先日高校生になった娘から「もうあんまり乗らないからあげるよ」と言って折りたたみ自転車をもらった。自転車に乗るなど何年ぶりだろうか。うれしくなって天気の良い日に江ノ島から鎌倉まで海岸線をサイクリングした。娘のお下がりの自転車を貰うことにちょっと忸怩たる思いもあったが、海から吹いてくる風が心地よく、自然と鼻歌が出た。もちろん曲はクイーンの「バイシクル・レース」(1978年)だ。
♪バーイセコ、バーイセコ
軽快なリズムにペダルを漕ぐリズムがシンクロしてグングンと自転車が進む。
とても気持ちがいい。
そう言えば小学生の頃、セミドロップのハンドルにウインカーとスピードメーターが着いた自転車に乗っていたことを思い出した。変速ギアボックスが自動車のシフトノブみたいな形をしていたり、デフォルトで警棒みたいな空気入れも付いていた。リアブレーキに至ってはディスクブレーキという念の入れようであった。駅前のサイクルショップ石上で買ってもらったのだが、納車の日が待ちきれず、何度も何度も駅前まで見に行ったのを思い出す。
当時、変速ギア付自転車を手に入れた子どもの行動範囲は飛躍的に伸びた。釣りに行くのも、野球に行くのも、駄菓子屋に行くのも、いつでも相棒の自転車と一緒だった。そう、当時の小学生にとって自転車は必要不可欠な相棒だったのである。
しかし月日は流れ、何時の頃からだろうか、自転車は相棒から単なる人間の運搬用具になってしまった。あれだけ大切にしていたのに、ちょっとお店で買い物をするくらいなら鍵も掛けないで駐めておくようになってしまった。
それでも自転車は言葉をしゃべれないからじっと我慢をしている。まるでディズニー映画「トイ・ストーリー2」で、成長した女の子にバザーに出されてしまう人形「ジェシー」のようである。近所の駐輪場でも、持ち主に忘れ去られたような自転車が、ハンドルに違反切符を結ばれたまま放置されているのを見かける。
あれから数十年。今私は娘のお下がりの自転車に乗ってクイーンを口ずさんでいる。
♪アイ ウォント ライド マイ バイシクル(僕は自転車に乗りたいんだ)
形あるものいつかは壊れる、それは分かっているが、今日は帰ったら潮風を受けた自転車をきれいに拭いてあげよう。
2016.08.27
YouTube / Roberto Besos
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