1994年 8月16日
カバーはオリジナルを超えるか? 中島みゆきと吉田拓郎のファイト! 後篇
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吉田拓郎がコンサートで初めて「ファイト!」を歌った日
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 1994年のコラム 
城達也による魅惑の夜間飛行、音楽の定期便「ジェット・ストリーム」

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photo:Last.fm  

吉田拓郎が初めて公の場でこの曲を歌ったのは、やはりこの1994年のことになる。むしろ以前から歌う機会をうかがっていたのかもしれないが、きっかけは泉谷しげるの呼び掛けで8月16日に開催されたチャリティイベント『日本を救え’94~奥尻島、島原・深江地区救済コンサート』でのパフォーマンスである。

このコンサートではエレックレコード時代からの盟友、泉谷からの要請に応えて、多くのミュージシャンが参加する「スーパーバンド」のバンマスとして、ステージを束ねる重要な役どころを担っている。

またこのコンサートの模様はテレビ朝日がコンサートの企画段階から舞台裏の模様をドキュメント映像として放送したため、多くの人が見覚えがあることと思う。

我の強いミュージシャンたちの集まりだから、統率するのは大仕事である。映像の中では「何で皆こんなにわがままなんだよ!」と嘆く拓郎の姿が見られるが、時折周囲を振り回しているのが、他ならぬ彼自身でもあることも見て取れる。

当日の構成を担当し、番組のナレーターも務めている小田和正の目線で語られる映像を見たほとんどの方が、きっと小田こそが影の立役者であることに気付くことだろう。リハーサルでの八面六臂の活躍ぶりは、今も続くライフワーク『クリスマスの約束』を彷彿とさせ、彼はやがてそこへとつながる経験値を得たに違いない。

吉田拓郎の「ファイト!」への想いを吐露した件の台詞「あれはオレの歌だ。」が、その中で発せられたものであることは、長年アレンジャーとして彼を支えてきた瀬尾一三が証言している。

瀬尾は1988年リリースの中島みゆきのアルバム『グッバイガール』をプロデュースして以来、全てのアルバムに関わっており、いわば彼女と吉田拓郎の間に立つ人物である。例の「オレの歌だ」発言を受け、パフォーマンス実現に向け、彼が奔走したであろうことは想像に難くない。そうして披露された吉田版「ファイト!」は見事にはまり、強くリスナーの印象に残ることになったわけだが、ここでバンマス権限を発動した?… かどうか定かではないが、ほぼ全部の楽曲が「スーパーバンド」のパフォーマンスとして披露される中、この「ファイト!」だけは、なぜかソロの弾き語りで披露された。

もちろん結果的にもそうしたほうが良かったに違いないのだが、拓郎自身の他のメンバーに対する配慮なのか、中島みゆきに対するリスペクトの表れなのかは分からない。ただ公式DVDでもステージパフォーマンスは収録されていないし、放送されたメイキング映像の中でも、リハーサル中のわずかな映像しか映っていない(映像① 6′55″から)。

また多くの人が評価し、自らも自分の歌というほど思い入れがあるはずなのに、ただの一度もレコーディングをしたことがないという。意外なほどの気遣いがうかがえるのだ。

おそらくは想像するに、このパフォーマンスが評価され、自分で作った曲よりも自分の曲らしいといわれるほど、拓郎自身は戸惑ってしまったのではないだろうか。

その要因は自分のプライドかもしれないし、中島みゆきに対する嫉妬心かもしれない。その葛藤は二人の間に立つ瀬尾一三がさらに奔走する出来事、吉田拓郎から中島みゆきへの楽曲依頼という形となってあらわれる。彼が作詞作曲の両方を他人にゆだねるのは、初めてのことだったという。

コンサートの翌年、1995年6月リリースのアルバム『Long time no see』に「永遠の嘘をついてくれ」という楽曲が中島みゆきより提供された。一説では「ファイト!」のような曲は自分には書けないことを悟った拓郎が「遺書のような曲を…」というオーダーをし、苦しむ依頼主に活を入れるつもりで中島が書いたアンサーソングだとも云われている。そしてこの曲では、2006年に開催されたつま恋コンサートで、音楽監督を務めた瀬尾の尽力で、彼女のゲスト出演による共演も果たしている。

このコラムの「カバーはオリジナルを超えるか」というテーマについて考えてみると、限りなく可能性を感じる事例であることは、もはや疑いようがない。

カバーする側、される側の間に相互にリスペクトと深い理解がある場合、それが想定外の効果を生むことはあるのだろう。だがその反響があまりにも大きいと、オリジナルでないことでの悩みや戸惑いが彼らを苦しめることもあるということだ。

吉田拓郎ほどのミュージシャンであっても、それは例外ではなかった。「ファイト!」はあまりにも彼のパーソナリティにフィットしてしまったのである。この曲と出会い、欲して、その作者に助けを求めた。

「永遠の嘘をついてくれ」はいうなれば、中島みゆきが吉田拓郎だけのために贈った「ファイト!」だったに違いない。

2017.08.18
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