これが未来のロックだ、1989年 ジーザス・ジョーンズ登場!
産業として巨大化した80年代ロック。スタジアムロックが悪いとは言わないけれど、新しい音楽スタイルで勢いのある若いバンドこそロックそのものだ。1989年、高校生だった私は自分たち世代のバンドの登場を待ち焦がれていた。
その予兆は、ザ・ストーン・ローゼズやピクシーズの登場で現実味を増し、90年代は80年代とは違うロックが世界を席捲するに違いないと感じていた。その頃、私がガツンと衝撃を受けたイギリスからの新人バンドが、本稿の主人公ジーザス・ジョーンズだ。
ファーストアルバム『リキダイザー』を発売後すぐに入手し、一聴した瞬間、「これが未来のロックだ!」と胸を熱くしたことを昨日のことのように覚えている。スピード感はパンクだし、ザクザクしたノイズ・ギターはスラッシュメタルみたいだ。でも、曲はキャッチーでポップ。そして、反復するビートはハウス・ミュージックで、スクラッチノイズとサンプリングが喧しく多用されるところはヒップホップ的だ。ジーザス・ジョーンズが鳴らしているサウンドは、今までに聴いたことのない音楽で、とにかく刺激的で斬新だった。
スケーターファッションに身を包んだ “継ぎはぎ” ミクスチャーバンド
また、ザ・ストーン・ローゼズやハッピー・マンデーズは、ダボダボのバギーなジーンズにボサボサの髪型でむさ苦しいファッションだったのに対し、ジーザス・ジョーンズは、スケーターファッションに身を包み、当時のロックバンドとしては一早くストリート系ファッションを取り入れていた。しかも、ボーカルでリーダーのマイク・エドワーズはシュッとしたイケメンで鳴っている音とビジュアルもピタリとハマっていて、カッコ良かったのだ。
当時、アメリカではファンクとロックを混ぜ合わせた、所謂ミクスチャーロックが台頭していた。アメリカ勢が卓越した演奏技術でファンクとロックを混ぜ合わせているのに対し、ジーザス・ジョーンズは、ギターはメタル、スピード感はパンク、リズムはハウス…という具合にパーツとパーツを接着している印象なのだ。もう少し分かりやすく、乱暴に言うと、継ぎはぎでいろんな要素を縫い合わせて作り上げたロックという音像なのだ。
だからと言って、ジーザス・ジョーンズの『リキダイザー』がダメなのかと言うと、全くそんなことはなく、体裁を整えることよりも、面白いと感じた音楽ジャンルを全部飲み込んでやろうという貪欲な姿勢こそが、バンドに勢いを与えていたことは間違いない。高校生だった私にとっては、音楽的な体裁よりも、90年代の扉を俺たちが開いていくんだという勢いこそがリアルだったし、何よりも大切だったのだ。
セカンドアルバムの大成功、バンドは現在(2020年)も存続中
ジーザス・ジョーンズはファーストアルバムの勢いはそのままに、セカンドアルバム『ダウト』を1991年にリリースする。継ぎはぎの縫い目を綺麗に仕立てるテクニックを身に付け、曲はさらにポップさを増し、音づくりも洗練された見事な作品で、シングルカットされた「ライト・ヒア・ライト・ナウ」はビルボード・シングルチャートで2位をマークする大ヒットとなった。しかし、サードアルバム『パヴァース』はテクノ色を強め、最大の魅力だった初期衝動は失われてしまい、セールス的にも惨敗してしまう。
バンドは、現在でも存続しており、昨年2019年には、『リキダイザー』30周年記念ライブをイギリスで行っている。初期衝動の塊のようなアルバムの再現ライブに集まった、アラフィフであろうオーディエンスたちはどんな反応だったのだろうか? 30年前ならモッシュピットで大暴れといきたいところだが、体力的にモッシュは無理というオーディエンスが大多数だろう。身体は反応できなくなっても、初めて『リキダイザー』を聴いた時の衝撃をリマインドさせてくれるようなライブなら、私も是非、観てみたいと思うが、日本での来日公演は難しいだろうな…
ファーストアルバム「リキダイザー」ティーン・スピリットを再確認!
最後に本コラム執筆に際し、久しぶりに『リキダイザー』を聴き返したのだが、「大人になっても貪欲に色々な音楽を聴き漁ることを忘れてはいけないな! そうしないと、高校生のオレにバカにされてしまうだろうな!」と強く感じた。ティーン・スピリットを再確認させてくれたジーザス・ジョーンズ『リキダイザー』には、現状を打破していくガムシャラな勢いとパワーが宿っており、大人になっても、時には勢い任せに突進していく思い切りの良さも必要なのだと気付かされた。
追記
私、岡田浩史は、クラブイベント「fun friday!!」(吉祥寺 伊千兵衛ダイニング)でDJとしても活動しています。インフォメーションは私のプロフィールページで紹介しますので、併せてご覧いただき、ぜひご参加ください。
2020.10.02