1979年2月に発売されたセックス・ピストルズのアルバム『ザ・グレイト・ロックン・ロール・スウィンドル』にはがっかりさせられた。これほど聴くのが苦痛なアルバムはなかったからだ。このアルバムは同名の映画のサウンドトラックで、ピストルズのディスコメドレーやオーケストラバージョン、ボーカルに大列車強盗犯のおっさんが出てきたり、誰が歌っているのかよくわからないものまであって、通して聴くのが辛いアルバムだった。 当時、僕はこのアルバムに収録されたカバー曲だけをカセットテープにダビングして聴いていた。ザ・フーにエディ・コクラン、チャック・ベリー、そして「マイ・ウェイ」。とたんに苦痛がない楽しいアルバムに変身した。そして、この中で絶対に聴き逃してはいけない曲が「ステッピング・ストーン(I'm Not Your Stepping Stone)」だ。 モンキーズ・バージョンの「ステッピン・ストーン」が有名だが、僕にはピストルズの方がオリジナルに思えて仕方がない。歌い出しの「アイヤイヤイヤイヤー」はまるでチンピラの絡みだ。 このジョニー・ロットンの歌い方が「俺はお前の踏み台じゃない」という歌詞に迫力と説得力を与え、ピストルズのオリジナル曲のように感じさせたのだろう。 もともとこの曲はモンキーズの裏方作曲家コンビ・ボイス&ハートが作ったもので、モンキーズ以外にも多くのバンドが演奏をしている。でも「ここではない」と曲自身が意思を持っているかのように歌い手を探し続け、そしてたどり着いたのがセックス・ピストルズだったのだとも思えてしまうのだ。 当時、僕達のバンドでもこの曲をカバーしようと思いメンバーに聴かせたところ、ロックをまったく知らないまま、騙されてバンドに引きずり込まれたカワ(ベース)が、「俺、この曲知ってる、かっこいいよな」と速攻で僕に同調。しかもいきなりピストルズに合わせて歌い始めた。ところどころに金切り声を交えて。 アーアー 子供じゃない アーアー 子供じゃない 君は年上 気まぐれで 映画やデイトに誘う ぼくの心は こんなに 恋にもえはじめているのに 「なんだよ、その変な歌詞? 血管が切れそうだからやめてくれよ」と恐る恐る話しかけると、「これフィンガー5の曲だよ」と。フィンガー5の2ndアルバムにこの曲が入っているのだという。「やろうぜ!コピーしてくるよ」と嬉しそうに言うカワに僕は「コピーするのはフィンガー5じゃないからね」とそっとお願いしたのだった。 モンキーズ、ピストルズ、そしてフィンガー5。「ステッピン・ストーン」に選ばれたのは誰なのか? それは聴く人それぞれで異なるだろう。それが誰であれ、それまで聴いてきた音楽がまったく異なる者同士をいとも簡単に交差させてしまうのもまた音楽が持つ魅力のひとつといえるだろう。 歌詞引用 ステッピン・ストーン / フィンガー5
2017.10.06
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ステッピン・ストーン(I'M NOT YOUR STEPPIN' STONE) / フィンガー5
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