日本のロックの祭典ともいうべき大晦日恒例のライブイベント、内田裕也プレゼンツ『ニューイヤーズ・ワールド・ロック・フェスティバル』(2018-2019)が46回目を迎えた。
1973年から現代まで、時代と共に刻み込まれた出演アーティストやバンドの生きざまは、そのまま日本音楽界のぶっとい幹になっている。初参加の僕にとって会場に身を置くだけで感慨深いものがあったが、その中で深く心に残ったシーンをかい摘まんで紹介していきたい。
まずは日本を代表するポップメイカー近田春夫氏。70年代からのロックの歴史を踏襲しつつも緩やかで自然体な3ピース編成の「活躍中」というユニットでの登場だ。近田氏は渋谷・西武劇場で行われた第1回のライブ(1973-1974)にも出演を果たしている。
ドラム、ベース、そして同氏が操るキーボードのメロディからはニューウェーブを昇華したポップな感性を垣間見ることができた。平成最後の『ニュー・イヤーズ』にも最先端のまま、会場全体を大らかに包んでいった。
そして、同じく第1回に出演している頭脳警察。アコースティックギター、パーカッションというシンプルな構成はそのまま。かつて反逆の象徴とされた PANTA の歌声は暗闇を突き抜け、会場内に響き渡っていく。シンプルな構成だからこそ成せるプリミティブなロックの本質がそこにあった。
PANTA 氏が十代の時、感銘を受けたというヘルマン・ヘッセの詩を訳し歌う「さようなら世界夫人よ」は時代の狭間に立った聴衆に深く突き刺さっただろう。かつて政治の季節に歌ったこの歌が今なおリアリティを孕んでいると思えてならないのは、ロックの見えない力が、まだ自分自身を突き動かしているという証かもしれない。
世界はがらくたの中に横たわり
かつてはとても愛していたのに
今 僕等にとって死神はもはや
それほど恐ろしくはないさ
さようなら世界夫人よ さあまた
若くつやつやと身を飾れ
時代が変わっていく中で、置き去りにしたもの、忘れ去られたもの、いろんな取捨選択をしながら生きてきた僕等にとって PANTA 氏の叫びこそが、忘れようにも忘れられない心の奥底に潜むロックの初期衝動だと感じ涙が溢れてきた。その魂は70~80年代から連綿と続き、今も時代と戦っていたのだった。その足跡を残していった先輩たちの今が胸に突き刺さる一夜であったことは言うまでもない。
今年、久々に新譜をリリースするというザ・ロッカーズ。白髪のリーゼントに赤い革ジャンを着て陣内孝則氏が登場した。オープニングは、バトルロッカーズでプレイした映画『爆裂都市』の主題歌「セルナンバー8」だ!
僕の中に抑えきれない激情が膨らみ、無条件に身体が前へ前へと突き進む。十代の頃、夢中で聴いた彼らのスピードは健在だった。新曲では、ギターのアンサンブルをより重厚に、かつてないバンドの深化を見せてくれた。ロッカーズは、単なるリユニオンではない、魂を内包した今を生きるバンドだということを証明してくれた。
そして、あっという間に2019年が近づいてくる。カウントダウンの時間に登場した鮎川誠氏の年季の入ったレスポールからは、ギミックなしで織りなすロックンロール! 相変わらずの現在進行形だ。シーナ&ザ・ロケッツは、過去46回の歴史の中、41回の出演を果たしているという。「スイート・インスピレーション」や「ユー・メイ・ドリーム」といったお馴染みのナンバーでは、愛娘 LUCY をヴォーカルに、シーナ在りし日の残像を思い起こさせてくれた。
余談だが、楽屋でお見かけした鮎川氏は、あの傷の入ったレスポールをまるで赤ん坊を抱きかかえるように愛おしげに優しくつま弾いていた。また、陣内氏はステージとは違う鋲打ちの黒い革ジャンを着て、そこがまるでステージであるかのように、肩で風を切り颯爽と歩いていた。
その姿は、80年代に陣内氏が主演を務めた一連のニューウェーブヤクザ映画の印象そのままだった。いや、あの男気溢れる主人公たちは、ロックンロールを背負った氏の生き様そのものだったと改めて痛感した。つまり、僕が言いたいのはシナロケもロッカーズも、生き様、思考、日々の過ごし方があくまでも自然体にステージに表れているということで、それを目の当たりにしたことは、実に得難い瞬間だった。
十代の頃から私淑する先輩たちが繰り広げたステージには、懐かしさという言葉は皆無だった。経験を積み重ね、今を生き、明日に繋げる。そんな当たり前だと思われることがどれだけ難しいか。音楽活動を継続させ、2019年現在の飾らない自分たちの姿を、かの出演バンドは僕らに見せつけてくれた。
かつて、ジョニー・ロットンは「ロックは死んだ」と嘯いた――。
もちろん答えは NO だ。その証拠に、Truman Capote Rock’n’ Roll Band を従え、車椅子で登場した内田裕也氏は「ジョニー・B.グッド」で確かに立ち上がったんだ。静かに… そして、神々しく。
豊かなアメリカの象徴として生まれたチャック・ベリーのロックンロールは、内田裕也という歌い手を得て、氏の生き様を映す鏡となった。そこにはポップなメロディとは対極にある重みを感じずにいられない。バンドの音を細かく聴き分け、特にギターのリズムに合わせてメロディを乗せていくという繊細な歌唱法も健在だった。
裕也氏の軌跡は今も続いている。その道程の途中に立ち会えたことに深く感謝し、新しい時代に向き合っていこうと心に誓った。
Live Data
■46th NEW YEARS WORLD ROCK FESTIVAL 2018-2019(銀座博品館劇場)
※台北、ロンドン、ソウル、東京、同時開催
■出演
高樹町ミサイルズ
キノコホテル
高木完&THE BAND
カイキゲッショク
新月灯花
活躍中(近田春夫)
TH eROCKERS(陣内孝則)
頭脳警察(PANTA)
KATAMALI
STORM
白竜
シーナ&ザ・ロケッツ(鮎川誠)
内田裕也&Truman Capote Rock’n’Roll Band
2019.01.17
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