80年代初頭、TVから聴こえてきた EPO の「DOWN TOWN」「土曜の夜はパラダイス」「う、ふ、ふ、ふ、」は、どの曲もそれまで聴いたことがないような明るく洗練された POPS だった。アルバム『VITAMIN E・P・O』(1983)、『PUMP! PUMP!』(1986)をレコードレンタル屋で見つけた時には、沸き立つ気持ちでカセットに落として何度も聴いた。 中学2年頃からは、背伸びもあって、徐々に洋楽をメインに聴くようになってはいたが、EPO の新譜はその後も楽しみに追いかけ続けた。それまでの音世界や歌詞から、私にとっての EPO は、都会の大人の女性の代表で、憧れだったからだ。 80年代を賑わせた女性アイドル達に対して、憧れなど感じたことはなかった。あの髪型真似したいとか、あの衣装カワイイとか、関心は外見的要素でしかなかったのだが、EPO に対しては強烈に “肉体” を感じたのだ。自分の表現したいことを歌詞や音にして、あの美声で見事に歌い上げる、意志のある “肉体”。刺激的な都会の暮らしの中で、誰に迎合することもなく、日々を楽しみながら、しなやかに人生を選択していく大人の女性像を、中高生の私は勝手に EPO に投影していた。 アルバム『PUMP! PUMP!』の発売時、EPO は26歳。コマーシャリズムへのジレンマがあったのか、前作あたりから POPS爆進路線をやや外れ、自身の嗜好性の方向へ舵を切った感じがあった。 そして、『GO GO EPO』(1987)では、なんとのっけからスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズのカバー「Going To A Go-Go」なのだ。もちろん、当時の私はスモーキー・ロビンソンなど知る由もなく、いきなり飛び込んできた新しいニュアンスの曲に、これが久保田利伸が言うところの “ファンキー” なのか!? と戸惑いつつも、翌日ライナーノートを持ってレンタルレコード屋へと急いだ。 幸い、北九州のちっぽけなレンタル屋にもスモーキー・ロビンソンの音源は2枚あった。ミラクルズ時代のベスト盤と、同年新譜の『ワン・ハートビート』だ。もともと男性ハイトーンヴォーカルが嫌いではない私は、多感な時期にもかかわらず、不覚にもこの沖縄出身の有名ボクサーによく似たオジさんの歌に、すっかりハマってしまった。高校の卒業文集の好きな歌手の欄に、スモーキー・ロビンソンと書いたほどだ。 ライナーノートによる “わらしべ長者化” は続き、スモーキー・ロビンソンがモータウン・レコード設立当時からの重鎮だと知って、レンタル屋に置いてあるモータウンのアーティストの作品を片っ端から聴き始めた(田舎なもので、数はたかが知れているのだが)。 EPO が前作でカバーしていた「イッツ・ア・シェイム」(スピナーズ)にはすぐに出会えた。そして、モータウンにとどまらず60〜70年代ソウルクラシックのコンピレーションにまで手を拡げ始めると、そこでまた驚きのフィードバックが起こった。「裏切り者のテーマ(Back Stabbers)」(オージェイズ)のリフが、『GO GO EPO』の3曲目「黒い瞳のガールフレンド」に使われているではないか。デトロイトを彷徨っていたつもりが、次のヒントはフィラデルフィアにあったのだ。 そうして気が付くと私は、すっかりブラックミュージックという奥深い音楽世界の虜となり、久保田利伸が伝えようとしていた “ファンキー” の意味を感じ取れるようになっていった。4曲目「DIET GO-GO」には、ニューオリンズファンクのグルーヴを、6曲目「着にくいシャツ」のAメロには、ミネアポリスファンクの音作りを感じた。音のルーツを探ることで、EPO の意志のある “肉体” へ一歩近づけたような気がして嬉しかった。 話をスモーキー・ロビンソンに戻すと、この時に聴いたミラクルズのベスト盤の中に、「リアリー・ガッタ・ホールド・オン・ミー」が入っていたのには、とても驚いた。ビートルズの曲だと信じていたからだ。のちに知るのだが、このほかにも「マネー」(バレット・ストロング)、「プリーズ・ミスター・ポストマン」(マーヴェレッツ)、「ツイスト・アンド・シャウト」(アイズレー・ブラザーズ)は、モータウンが先にリリースしているのだった。 まだインターネットのかけらもなく、物理的距離もある中、ビートルズがこれらの曲をカバーしていた事実は、当時それほどまでにモータウン発の楽曲が世界で愛されていたという証だろう。 高校生の私がライナーノートに導かれ、EPO を起点にモータウンへ辿りついたように、ビートルズを起点にモータウンへ辿りついた人間も、世界のどこかにきっといるはずだ。もしかしたら EPO 本人がそうだったのかもしれない。そうして思いを巡らすと、しみじみ音楽とは素晴らしく面白い。 そして、私の音楽的好奇心を翻弄し、宝探しの旅を仕掛けてくれた EPO に、改めて感謝の気持ちを抱くのだった。
2018.04.22
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