4月21日

ライナーノートに導かれ 〜 EPOが仕掛けたソウルクラシックの宝探し

36
0
 
 この日何の日? 
EPOのアルバム「GO GO EPO」がリリースされた日
この時あなたは
0歳
無料登録/ログインすると、この時あなたが何歳だったかを表示させる機能がお使いいただけます
▶ アーティスト一覧

 
 1987年のコラム 
ベン・E・キング「スタンド・バイ・ミー」と少年たちのちょっとした冒険

BOØWY「ONLY YOU」アイドル多勢のヒットチャートで放つ存在感!

80年代のMEN'S BIGI、デザイナー今西祐次が配ったキングストンのサウンド

1987年の島倉千代子「人生いろいろ」と「愛のさざなみ」

寺尾聰、安全地帯、国武万里… 胸を打つ【大人の恋】を歌ったヒットソングとは?

ハロウィンといえばハロウィンだけど発音はヘロウィンで曲がハロウィン!?

もっとみる≫



photo:MIDI RECORD CLUB  

80年代初頭、TVから聴こえてきた EPO の「DOWN TOWN」「土曜の夜はパラダイス」「う、ふ、ふ、ふ、」は、どの曲もそれまで聴いたことがないような明るく洗練された POPS だった。アルバム『VITAMIN E・P・O』(1983)、『PUMP! PUMP!』(1986)をレコードレンタル屋で見つけた時には、沸き立つ気持ちでカセットに落として何度も聴いた。

中学2年頃からは、背伸びもあって、徐々に洋楽をメインに聴くようになってはいたが、EPO の新譜はその後も楽しみに追いかけ続けた。それまでの音世界や歌詞から、私にとっての EPO は、都会の大人の女性の代表で、憧れだったからだ。

80年代を賑わせた女性アイドル達に対して、憧れなど感じたことはなかった。あの髪型真似したいとか、あの衣装カワイイとか、関心は外見的要素でしかなかったのだが、EPO に対しては強烈に “肉体” を感じたのだ。自分の表現したいことを歌詞や音にして、あの美声で見事に歌い上げる、意志のある “肉体”。刺激的な都会の暮らしの中で、誰に迎合することもなく、日々を楽しみながら、しなやかに人生を選択していく大人の女性像を、中高生の私は勝手に EPO に投影していた。

アルバム『PUMP! PUMP!』の発売時、EPO は26歳。コマーシャリズムへのジレンマがあったのか、前作あたりから POPS爆進路線をやや外れ、自身の嗜好性の方向へ舵を切った感じがあった。

そして、『GO GO EPO』(1987)では、なんとのっけからスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズのカバー「Going To A Go-Go」なのだ。もちろん、当時の私はスモーキー・ロビンソンなど知る由もなく、いきなり飛び込んできた新しいニュアンスの曲に、これが久保田利伸が言うところの “ファンキー” なのか!? と戸惑いつつも、翌日ライナーノートを持ってレンタルレコード屋へと急いだ。

幸い、北九州のちっぽけなレンタル屋にもスモーキー・ロビンソンの音源は2枚あった。ミラクルズ時代のベスト盤と、同年新譜の『ワン・ハートビート』だ。もともと男性ハイトーンヴォーカルが嫌いではない私は、多感な時期にもかかわらず、不覚にもこの沖縄出身の有名ボクサーによく似たオジさんの歌に、すっかりハマってしまった。高校の卒業文集の好きな歌手の欄に、スモーキー・ロビンソンと書いたほどだ。

ライナーノートによる “わらしべ長者化” は続き、スモーキー・ロビンソンがモータウン・レコード設立当時からの重鎮だと知って、レンタル屋に置いてあるモータウンのアーティストの作品を片っ端から聴き始めた(田舎なもので、数はたかが知れているのだが)。

EPO が前作でカバーしていた「イッツ・ア・シェイム」(スピナーズ)にはすぐに出会えた。そして、モータウンにとどまらず60〜70年代ソウルクラシックのコンピレーションにまで手を拡げ始めると、そこでまた驚きのフィードバックが起こった。「裏切り者のテーマ(Back Stabbers)」(オージェイズ)のリフが、『GO GO EPO』の3曲目「黒い瞳のガールフレンド」に使われているではないか。デトロイトを彷徨っていたつもりが、次のヒントはフィラデルフィアにあったのだ。

そうして気が付くと私は、すっかりブラックミュージックという奥深い音楽世界の虜となり、久保田利伸が伝えようとしていた “ファンキー” の意味を感じ取れるようになっていった。4曲目「DIET GO-GO」には、ニューオリンズファンクのグルーヴを、6曲目「着にくいシャツ」のAメロには、ミネアポリスファンクの音作りを感じた。音のルーツを探ることで、EPO の意志のある “肉体” へ一歩近づけたような気がして嬉しかった。

話をスモーキー・ロビンソンに戻すと、この時に聴いたミラクルズのベスト盤の中に、「リアリー・ガッタ・ホールド・オン・ミー」が入っていたのには、とても驚いた。ビートルズの曲だと信じていたからだ。のちに知るのだが、このほかにも「マネー」(バレット・ストロング)、「プリーズ・ミスター・ポストマン」(マーヴェレッツ)、「ツイスト・アンド・シャウト」(アイズレー・ブラザーズ)は、モータウンが先にリリースしているのだった。

まだインターネットのかけらもなく、物理的距離もある中、ビートルズがこれらの曲をカバーしていた事実は、当時それほどまでにモータウン発の楽曲が世界で愛されていたという証だろう。

高校生の私がライナーノートに導かれ、EPO を起点にモータウンへ辿りついたように、ビートルズを起点にモータウンへ辿りついた人間も、世界のどこかにきっといるはずだ。もしかしたら EPO 本人がそうだったのかもしれない。そうして思いを巡らすと、しみじみ音楽とは素晴らしく面白い。

そして、私の音楽的好奇心を翻弄し、宝探しの旅を仕掛けてくれた EPO に、改めて感謝の気持ちを抱くのだった。

2018.04.22
36
  YouTube / hadji junci


  YouTube / retro39jp
 

Information
あなた
Re:mindボタンをクリックするとあなたのボイス(コメント)がサイト内でシェアされマイ年表に保存されます。
カタリベ
1972年生まれ
せトウチミドリ
コラムリスト≫
12
1
9
8
8
ジェームス藤木は日本のJBだった?「ダンス・エクスプロージョン」の衝撃
カタリベ / 後藤 護
33
1
9
9
1
ヴァネッサ・ウィリアムス、生まれ持った美貌と背負わされた運命の旅路
カタリベ / goo_chan
13
1
9
8
5
思いがけないアンタッチャブルズとの再会、でも何かが違う!
カタリベ / やっすぅ
27
1
9
8
5
イギリス育ちのブラコン・シンガー、ビリー・オーシャンのプライド
カタリベ / KARL南澤
37
1
9
8
9
唯一無二の日本語ラップ「近田春夫&ビブラストーン」夜になっても遊び続けろ!
カタリベ / 親王塚 リカ
18
1
9
8
4
80年代カラオケの実情:意外なアイドル、香坂みゆきの歌うフワフワ感
カタリベ / 小山 眞史