87年、世はバブル景気に突入した直後だった。お金があり余ったとき、どんな行動をとるか?に人の個性が出るというが、それは企業とて同じ。この時期に、資生堂とカネボウ、二社のとった宣伝戦略が全く異なっていたのはおもしろい。
資生堂は、直接的な効果を求める販売促進よりも、文化事業・メセナ(芸術への支援)に傾倒してゆく。元来、同社のもっていた文化志向のDNAがそうさせたのだともいえるし、創業者の孫で同年に社長に就く福原義春氏が「企業は文化のパトロンとなり得るか」をテーマにリーダーシップを執ったのも一因だろう。87年春、資生堂はNYのメトロポリタン美術館で行われた「ダンス展」に協賛し、それをイメージしたゴージャスなCMの制作にとりかかる。
アールデコの空間で踊る広告モデルは桐島かれん、ナレーションは細川俊之、そして音楽は小林明子『くちびるスウィング』(作詞は湯川れい子)。小林はデビュー曲『恋におちて(85)』のイメージが強いが、往年のJAZZのスタンダードナンバーを思わせるこの曲では、前にも増して歌声に艶がかかっている。これらが一つになったCMの安定感、王道感たるや! ある意味、もっとも資生堂らしい世界観を表現しているのではないだろうか。
資生堂が高尚にアートなら、カネボウは分かりやすく映画と外タレでベッタベタである。東宝・フジテレビ製作の『竹取物語』と秋のCMで全面タイアップ。この映画は、特撮の神様・円谷英二が生前あたためていた企画で、市川崑がメガホンをとった。市川監督とは78年『女王蜂』でカネボウとタイアップした縁もある。ただ、沢口靖子演じるかぐや姫が宇宙人という〔時代劇+SF〕設定からして、若干トンデモ映画の香りがしないでもないが… それでも、驚くべきことに配給収入は同年公開の『マルサの女』『男はつらいよ』を上回った。
しかし、しかしである。『竹取物語』に、ピーター・セテラの『STAY WITH ME』が、映画主題歌・CMソングとしてかぶさるのである。このカリフォルニアロール的な、妙竹林な感じは何だろうか。それも、ご丁寧にも邦題つきで、『ステイ・ウィズ・ミー song for KA・GU・YA・姫』ときたもんだ!
もう、ダサすぎて眩暈でクラクラするが、これが沢口靖子の映像とシンクロしたときには、笑うしかなかった。ブルック・シールズのときもそうだったが、「高級舶来品」をここまで安っぽく見せるセンスには、逆に感心する。この大阪USJにも通じるごった煮の感覚は、カネボウならではのCM戦略である(と、私は勝手に解釈している。関係者の皆さん、ごめんなさい)。
ちなみに、この映画とCMから十数年後の世紀末、沢口靖子は大阪出身の素のキャラを活かして、金鳥のCMでコメディエンヌとしての才能を大いに開花させていく。これでオバちゃん層の支持をガッチリつかんだからこそ、主婦に大人気のドラマ『科捜研の女』につながってゆくのである。
また、「リッツパーティ」のあの世界観も、コメディエンヌとしての要素がどこかに感じられるから「分かっている楽しいウソ」として長きにわたり消費者に受け入れられてきたのである。そう考えると、カネボウの珍妙なCMは金鳥の壮大な前フリのようでもあり、金鳥のタンスにゴンゴン人形用のCMはかぐや姫の後日譚のようでもある。
(つづく)
2017.03.08
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