1978年秋「君のひとみは10000ボルト」が大ヒットし、イケイケCMソング路線で頂点を極めてしまった資生堂。こんどは冬の到来とともに、クリエイティブ面で次第にクールダウンを図る。かつて山口小夜子らを起用してきた和風CM路線への回帰である。竹久夢二の日本画をイメージした、伝統的な和のビジュアルの広告に謳われたのは「素肌有情」「素肌美人」「素肌郷愁」。
この言葉を紡ぎだしたのは、小野田隆雄。前回紹介した土屋耕一と並んで資生堂の広告の黄金時代を支えたコピーライターだ。小野田は「ゆれる、まなざし」「時間よ止まれ」のコピー発案者でもある。広告モデルはまたも小林麻美。いかに彼女が時代のアイコンであったかが知れようし、彼女の雑誌ku:nelへの表紙登場・モデル復帰が大きく騒がれるのも納得できる。
ピンと張りつめた冬の空気に響くCMソングは、南こうせつ『夢一夜』。CMは、まさに竹久夢二の世界観そのものをみごとに再現した演出。ここで、資生堂のキャッチコピーをもとに詞を書き上げたのは、実は、阿木燿子である。メロディメーカーとしての南こうせつの才能は天賦のものだが、こと作詞の部分については、外部の作詞家に負うところが大きい。(『神田川』『妹』『赤ちょうちん』など、南こうせつとかぐや姫時代のヒット曲の作詞は、喜多条忠が手がけたものだ)『夢一夜』の世界観は、阿木という女流作詞家がいたからこそ成立し、週間最高3位・年間30位のヒットに結びついたといってよい。
阿木燿子は前年の資生堂CMソング『サクセス』(歌は夫・宇崎竜童が率いるダウン・タウン・ブギウギバンド)も作詞している。この曲は、年間シングルチャート22位、CMソングとしては松崎しげる『愛のメモリー』(江崎グリコ)に続く大ヒットを記録。当時の流行語「翔んでる女」のイメージどおり、「サクセス」を求める自立した自由な女の「動」を描いた歌だった。こんどはそこから一転しての「静」、堪え忍ぶ古風な大和撫子の姿。この洋と和・両極端な女性像の対比のなんと鮮やかなことよ。
阿木が竹久夢二の世界をここまで美しく描けたのは、なぜだろうか。彼女は、ちょうどこの年−1978年5月に、日本歌謡史に残る名曲・山口百恵『プレイバックPart2』を作詞している。もしかしたら、威勢良く啖呵を切るオンナ 〜山口百恵の一連の作品〜 への反動があったからかもしれない。あるいは「アタシはどっちのタイプの女も描き分けられるのよ」という女王のプライドがなせる業だったかもしれない。少し穿った見方をすれば、そうやって作詞界の女王すらも誘導する(だって、その年の夏にロックンロール番長=矢沢にCMを歌わせたんだから!)資生堂広告チームの巧みな戦略があったやもしれぬ。
さて、まもなく迎える79年春のキャンペーンで、なんと資生堂はいったんCMソング戦争から降りてしまうのである。その経緯はまた次回に。
(つづく)
2016.10.05
YouTube / shimomov
YouTube / Glory 昭和CM チャンネル
Information