原田知世は角川映画のスター俳優の中にあって特別な存在であった。
薬師丸ひろ子が「野性の証明」、渡辺典子が「伊賀忍法帖」でデビューしているが、実は共に主演作ではない。主役は前者が高倉健、後者が真田広之。要するに準主役(ヒロイン)であり主役ではなかった。姉の貴和子のほか、高柳良一、野村宏伸といった男性陣も同様である。最初から主演俳優としてスタートしたのは原田知世だけなのである。
知世ちゃんは1982年に行われた「角川・東映大型女優一般募集」で入賞を果たし芸能界入りする。その時のグランプリは渡辺典子。次いで、準グランプリに津田ゆかり。なんと知世ちゃんはおまけの特別賞に過ぎなかった。ところが、その三か月後にテレビドラマ『セーラー服と機関銃』で主演デビューを果たしたのは三番手の彼女だったのである。
この時、プロデューサーの角川春樹氏は、まるで舞踏会に行きたがるシンデレラに魔法をかける魔法使いのように知世ちゃんに美しいドレス(セーラー服)を着せ、ガラスの靴(機関銃)を履かせてみせた。同時に主題歌『悲しいくらいほんとの話』もリリースし、一気に歌手としてのスタートも切らせている。続く『ねらわれた学園』では、演技派の伊藤かずえと競い合わせて、主演女優として必要な演技力を学ばせていく。そして、満を持して名作「時をかける少女」での映画主演デビューである。
春樹氏は最初から他の誰よりも先に知世ちゃんをスターにすることを考えていたのだろう。「角川・東映大型女優一般募集」における「特別賞」が、三番目の賞ではなく、実は配給元とは関係のない「角川春樹の特別枠」であったことに僕達はこの時ようやく気付かされるのであった。
映画女優・原田知世の誕生。そのシンデレラストーリーは、まるで『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授と花売り娘イライザである。『時をかける少女』の撮影現場にいた春樹氏が、大林宣彦監督と知世ちゃんとの深い信頼関係に嫉妬したという話は有名。その後すぐに自らメガホンをとり、彼女の主演第二弾として映画『愛情物語』を作り上げている。ミュージカルスターを目指す少女とあしながおじさんとの関係を描く邦画では珍しいミュージカル仕立ての作品。劇中歌の制作には、康珍化、林哲司、松任谷正隆・由実夫妻、大貫妙子といった超一流だけを起用。そのサウンドトラックには、原田知世のすべてを表現し尽くそうという春樹氏の強い意欲が満ち溢れていた。
愛情物語 / 原田知世
作詞:康珍化
作曲:林哲司
編曲:萩田光雄
発売日:1984年(昭和59年)4月25日
2016.08.07
YouTube / KadokawaPicturesJP
YouTube / 六連星K3
Information