沖縄出身 新里三姉妹、ヒット曲を支えたコーラスグループ EVE
Re:minder 読者の皆さんは、70年代後半から90年代を中心に活躍したコーラスグループの EVE をご存じでしょうか。EVE という名前は知らなくても、中森明菜の「北ウイング」の後奏や麻倉未稀「ヒーロー」の前奏、さらには小泉今日子「まっ赤な女の子」での「♪ ジリジリジリジリ~」や、「ヤマトナデシコ七変化」での「♪ ジュンジョー、アイジョー、カジョーニ、イジョー~」など、やたらと張り切った(※誉め言葉です!)女性コーラス… と言えば、ピンとくる人が多いと思います。
EVE はレオナ、クララ、リリカの新里三姉妹で、1976年に Apples(アップルズ)として歌手デビューするも大きくヒットせず、1978年に EVE と改名した後に、スタジオミュージシャンとして数々のヒット曲を下支えしてきたコーラスグループです。
三姉妹ならではのハーモニー、バックコーラスなのにインパクト抜群!
EVE の最大の特長は、三姉妹ならではのハーモニーで、三声が低音から高音まで大きく拡散する部分も、三声がピタリと重なる部分も、ボリューム感満載になる点。なので、アルバムのスタッフとしてクレジットされる “バックコーラス” とは名ばかりで、むしろぼやぼやしていると、フロントの歌手を片っ端からなぎ倒すくらいの勢いがあります。
その破壊的な(?)歌声が人気の三井比佐子作品では、明らかにバックコーラスの EVE がメインを取っているでしょう。また、日本語でコーラスする場合でも、意図的に英語的に発音することで、かえってインパクト抜群になるのも EVE ならではの強みです。
筒美京平は EVE を指定!「Mステ」の強力なジングルも!
特に、筒美京平が編曲家に「コーラスは EVE で」と指定したというエピソードはよく見かけます。その筒美京平作品を数多く歌ってきた早見優は、それ以外でも自分の楽曲にはパンチのある「EVE のコーラスを使って」と制作スタッフにお願いし、また EVE の方も「優ちゃんの英語の発音はとても綺麗ね」と信頼し合う相思相愛の関係だったようです。
余談ですが、私自身、早見優のほかに、中森明菜や河合奈保子の楽曲に EVE がコーラスとして多数参加していることから、EVE 中毒(!)になってしまいました。特に、河合奈保子については、いい大人になってからの後年、プレイリスト
『河合奈保子×EVE パワフル・ボーカル対決!/ Naoko Kawai×EVE』を作ったほど。
さらにトドメを刺すように、86年秋ごろに新たに始まった音楽番組『ミュージックステーション』のCM前の「♪ ミュージック~ミュージック~ミュージック~ステーショ~ン!」という強力なジングルを担当。また、同年11月にリリースされた中島みゆきのハードロック系のシングル「やまねこ」において、みゆきの肉声とデジタルサウンドの双方に闘いを挑むかのようにパワフルなのにどこか無機質な EVE のコーラスが入っていたなど、もうこの頃には EVE のコーラス参加曲だけでマイカセットを作ろうと思うほど釘付けになりました。
いつも以上にパワフルに!「恋はパッション」で再デビュー
そんな EVE が87年2月26日にリリースしたのが、CBSソニー移籍第1弾となったシングル「恋はパッション」です。
歌詞は全編英語で、サビ部分は、浅田飴の新シリーズ “パッション” のCMを意識して「♪ FLY TO MY FLY TO MY PASSION」というフレーズを挿入し、サウンドは当時流行してきたユーロビート系のダンスミュージックを徹底。そして、EVE のボーカルは、これまでの長い裏方人生を払拭しようという意気込みが感じられるほどいつも以上にパワフル!英語曲で再デビューしただけあって、シュープリームスやアラベスクのゴージャスかつキャッチーな路線を狙ったのでしょう。
本作は、レコード売上は3.8万枚で、87年度年間シングルで267位ながら、有線放送リクエストは年間90位というデータ面からも、それだけディスコや盛り場などでかかりまくったことが分かります。また、B面の「TRA-LA-LA」のロシア民謡風のループも心地よく、聴いていると目が回りそうになるほど。
業界あげての大プッシュ、しかし自身のシングルヒットは生まれず…
以降も丸井、JR、アサヒビール、ソニー、ロッテ等々多くのCMタイアップがありました。さらにドラマ『ニューヨーク恋物語 Ⅱ』主題歌に起用されたり、NHKでは『歌謡パレード』のレギュラー出演後、年末の『紅白歌合戦』に出場したり、と業界をあげてプッシュされました。しかし、これ以上のヒットは生まれず…。
また、90年にユーミンの楽曲を、A.S.A.P.(As Soon As Possible)が全曲英語でカバーし大ヒットしたことをトレースするかのように、EVE も91年に小田和正やオフコースの名曲を全曲英語でカバーしたアルバム『I Love You.』を発売するも、TOP100 圏外に…。自分たちがコーラスで参加したシングルは何十曲もヒットさせてきたのに、自身のシングルは1曲も TOP10 入りすることはありませんでした…。歌謡曲から J-POP に移り変わろうとする時代においても、抒情的な歌声や歌詞がより多く求められたということでしょうか。
そして、そのようなセールス実績からか、87年から92年に発売されたこの時期の全作品は現在廃盤となっており、配信でもCMソング集的なコンピレーションアルバムに「恋はパッション」が1曲登録されているのみとなっています。
聴けば思い出すCMタイアップソング、ベスト盤CDを切に希望!
しかし!前述のように有力タイアップもたくさんあるのですから、聴けば思い出す人も多いはず!ソニーさん、是非ベスト盤CDの発売やストリーミング・サービスでの音源解禁をお願いします!あるいは、本人たちのタイアップ曲集を Disc1とし、EVE のコーラス参加曲集を Disc2につけて、あのパワフルな歌声を意図的に強調したリマスタリングを施せば、歌謡曲ファンも食らいつくはず!
実現しようものなら、私も協力しますので、どうぞ!どうか!ご検討ください!ちなみに、数年前、ある通販サイト限定商品として、EVE 参加曲コンピを何社かで作ろうとしたのですが諸般の事情で実現できませんでした…。
そんな訳で、EVE の音楽を今でも猛烈に聴きたくなることがたまにあり、棚から引っ張り出しては、彼女たちの強烈なボーカルを楽しんでいます。ただし、聴き過ぎるとたまに頭が痛くなるのですが、それもまた EVE の醍醐味です!!
Song Data
■ EVE / 恋はパッション
■ 作詞:Brian Richy
■ 作曲:作曲研究所(近田春夫)
■ 編曲:Mark Davis(馬飼野康二)
■ リリース日:1987年2月26日
■ オリコン最高位:51位
■ 推定売上枚数:3.8万枚
■ 100位内登場週数:12週
2020.02.26