いよいよ本格的な受験シーズンの到来である。
このサイトの大方の読者にとっては遠い昔に味わった辛苦の思い出だろうか。あるいは、受験生を持つ親の側として再び苦労を味わっている人も多いかもしれない。
そんな鬱屈とした気分で過ごす受験勉強の日々の中で、音楽に癒やされたり励まされた経験は誰にでもあるだろう。
特にリマインダー世代が受験生だった頃はラジオの深夜放送に勢いがあった時代。受験の思い出にラジオや音楽は深く結びついていると思う。もちろん、わたしもそのひとりである。
まっとうな受験生とはいえなかったわたしは、自室にこもれる大義名分を得て音楽やラジオにも没頭した。皆が持っているという理由だけで買い揃えた「試験に出る英単語」等々の参考書。そして「大学受験ラジオ講座」を録音したまま、聞いてないカセットテープ。それらが高く積み上げられた勉強机に向かってもなお音楽誌やいくつかのFM雑誌は熱心に読んでいた。では、お気楽な受験生だったかといえばそうでもない。
わたしは高校時代に大学へ行くより音楽で食っていくと信じていた。それが青臭い妄想に過ぎないと自覚したのは卒業してしばらくしてのこと。ならば、ひとまず大学へ行っておこうと真剣に勉強を始めたのは、高校を卒業した翌年。つまり、勉強期間は1浪生だが年齢的には2浪生と同じだった。
80年代当時、浪人するのは当たり前の風潮があった。大学によっては受験生の半分以上を浪人生が占めているという、今では信じられないような状況だったのだ。
とはいえ、浪人の身分で成人を迎え、秋にもなれば失敗の許されない受験が迫っている状況と向き合うことになる。それまで蓋をして隠していた焦燥感があふれ出そうになっていた。
そんなある日、たまたまつけたラジオで放送していたNHK-FMの『ニューサウンズスペシャル』という番組のスタジオライブに耳を奪われた。
ディレイを効かせた音場の広い空間的なギターと、それを引き締めるかのようなタイトなリズム。そして、ハスキーなのにクリアでパワフルな女性ボーカル。無駄な言葉遊びのないストレートな歌詞。
「これは誰だ?」と思った時、番組のDJだった高橋モコさんが「今日のゲストはPERSONZです」と言った。
わたしはあわててカセットのRECボタンを押した。たまたまデッキにセットされていたTDKのSA-Xにはビリー・ジョエルが録音されていたはずだが、そんなことどうでもいい。ラジオの向こうから流れてくる「Lucky Star」「Freedom World」と疾走感のある曲に、わたしは部屋で思わず立ち上がって拳を上げた。
そうだ、俺はラッキースターなんだ! フリーダムなんだ!
そして、最後の「Never Surrender」では「うまくゆく事ばかりじゃない」と現実に戻されつつ、それでも「ネバー・サレンダー!」と、再び体育座りから立ち上がって斜め上45°を見上げる。
このカセットテープの反復再生によって、わたしはどれだけ励まされたことか。むしろ、励まされ過ぎて自信過剰になってしまったほどである。そのおかげもあってか、わたしはなんとか大学に合格できた。
あれから30年。今もまだ彼らが活躍しているのは嬉しい限りである。今春にはツアーがあるらしいから、久しぶりにライブ観て元気をもらおうか。もう、受験や試験は懲り懲りだけど。
そういえば、後日談がある。わたしは大学を卒業後、出版社に在籍していた。その時の仕事として彼らに初めてインタビューする機会を得た。ある意味、わたしの大学合格を支えてくれた恩人との面会である。
そんな気持ちでお会いしたボーカルのJILLさんとベースの渡邉さんは、実に優しくてポジティブな人柄だった。
文は人なりというけれど、歌も人なりなのである。
2018.01.27
YouTube / MANAKO´S
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