バーチャルアイドルの先駆者 リン・ミンメイ
1982年にTBS系で放映がスタートしたアニメ『超時空要塞マクロス』と聞いて誰もが一番に思い出すのは、たどたどしい声とあどけない台詞まわしが印象的なリン・ミンメイというキャラクターではないだろうか。物語はおぼろげにしか覚えてなくとも、このキャラクターだけは脳裏に焼き付いて離れない。
今でこそ、アニメ作品の中で歌を唄う “バーチャルアイドル” は珍しくない。この後に続く『魔法の天使クリィミーマミ』しかり、最近では『推しの子』もアイドルものだ。
けれど、『超時空要塞マクロス』は魔法少女ものでもなければ、アイドル世界を描いたものでもない、正真正銘の硬派なロボットアニメ作品なのだ。約40年前にバーチャルアイドルだなんてそれだけでも珍しい… いや新しいのに、それがロボットアニメって一体どういうこと?
キャラクターデザインは美樹本晴彦。庵野秀明、前田真宏、貞本義行も原画で参加
まずはテレビ版に目を落としたい。緻密に描かれたSF世界も、ロボットもとにかく超クールでカッコいい『超時空要塞マクロス』。キャラクターデザイン担当は美樹本晴彦、原画には若かりし頃の庵野秀明、前田真宏、貞本義行らも参加。とんでもない “本気の” ロボット作品だ。
ただ、この作品、子供心ながらにも不思議なことが多かった。放送はなぜか毎週日曜 14:00~14:30というなんとも微妙な時間帯。観るためには日曜の外出もままならず、見逃すことも多かった。そして、なんといっても戦闘シーンがまったくない回が当たり前のように存在したのだ。

要塞艦マクロスで暮らす人々の日常が淡々と描かれ終了。「今回… なんにも起こらなかったね」と弟と感想にもならないような会話を交わすこともしばしばだった(笑)。そして、そんな人々の日常の1コマとして描かれたのが、マクロス艦内でデビューを果たしたアイドル、リン・ミンメイの姿であり、その歌唱シーンだった。
キューン キューン
キューン キューン
私の彼はパイロット
―― と妙に耳につくキャッチーなフレーズ。これが彼女の代表曲「私の彼はパイロット」であり、毎週のように劇中でマイクを握りステージで歌う。そんなミンメイと恋模様を繰り広げるのが主人公でパイロットの一条輝。
もちろん戦闘シーンもあったけれど、普通のロボットアニメにはないような日常シーンにやたらと重きが置かれている。そんな作品に、正直なところ子供はぽかんとすることも多かった。
「愛・おぼえていますか」飯島真理が歌った“あたりまえのラブソング”
ヒロイン役のリン・ミンメイを演じたのはシンガーソングライターの飯島真理。歌手としてデビューが決まっていた中、歌が歌える女の子… とのことでヒロインに選ばれた。声優としてはたどたどしくて孤軍奮闘しているようにも思えたが、歌のシーンでは伸びやかな高音を披露。とてもその歌声が魅力的で、 “これぞ無敵のアイドル!” といった雰囲気だった。
1984年には劇場用アニメ『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が公開となり、その主題歌を飾ったのが、リン・ミンメイ(飯島真理)が作中で歌う「愛・おぼえていますか」だ。美しいメロディーラインと、サビの、
おぼえていますか
手と手が触れ合ったとき
―― というフレーズがとても深い、愛とぬくもり溢れる壮大なラブソングだ。手掛けたのはヒットメーカーの加藤和彦・安井かずみ。さすがのクオリティー!
飯島真理のピュアで透き通るような歌声が曲に溶け込むと、どこか神々しさと壮大な宇宙のような奥行きが生まれる。アニメ史上でも1、2を争うラブソングではないかと思う。しかも、マクロスの世界において “歌” は、敵と戦うときの大きな鍵として描かれており、 “歌は平和をもたらす重要な文化” とされた。
もちろんその鍵となる歌を唄うのがリン・ミンメイその人だ。普通の少女がアイドルとなり、最後には人間を救う女神のような存在に成る、それはもう壮大すぎるほどのシンデレラストーリーでもあった。

そんなキャラクターを演じた飯島真理は、後にリン・ミンメイのイメージがつきすぎて、この曲を封印した時代もあったと語っている。バーチャルアイドルを演じることの難しさだったのだろう。
ひと味もふた味も違うロボットアニメ「超時空要塞マクロス」の面白さ
そして最後に、主人公・一条輝はリン・ミンメイの手をとり、ハッピーエンドで物語は終わりを迎え… と、そう言いたい…! 言いたいところだが、なんと最後に選んだ恋の相手は、上官の女性航空管制主任オペレーター、早瀬未沙!
えええっ! ここまでリン・ミンメイを壮大すぎるほどのヒロインに描きながら!? イチャイチャしておきながら!? 最後は、そっちかーい!! 振るんかーい!!
おぼえていますか
手と手がふれあったとき
こうして恋の結末を知って、この曲を聴くと、リン・ミンメイ自身の気持ちを歌った曲というよりも、最後に主人公のハートを勝ち取った早瀬未沙の気持ちを表した曲に聞こえてくる不思議。
ああ、いつの世も、そしてどの世界でも(?)、恋って難しくて思い通りにならないものだ。硬派で超カッコいいロボットアニメだけど、その魅力は幅広く、柔軟で、挑戦的で、実験的で… とにかく見どころは戦闘シーンだけじゃないぞ! という劇場用アニメ作品『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』。ぜひ、懐かしく作品を振り返り、曲に耳を澄ましてほしい。
80年代アニメソング大集合

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2023.09.23