ホール&オーツの名曲「エヴリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」は、1980年発表のアルバム『モダン・ヴォイス(Voices)』に収録され、当時シングルカットはされなかった。この曲が広く知られるようになったのは、それから5年後にポール・ヤングがカヴァーし、全米1位の大ヒットを記録してからだろう。
ポール・ヤングのヴァージョンがヒットチャートを上昇しているときから、この曲のオリジナルがホール&オーツであることは話題になっていた。ダリル・ホールのメロディーメーカーとしての才能が遺憾なく発揮されたナンバーで、すぐに好きになった。
でも、本当の意味でこの曲の凄さを知ったのは、ホール&オーツのオリジナルヴァージョンを聴いてからだった。
ラジオでホール&オーツのインタビューが放送されたとき、ダリル・ホールがこの曲について語っているのを聞いた。実際にあった悲しい別れの歌で、自分でもいい曲だと思うし、気に入っている。ポール・ヤングがカヴァーしてくれて嬉しい。そんな話をしていたのだが、途中、言葉を詰まらせるように無音になる瞬間があった。インタビュアーが「あのとき、ダリルの目から涙がこぼれてびっくりしました」と言い、そこに被せるようして、ホール&オーツのオリジナルヴァージョンが流れてきた。
サビの部分をほんの数秒だったが、ダリル・ホールのシャウトが痛ましく胸に響いた。軽快さをまとったポール・ヤングの歌とは別物で、これがこの歌の素顔だった。そして、シングルカットしなかったのではなく、できなかったのかもしれないと思った。
出て行っては戻ってくることを繰り返す彼女。そのたびに男は心を擦り減らしてきた。今また彼女は別の男のところへ行こうとしている。もうこれ以上は耐えられそうにない。
君は出て行くたび、
僕の一部を持ち去って行く
彼女が去るたびに、男は自分の一部を失ってきたと言っているのだ。何度も何度も、心と体を切り刻まれるような思いをしてきたのだと。
ポール・ヤングのヴァージョンよりも少しテンポは遅く、ソウルバラードのマナーで切々と歌われるオリジナルヴァージョンは、真剣で、痛ましく、地味で、重たい。きっとシングルカットしても大ヒットはしなかっただろう。でも、だからこそ、心の深いところまで届くのかもしれない。
おそらく、ポール・ヤングもこの歌の深みを感じ取ったからこそカヴァーしたのだと思う。もっと多くの人にこの歌を届けたくて、より普遍性をもたせようと腐心したに違いない。
彼の歌からは、そんな誠実さが伝わってくる。
2018.07.27
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