松田優作主演の『野獣死すべし』で愛する男から何のためらいもなく撃ち殺されるヒロインの表情を忘れることが出来なかった。
ヒロインを演じたのは小林麻美さん。
あの儚げな表情がその後の彼女のイメージに大きく影響していくのだが、あくまでも映画はキッカケにすぎず、私の心を奪ったのはその後の彼女の歌だったと思う。
例えばイタリアの男性歌手ガゼボのヒット曲「I Like Chopin」(1983年)をカバーした「雨音はショパンの調べ」。
耳をふさぐ 指をくぐり
心 痺らす 甘い調べ
止めて あのショパン
彼にはもう会えないの
Rainy days 断ち切れず
窓を叩かないで
Rainy days 気休めは 麻薬 Ah…
愛する男に会えない寂しい想いを乗せた歌詞が素晴らしく、その後もこの曲のイメージそのままに小林麻美という虚像が作られていく。
続く「哀しみのスパイ」では雨降るモスクワに舞台を移してスパイであるがために愛する相手を庇い別れなければならない女心を…。さらに「シフォンの囁き」では不倫の恋、愛してはいけない男をいつまでも待ってしまう女性の儚い恋心を歌っている。
3曲続けてすべて雨が降り続けているのがとても印象的。当時は、そういった儚げなイメージにやられて私も含め周りにいた男子のほとんどが「恋人にしたい芸能人は小林麻美」と言っていましたネ。
ところで、彼女のシングルの作詞ですが、「雨音はショパンの調べ」以降、すべて松任谷由実さんが担当しています。そのことを後から知って、それぞれ曲を聴き直したのですが… やっぱり素晴らしいです。小林麻美という女性を見事に表現し尽くしたユーミンの歌詞に触れ、あの当時の想い(憧れ)が一気によみがえりました。
ただ、『小林麻美の皮を被ったユーミン』に私は恋していたのだなと気付いてちょっとばかり複雑な心境にはなりましたが。
雨音はショパンの調べ / 小林麻美
作詞・作曲:Gazebo, P.Giombini
日本語詞:松任谷由実
編曲:新川博
発売:1984年(昭和59年)4月21日
2015.12.23
Information