インエクセスのボーカリスト、マイケル・ハッチェンスにロックオン
インエクセスの代表的なアルバムといえば、100人いたら99人が『キック』と答えるだろう。
ご多分に漏れず私も、そのころインエクセスにハマった一人。1987年、シングル「ニード・ユー・トゥナイト」が発売され、そのMVを見たとき、ボーカリストのマイケル・ハッチェンスにロックオンされてしまったことがきっかけだった。
フワッとしたウェービーヘア(その後流行ったロン毛の元祖か)の彼が内股でしなしなと踊り、張りのある声で歌いながら、画面の前にいる私をじっと見つめる(と思わせる)姿は、ただただセクシーで “エロ” だった。
そんなある日、マイケルが主演していた映画があることを知り、ビデオを即 “お取り寄せ” した。
映画「ドッグ・イン・スペース」と「シド・アンド・ナンシー」
1986年に公開されたその映画のタイトルは、『ドッグ・イン・スペース(Dogs in Space)』。舞台は70年代後半のオーストラリア・メルボルン。当時のミュージックシーンを描いたもので、パンク・ムーブメントも終焉に向かっていたころではないかと思う。
家をシェアする若者たちが、男女入り乱れて雑魚寝する場面を見て、既視感を覚えた。
『シド・アンド・ナンシー』だ。
そのころ『シド・アンド・ナンシー』が日本で公開され、私も渋谷まで見に行った。若者が一軒の家に集まって、ごちゃごちゃとした部屋に雑魚寝していたイメージ。
映画の公開時期は両者とも同じくらいなので、どちらかがパクったということはなさそうだが、ストーリーは似ている。バンドをやっている破滅型の主人公とそのガールフレンド、そしてパーティー、ドラッグ。最後は誰かの死で終わるところも。
さて、『ドッグ・イン・スペース』に関していうと、主人公のサムがとにかく、エロい。
それはマイケル・ハッチェンスだったからかもしれないが、本能のまま動き、求め、毛布にくるまって彼女を見つめる姿はもうかわいくて、仔犬のよう。わん♡ と迫られたら、犬アレルギーの私だって抱きしめてしまいたくなる。
「サムって “まんま” マイケルじゃない?」と思った。ちなみに、タイトルにもある “ドッグ(犬)” は、スプートニク2号に乗せられて宇宙へ行った犬、ライカをなぞらえたもの。
諸説あるマイケルの死因、状況はシド・ヴィシャスに近い?
当然、私が彼を抱きしめる機会もなく、マイケルが亡くなって23年になろうとしている。
自殺とされている彼の死因にも諸説あり、当時のパートナー、TVプレゼンターのポーラ・イェーツは「首つり自殺じゃなくて、1人でするそういう “プレイ” だった」と主張していたそうだ。
それまではカイリー・ミノーグを始め、いろいろエロエロと浮名を流していたマイケルだが、ついにはボブ・ゲルドフの妻だったポーラを奪い、略奪した。二人してドラッグにおぼれ、マイケルが亡くなった3年後にポーラもヘロインの過剰摂取によって世を去ることになる。
シド・ヴィシャスも、恋人のナンシーを刺殺した(とされた)あと、ヘロインのオーバードーズで亡くなっており、状況としてはそれに近い。
これでは “ドラッグ、ダメ。ゼッタイ。” で話が終わってしまいそうだが、マイケルの死の背景にあるものは、それだけではなかった。彼はメンタル面で問題を抱えていたというのだが、その理由が壮絶なのだ。
1992年、泥酔していた彼が夜道でもめ事となり、倒されて後頭部を強打して頭蓋骨を骨折し、結果として嗅覚と味覚をほとんど失ってしまったらしい。その後精神的に不安定となり、バンドのメンバーたちにナイフを突きつけたりもしたそうだ。
ああ、抱きしめてあげたかった… ← まだ言うか
マイケル・ハッチェンスの魔力、真の理解者がいたならば…
という感じで、こんなにだらしないヤツなのに、ついつい構いたくなってしまう。マイケル・ハッチェンスは、女をそんな気持ちにさせる、魔力を持っていたのだと思う。
だけど、結局誰も、彼の真の理解者とはなれなかったのだろう。彼に同情していっしょに破滅するのではなく、ともに地獄からはいあがる勇気と力を持った人がいたら… それはシド・ヴィシャスも同じだったのではないだろうか。
ご存命なら60歳。渋いチョイ悪エロ男爵になっていたんじゃないかと思うと、ただただ悔しい。いつか私もそっちに行くと思うけど、そのときは嫌っていうほど、ぎゅうぎゅう抱きしめちゃうからね!
※2019年9月23日に掲載された記事をアップデート
2020.09.23