の出演時には、ライヴでお馴染みのLIGHT STEPの面々をバックに、ハードなバンドサウンドを展開。ジャケットさながらのルックスと衣装を身にまとい、楽曲に息づく世界観を伝えるパフォーマンスを披露した。サウンド、そしてヴィジュアルと、徹底してステレオタイプなアイドルの殻を打ち破ろうとした試みが、ハッキリみて取れる。

挑戦的な楽曲でありながら、結果として「ハートブレイカー」はオリコン6位のヒットを記録し、小泉の果敢な挑戦が多くのファンから受け入れられた証となった。

高見沢俊彦との至上のコラボ、アーティスト小泉今日子に繋がった転機


高見沢との3部作の締めくくりには「木枯らしに吹かれて」を発表。高見沢お得意のメランコリックで切ないメロディをふんだんに取り入れた、小泉の新たな定番曲を作り上げて、至上のコラボは結実した。

3部作を改めて振り返ると、通常の「ホップ、ステップ、ジャンプ」ならぬ、「ホップ、デストロイ(破壊)、ジャンプ」を経たのがみて取れるだろう。

自身のアルフィーでおこなったように、稀代のアイドルにも臆せずハードロックやヘヴィメタルの要素を持ち込んだ、高見沢ならではの掟破りの試み。そして、それを真正面から受け止め、自分なりの解釈を持って見事に表現して見せた小泉のチカラ。

アイドルとしての既成概念を、ここでひとつ打ち破った事実は、表現の幅を広げるきっかけとなり、唯一無二のスーパーアイドル小泉今日子を形作っていく過程で、意義深く重要なターニングポイントとなったに違いない。さらには、のちにアーティストとして多方面に活動の幅を広げる上での、第一歩にまで繋がる転機だったとも思えるのだ。

40周年☆小泉今日子!

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2022.03.01
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カタリベ
1968年生まれ
中塚一晶
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