子供を連れて映画を見に行くとなると、まず第一候補に上がるのはアニメだろう。我が家も『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『ポケットモンスター』『ナルト』、ディズニー、スタジオジブリアニメ… とアニメ街道を歩んできた。
アニメ以外の映画を見たのは、いつだったっけ。なんて思うこともしばしばだった。しかし、今となればアニメ映画は小さな子供向けという枠を大きく超え、世界に誇る名作が生まれるようになった。ちなみに今年の夏は『天気の子』を家族でプレミアムシートで観るという贅沢をしてしまった我が家である。ちなみに、プレミアムシートはポップコーンを分け合うのにはとても不便だということを学んだ…。
私自身のアニメ街道を遡っていくと記憶の一番果てにあるのが『ムーミン』であろうか。その後、『ハイジ』や『ガッチャマン』。しかし『ペリーヌ物語』以降数年間、イギリスで暮らしたので、そこからはディズニーや、『トムとジェリー』『ミスターメン』『スクービー・ドゥー』などの洋物へシフトする。ただ、これらはアニメ、というよりカートゥーンという名称が合っている。“カートゥーン” はどちらかというと “テレビ漫画” という感覚だろうか。
さて、『ウォーターシップダウンのうさぎたち』をご存知だろうか。ヘイズルという名のうさぎが主人公のイギリスのアニメ映画だ。これは私の中ではカートゥーンではなく、目線が凝っているのでアニメ。きっと専門的にこの二つを区別するものはないのだろうが、なんとなく。
“イギリスのうさぎ” といえば真っ先に思い浮かべるのは『ピーターラビット』ではないだろうか。その愛らしい姿、またそれとは相反した人間にとって厄介者という描写。なんとピーターのお父さんは、人間のマクレガーさんの奥さんにより料理されパイになってしまった、とかなり残酷な設定も…。
とても愛らしい姿は洋服を着せられて、まるでお人形のようだけれども、同時にうさぎを写実的にも描いていてその融合が絶妙。世界中の人々に愛されているのもうなずける。お話し自体もピーターの子供らしいいたずらっぷりと人間に捕まると食べられてしまうという甘辛なギャップもただものではない。
さて、一方で『ウォーターシップダウンのうさぎたち』。もともと同名の小説だったものがアニメ映画として1978年に公開され、21世紀になってからもテレビアニメにもなり、昨年、再度映画化された人気作品なのだ。日本でも1980年に公開されている。
こちらのストーリーは、これまで過ごしていた安全な地を追われたうさぎたちが安息の地を求めて旅をするというもの。
実は私はこの映画やテレビ番組を見たこともなく、小説も読んだことがなかった。ただ、母が買ってきたオールカラーのアニメ映画のシーンばかりで綴られた一冊の本(もちろん英語の)を見たことがあるだけ。
セリフもあまり細かく載っていないし、当時、小学生の英語力ではなんとなく “ここはピンチだ!” とか、“作戦が成功したのかな?” とか、想像で読み解くしかなく、ラストシーンもハッピーエンドなのだかなんだかわからない描写で私を困惑させた。
そして現代になって、インターネットを通じて話のあらすじを知ったり、ユーチューブで映画自体を見ることができるようになって、やっと話が繋がったわけである。
本の中の絵を見ていて、中盤に、詳しくはわからないが恐怖しか感じられないページがあったのだが、それはヘイズルたちが去った地が、のちに人間たちに埋め立てられ大勢のうさぎが殺されるシーンだった(ということを動画を観て知った)。
小学生だった私は、その赤い目をした鼠色のうさぎたちが半身溶けかかったようにしておしつぶされている絵から目を離させなかった。怖いと同時に間違いなくその映画で一番の秀逸のシーンだった。
うさぎというと、現代の日本人としてはせいぜいペット、あるいはキャラクターデザインのモチーフくらいだろうか。おなじみの LINE スタンプにもうさぎはたくさん登場して、当たり前のようにどれも写実的とは程遠い。多分それは野生のうさぎをあまり見ることがないからだろう。彼らが巣穴を掘って生活することなんて私もずっと忘れていた。
ピーターやヘイズルを生んだイギリスには野生のうさぎが野山に生息していて、イギリスと言えば、その土地の多くが穏やかな丘陵地で牛や羊が放し飼いにされている。同じ動物を主役にアニメを作っても写実的なものが描けるのはそのせいだろう。
そして、一方、日本では『ポケモン』のようにデザインされたキャラクターたちが生まれた。どっちが優れているとかそういうのではないが、事実、一番印象に残った恐怖感あふれるシーンも写実的というよりイメージ画だったことを思うと、実物(動物に限らず)を知りたかったら、ちゃんと実物に触れて学ばせなければならないのが今の日本なのではないだろうか。
とはいえ、東京の築地や御茶ノ水でも小さな野ネズミを草かげで見かけたことがあるので、目を凝らせば野生の動物たちは私たちの身近にいるのだ。野生動物を遠ざけているのは、実は私たちの思い込みなのかもしれない。
『ウォーターシップダウンのうさぎたち』の主題歌は1978年版アート・ガーファンクルの「ブライト・アイズ」から2018年版はサム・スミスの「ファイアー・オン・ファイアー」へと変わっているのだが、私は、苦難を想像させる力強いサム・スミス盤よりも、透明感あふれるガーファンクル盤の、作品をさりげなく支える感じが心地よい余韻を残しているところが好きだ。
2019.09.11
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