フォークシンガーらしいフォークシンガーだった長渕剛
長渕剛で忘れられないエピソードは、吉田拓郎ライブの前座に出た時、観客からの帰れコールの中「バカヤロー。俺は、歌いにきたんだ!」と叫んで観客がシーンとなった、というものだ。
「順子」がオリコンシングルチャート第1位を獲得した1980年、AMラジオばかり聞いていた中学生は、なけなしのお小遣いでシングルレコードを買って聴きながら、そうした逸話にポーッとなっていた。
何と言ってもルックスが好みだった。長髪・痩身。塩系というかチキンスープ系というか、あっさりとした顔だち。少女漫画の中で片思いされるキャラクターにありがちな飄々とした佇まい。透明感のあるボーカル。そのうえ、そんな骨太な一面まで垣間見せられては、もう13歳女子は、でへへへですよ。
ラジオパーソナリティーとしても人気だったし、女性口調の曲も多かったし、当時の長渕剛はまさに、フォークシンガーらしいフォークシンガーだった。
初主演ドラマ「家族ゲーム」から始まったキャラクター改革?
そんな長渕が、その後に続くキャラクター改革をちょこっと行い始めたのは、1983年のTBS系ドラマ『家族ゲーム』への初主演からだろうと思う。折しも私生活では、石野真子との離婚直後。プロデューサーは『3年B組金八先生』を手がけたことでも知られる柳井満。
柳井は、武田鉄矢同様、ミュージシャンの長渕剛の俳優としての才能をこのドラマから開花させた。もちろん放映時間帯も、金曜日8時の『金八』枠だ。
松田優作の映画はもちろん、2013年のリメイクでも話題を呼んだ『家族ゲーム』だが、私は長渕が主演したこのドラマ版がやっぱり好きだ。役者も脚本も全部好き。重苦しい掃き溜めのような団地の空気感、そこに暮らす自動車修理会社のおやじたる伊東四朗と、まだまだ将来を諦めきれない妻の白川由美。優等生の兄、三好圭一(当時はジャニーズ事務所所属)と、中学でいじめにあっている戦闘機オタクの弟、松田洋治(映画『ドグラ・マグラ』も最高♡)。
そんな家族ゲームに参戦した三流大学7年生の家庭教師、長渕剛。白いTシャツ&ジーンズに、肩パットの入った大きめのジャケット姿が心に残る。伊東四朗は長渕の髪型を見て “ネギ坊主” と茶化していた。
破天荒でチャラくてがさつ、時に暴力的で、でも人懐っこい彼のキャラクターが、閉塞感に満ち溢れた沼田家の家族関係をいつか変えていく… というストーリー。これが当て書きのように長渕にハマっていて、ラーメン屋で、エロ本破ってポケットにしまうシーンなんか最高だった。最後は兄弟の立場が逆転し、物語は終わるのだけど、決してハッピーエンドではなかったところもよかったな。
主題歌は「GOOD-BYE青春」ザ・ベストテンで最高3位
11thシングルとなった主題歌の「GOOD-BYE青春」は、憂鬱をまとった曇天模様の青春の後ろ姿を、ほろ苦くもキャッチーな長渕サウンドで綴った名曲だ。ドラマが始まって曲が流れ出すと、ジグゾーパズルのピースがどんどん埋まっていく映像が印象的だった。『ザ・ベストテン』では最高位3位を記録。B面の「−100°の冷たい街」も挿入歌として起用された。
この後、ドラマ好評につき翌1984年には『家族ゲームⅡ』も作られたが、設定だけ同じにしたスピンオフ作品のようで、一作目よりずいぶんコミカルだった。お父さん役も伊東四朗から遠藤太津朗に変わっちゃってたし。こちらの主題歌の「孤独なハート」がまた、爽快なロックテイストで、前作に比べてあまりに明るくちょっと驚いたのを思い出す。
もしやこのあたりで長渕のキャラ変遷への土台が固まり始めたのではなかろうか。たぶん?
※2017年4月15日、2018年9月7日に掲載された記事をアップデート
2020.09.01