7月1日

ヒットの鍵は浸透圧、80年代の扉を開けた松田聖子の「あー」ソングってなに?

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松田聖子のセカンドシングル「青い珊瑚礁」がリリースされた日
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イントロクイズとは異なる “ラントロクイズ” の楽しみ方


ここ数年の僕の新しい趣味のひとつに “イントロクイズ” がある。いきなりこの人は何を言っているのだ? … とお思いかもしれないが、実は、首都圏だけでも、学生や社会人のイントロクイズサークルというのが幾つか存在するのだ。例会では、参加者が、シンプルなものから趣向を凝らした形式のものまで、様々なクイズを持ち寄るのが常だ。僕にとって、このイントロクイズの遊びは、忘れかけていた曲の記憶を呼び起こしてくれる、ある種の “リマインダー” の役割も担ってくれている。

その、イントロクイズ例会で先日、“あー、ラントロクイズ” という面白い企画があった。ラントロクイズとは、イントロとは異なり、間奏など、“曲の途中を流す形式のクイズ” のことだ。今回の企画は、「あー」と歌っている一瞬だけ切り取られた部分から曲名を当てるというものだったのだが、これが難しそうに見えて意外と答えを導き出すことが出来てしまった。それだけ、印象的な「あー」を含有している曲が多かったということかもしれない。

「津軽海峡・冬景色」「勝手にしやがれ」「渚のシンドバッド」の共通点は?


1977年は「あー」ソングの当たり年だった。まず、この年の元旦に発売された、石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」。この曲は、ラストに津軽海峡冬景色と歌いあげる前に「♪ あぁあぁ~」という部分がある。この一節には4文字分程度の言葉を当てはめることも、やろうと思えば出来そうだ(例えば「真冬の~」とか「悲しい~」とか。センスなくてすみません…)。だけどやっぱりここは「あぁあぁ~」だからこそ気持ちがいい。これが有るか無いかで、カラオケでの歌い甲斐にも大きく影響してきそうである(笑)。「津軽海峡・冬景色」は、メロディの方が先に出来た楽曲と言われているのだが、この「あぁあぁ~」が歌詞に加わり、そこに石川さゆりという個性が生命を吹き込んだことによって、演歌としての “映え” 度が飛躍的にアップしたのではないだろうか。

同じ1977年、この「津軽海峡・冬景色」との激しい賞レースを制し、レコード大賞に輝いたのが、沢田研二の「勝手にしやがれ」だった。こちらは、先程の「津軽海峡・冬景色」とは逆に、歌詞が先に書かれたと言われているが、この曲も終盤の「♪ アアアア…」が特徴的だ。美意識、後悔、やせ我慢… 男のダンディズム観点から様々な考察がされ、語り尽くされた感もあるこの「アアアア…」であるが、当時5才だった僕にとっては、途中で帽子を投げるパフォーマンスと、この「アアアア…」は、とっても子供心に真似したくなる魅力に溢れていた。複合的な “映え” 度では、「津軽海峡・冬景色」に負けず劣らず… な一曲だろう。それ故に、大人から子供まで浸透する国民的大ヒットになったのも頷ける。

そしてこの1977年、オリコンの年間1位に輝いたのは、ピンク・レディーの「渚のシンドバッド」。こちらは歌の冒頭が、小刻みな「♪ ア ア ア ア…」から始まっている。

既にお気づきの方も多いかもしれないが、1977年のこれら3曲は、いずれも阿久悠の作詞した楽曲だ。 “あ” の一音だけでこれだけバラエティに富んだ世界を描くあたりは実にお見事、さすがに作詞の第一人者である。

70年代後半は、「あー」ソングの黄金時代かもしれない。翌1978年には、もはや風格すら感じさせた山口百恵の「いい日旅立ち」での “抒情的あぁ~” が、続く1979年は、クリスタルキングの「大都会」での痺れるような “ハイトーンヴォイスのあっあーー” が日本中に鳴り響いた。

時代の空気を一変させた松田聖子「青い珊瑚礁」


そして1980年、80年代の始まりを語る上で重要な2つの「あー」が登場する。まずは、2月にリリースされた、岩崎良美のデビューシングル「赤と黒」だ。この曲も歌いだしは「あー」から始まるのだが、彼女の歌唱からは、掴みの「♪ あぁーー」で、なんとか赤と黒の2色を体現してみようという意志が感じられる。鉛のように重いギターイントロに続いて発せられる「♪ あぁーー」は、決してバックの演奏に負けていない。この、新人離れした、底光りするような魅力に溢れた「赤と黒」は、デビュー曲ながらオリコンで最高19位まで到達するスマッシュヒットとなった。

そして、それから5ヶ月後、あの象徴的な「あー」が時代の空気を一変させることとなる。そう、松田聖子のセカンドシングル、「青い珊瑚礁」である。1980年7月1日に発売されたこの曲は、8月14日に『ザ・ベストテン』に初登場、ついに9月18日には1位に駆け上がった。リアルタイムでこの曲の順位が上がっていくさまを観ていた者として、この頃に毎週感じさせて貰ったワクワク感はいったい何と表現したら良いだろうか。

この松田聖子の唯一無二の「♪ あーっァ」は、80年代に爽やかな新風を吹き込んだと同時に、70年代を遠い過去に追いやってしまったと思う。よく “歌は世につれ、世は歌につれ” と言うけれど、“世は歌につれフラグ” が80年代のどこかで立ったとするなら、それは1980年の松田聖子の「青い珊瑚礁」にほかならないだろう。それほどまでに、彼女のこの時の歌声は、全てを超越していた。

あなたにとってのベスト「あー」ソングは?


こうして「あー」の変遷で70年代後半から80年代の歌謡界を振り返ってみたけれど、スペースの都合で紹介し切れなかった「あー」ソングはまだまだある。八神純子の「みずいろの雨」、薬師丸ひろ子の「WOMAN」、そして美空ひばりの「川の流れのように」。

この「あー」というフレーズは、“言葉の浸透圧” という意味で、子供から大人まで平等にスーっと入って来やすい。それを、これらの曲のなかでも一番美味しい所に配置することで、ヒット曲たらしめたのではないだろうか。

この「あー」に関しては、古今東西、それこそ洋楽・邦楽を問わず観測が可能である。ただ、洋楽の「あー(Ahhh)」に関しては、良いサンプルを見つけるのがなかなか難しいので、これは! という曲を発見した方がいたら、是非教えて欲しい。

歌謡曲の意外な節目で出現する「あー」ソング。これらをつぶさに観察することで、見えていなかった何かが見えてくるかもしれない。

さて、あなたにとってのベスト「あー」ソングは何ですか?



2020.11.30
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カタリベ
1972年生まれ
古木秀典
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