7月18日

岡田有希子「リトル プリンセス」1年目のシングルは竹内まりや作詞作曲の “学園三部作”

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岡田有希子のシングル「リトル プリンセス」発売日

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A面:リトル プリンセス
作詞:竹内まりや
作曲:竹内まりや
編曲:大村雅朗
B面:そよ風はペパーミント
作詞:康珍化
作曲:萩田光雄
編曲:萩田光雄

だから2作目が好き


とかく3部作の2作目というのは難しい。

例えば、映画『スターウォーズ / 帝国の逆襲』(旧3部作)や劇場版『機動戦士ガンダムⅡ哀・戦士編』がそう。1作目は、物語が幕開けるインパクトと世界観の面白さで引っ張れるし、3作目も話がゴールに向かって突き進むので観客を誘導しやすい。それに対して、2作目は物語の途中から始まり、途中で終わる。観客のモチベーションを上げにくい。実際、先の2つのシリーズも2作目の興行収入が一番低かった。

でも、その一方で “だから2作目が好き” という一定数のファンもいる。大きな話の展開が望めない分、個々のエピソードを深掘りする楽しみ方である。『帝国の逆襲』で言えば、やはりルークとダース・ベイダーとの直接対決が見どころだし、そこでベーダーが発した「違う、私がお前の父親だ」の台詞はインパクト大だった。また、『哀・戦士編』なら、ランバ・ラルとの出会いや彼の名言の数々、またカイの恋人ミハルの最期など、人間ドラマ的な名シーンは、むしろ1・3作より多かった。

ユッコ1年目の学園3部作


そこで、岡田有希子である。通称 “ユッコ” 。キャニオンレコード(現:ポニーキャニオン)の渡辺有三プロデューサーが彼女につけたイメージコンセプトが “六大学野球を観に行く山の手のお嬢さん” ――。そんなユッコのデビュー1年目のシングルは、竹内まりや作詞・作曲による “学園三部作” だった。テーマは “ティーンエイジ・ラブ” である。

▶︎ 1枚目「ファースト・デイト」
クラスで一番目立たない女の子が憧れの彼から土曜のシネマに誘われる。たそがれになる頃、彼が「送っていくよ」とさりげなく繋いだ手と手が震え、おしゃべりが途切れる。

▶︎ 2枚目「リトル プリンセス」
遊園地でグループデート。彼とはおそろいのグレイのTシャツ。腕につかまり、今日はやけに恋人気取り。半分ずつ食べるオレンジは恋の味。仲間たちが羨ましそうな顔をしてる。

▶︎ 3枚目「-Dreaming Girl- 恋はじめまして」
大人へのステップを歩き始めた少女。ママの選ぶドレスはもう似合わない。ピンクのマニキュアも真夜中のテレフォンもまだおあずけだけど、恋したら誰だってきれいになりたい。この気持ちわかって。

―― と、この3部作で語られるのは、クラスで一番目立たなかった少女が彼に誘われ、恋を育み、やがて大人へのステップを歩き出す成長物語、いわばシンデレラストーリーだ。1作目で初めてのデイトをして、3作目で本物の恋に目覚める。とすれば、2作目は恋に恋するお試し期間というところか。



タイトルはデビュー時のキャッチフレーズ


セカンドシングル「リトル プリンセス」のリリースは1984年7月18日。前作(デビュー曲)から3ヶ月のインターバルは、当時のアイドルの標準である。発売時期から “夏曲” と見ていいだろう。夏休みに、クラスの仲間たちと遊園地へグループデートに出かけた様子が夢心地に綴られている。恐らく3組の男女6人で、ユッコと彼のカップルが最も交際期間が浅く、ゆえに周囲が羨むほど熱い。

「リトル プリンセス」というタイトルは、彼女のデビュー時のキャッチフレーズ “ステキの国からやって来たリトル プリンセス” で既出である。実際、同曲はデビュー前に竹内まりやサンから提供された楽曲たちの中に入っていたので、早い段階から3部作の2曲目で行く路線が決まっていたのだろう。その意味では岡田有希子というキャラクターを印象付ける、デビュー曲と並ぶプロフィールソングとも言える。

実際、新人アイドルは夏休みを利用して、全国へ握手会等のキャンペーンで飛び回り、その際、大抵2曲歌う。だから「ファースト・デイト」と「リトル プリンセス」なのだ。実は僕自身、同年7月末、キャンペーンで福岡に来たユッコの握手会に初めて出掛け、その2曲を生で聴いている。実物の彼女は想像していたより小柄で、同級生なのに年下に見えた。

 ふたり分のブランチ抱えて いつもより
 少し早い待ち合わせをした遊園地
 昨日までの雨がまるで
 うそのようなお天気ね

思うに、その遊園地は、地元のマイナーな遊園地だろう。あまり混んでなくて、ジェットコースターもそんなに激しくないやつ。ちょっとレトロも入ってて。高校生のグループデートなら、東京ディズニーランド(*開園は1983年)より、むしろそっちの方が絵になる。土台、目的はアトラクションよりも、アトラクションを口実に2人の距離を縮めることだから―― と思ってたら、PVの撮影地は富士急ハイランドだったんですね(笑)

 お気に入りのグレイのTシャツ おそろいで
 やけに今日は 恋人気取りの私達
 腕につかまって 歩くのが夢だった



岡田有希子しか言えなかった台詞


聴いて分かる通り、この「リトル プリンセス」は、デビュー曲のようなドラマチックな展開はないし、3曲目のような心の葛藤もない。終始平和である。その分ややインパクトに欠け、デビュー曲より若干セールスを落とした要因も、その辺りにありそう。ただ、恋愛の初期段階において、この種の “恋に恋する” 期間はマスト。これがあるから、次の大人へのステップがドラマになる。

 私は いつでも
 あなただけのプリンセスよ
 このまま 手を取り
 おとぎの国へ連れてって

ユッコ自身、同曲について “歌詞がかわいくて、思わず照れてしまう” と、ある雑誌で語っているが、それは恐らく、上記の4行のことだろう。この台詞は当時の芸能界を見渡しても、岡田有希子しか言えなかったと断言する(褒めてます)。そう、1984年のアイドル界は、既にリアリティ路線へ舵を切り始め、同期の菊池桃子サンは普段着で歌い、アイドル番組にも出なかった。翌年、その流れは放課後のアイドル “おニャン子クラブ” を生み出す。

まぁ、その流れで、プリンセススタイルのミニドレス(これが華奢な彼女に実に似合っていた!)で歌うユッコが当時、若干古臭く見えたのは仕方がない。だが、それが竹内まりやサンの源流にある60年代欧米ポップスへのオマージュだとすれば、何も違和感はない。アイドルが、アイドルっぽい衣装で、アイドル全開のポップスを歌う―― 今にして思えば、その戦略は何も間違っていない。なぜなら、21世紀の今、改めて岡田有希子を聴くと、まるで古臭くないからである。

それは、アレンジにも表れている。同曲を編曲したのは、松田聖子サンの楽曲でお馴染みの大村雅朗サンだ。実はユッコのデビュー曲のB面「そよ風はペパーミント」は彼の作曲。その意味で、渡辺有三プロデューサーがユッコに付けた “六大学野球を観に行く山の手のお嬢さん” なるイメージコンセプトも熟知していた。その大村サンが「リトル プリンセス」に施したのは、60年代のフィル・スペクターばりの “ウォール・オブ・サウンド” 。イントロからして、同曲は厚みのあるサウンドを聴かせてくれたのだ。



おっと、B面の「恋のダブルス」(作詞:康珍化、作曲:萩田光雄)についても触れておこう。こちらは、スローテンポな「リトル プリンセス」とは対照的な疾走感のあるアップテンポなサウンド。作曲は、「異邦人」(作詞・作曲:久保田早紀)の名アレンジでも有名な大編曲家、萩田光雄サンである。ちなみに、ユッコのデビュー曲の「ファースト・デイト」の編曲もこの方。前述の大村サン同様、時に作曲もこなし、しかも良曲が多い。同曲も然りである。

 迎えに来てね (Yes my baby)
 いつもの窓の下に
 クラクション聞けば (How Are You)
 あなたがわかる

シティポップを彷彿とさせるサウンドに、耳馴染みのいいメロディ。それでいて、渡辺有三P考案のコンセプト “六大学野球を観に行く山の手のお嬢さん” の世界観もちゃんと守っている。ユッコファンの中にはこちらをA面に推す声もあるくらい、間違いなく名曲。加えて、作詞は天才、康珍化サン。同曲でもその才能はいかんなく発揮され、こちらもユッコにしか歌えないであろう(褒めてます)名フレーズを残している。

 世界でいちばん
 仲良しなものは なあに?
 ナイフとフォーク?
 いえいえ あなたとわたしよ

プリンセス・ユッコ完成の域


さて―― 岡田有希子ファンの間で、「リトル プリンセス」は2つの意味を持つ。1つは、デビューから3ヶ月が経ち、芸能界にも多少慣れ、歌に安定感が増したこと。表情も柔らかく、プロポーションも少しスリムになり、よりプリンセス感が増した時期だった。髪型もボブカットが洗練され、今日ではユッコ史上最も可愛い髪型と言われる。そう、ここに至り、“プリンセス・ユッコ” が完成する。

もう1つは、同曲の間奏である。ここでユッコは両腕を後ろに組み、軽やかにリズムをとる。振付け的には何もしない。だが―― ユッコファンの間で、この間奏の “両腕を後ろに組んで何もしない” 振り付けこそが、ユッコ史上最も可愛いと評判なのだ。元来、ダンスが苦手な彼女のスキルを逆手にとった、振付師の三浦亨先生の渾身のアイデアだった。

そう、いわば “引き算の美学” ―― 。

「リトル プリンセス」がユッコの学園3部作に欠かせない理由も同じである。



幻のラストシングル「花のイマージュ」の初アナログリリース含む、全7インチシングル9枚を収録したコンプリートBOXセット。各ディスクに、別カラーを使用したカラーヴァイナル仕様でリリース! 詳細はこちらから。

2024年8月22日発売      
品番:PCKA-18
価格:¥19,800(税込)
限定生産商品 

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2024.07.25
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前回の「ファースト・デイト」のコラムに続き、今回もとても楽しく読ませていただき、本当にありがとうございます!前回はキャニオンの公式Youtubeにコメントを書きましたが、今回はこちらに雑文を記したいと思います。

「リトルプリンセス」は私が最初に買ったゆっこのレコードであり、総合的に見て最高傑作だと思います。まずジャケットの写真が最高に可愛く、歌詞カードの写真がさらに可愛いんです。ジャケット自体もLPのような体裁で高級感がありました。そしてB面の「恋のダブルス」が、A面に負けす劣らず可愛くて、ステージ映えのする曲。あまりにも良かったので、慌てて「ファースト・デイト」のレコードを買いに行ったものでした。

ステージ衣装は、ジャケット写真を連想させるようなパステル調のピンクや水色のものを着ていましたよね。デビュー曲の白や黄色の衣装も清楚感があって良かったですが、可愛さから言ったら「リトルプリンセス」の方が上です。

そして何よりも「リトルプリンセス」で新人賞レースのトップに立ったことが大きかったと思います。他の強力なライバル達が賞レースに参加しない中で、ゆっこはメガロポリスに続き、日本テレビ音楽祭でも最優秀新人賞を獲得し、その存在を全国的に知らしめました。当時はいろいろな新人賞があって、それが効果的なプロモーションになってましたよね。84年デビュー組の女性アイドルの中で頭一つ抜け出すきっかけになったこの曲は、やはりゆっこの代表曲の一つと言えるでしょう。
2024/07/25 22:25
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カタリベ
1967年生まれ
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