その昔、社会人になったばかりの頃、呑みの場で数歳、年上の上司と音楽の話をしていたときのこと。
オリジナルパンクを10代で体験していたその上司から誇らしげに「パンクをリアルタイムで聴いていないなんて、かわいそうだな」と言われた。カチンときて、「でも、10代でザ・スミスやアズテック・カメラを聴いた喜びは、あなたにはわかりませんよね?」と言い返した。ザ・スミスもアズテック・カメラも自分にとって特別なバンドだが、今回は後者の話を…
秋田の高校生にとって、アズテック・カメラは強烈なシンパシーを抱ける数少ないバンドだった。スコットランド出身、そこってイギリスの東北みたいなものなんだろうか… などと地図を見ながら夢想した。
ファーストアルバム『ハイ・ランド、ハード・レイン』の “ハイ・ランド” は、スコットランドを指すらしいが、実際、秋田も山が多いし、ハイ・ランド(高地)には違いない。このアルバムは、高校2年の大晦日、雪の降る日に購入。訳詞とにらめっこしながら聴いたが、どの曲もジワジワとしみこんでくる。「ウォーク・アウト・トゥ・ウィンター」の――
ジョー・ストラマーのポスターが
壁から剥がれ落ちる
彼から教わったことは甘くて苦い
今はそれらを飲み干して
冬へと歩き出そう
の部分は、ブームとしてのパンクが終わった後の指針ともいえた。フロントマンのロディ・フレイム(というか、実質的には彼のソロプロジェクトであったことは、後になって知る話)は、当時18歳。歳が近いから、共感も強くなるのは必然。そのうえ、クソ寒い地方出身なのだから、なおさらだ。
十代最後の年の春、秋田を後にして東京へ。新幹線の中で聴く「ザ・ボーイ・ワンダーズ」。
この少年は思う
メダルを売って列車に乗ろう~
希望を持つ者が躊躇するような
ハイランドから、僕はやって来た
―― の部分が突き刺さる。
「ハイ・ランド、ハード・レイン!」のコールの部分では、新生活への期待や不安、感謝や怒りがこんがらがって、不覚にも涙が流れてきた。地方から都会に出てきた人間の気持ちを、これ以上明解に描いた歌はないのではないか。
30年以上が過ぎ、すっかりオールド・ボーイとなった今も、このアルバムを聴くと、あの頃の “甘くて苦い” 記憶が甦ると同時に、「ワンダー」の意味を考えさせられる。“何かをやろう” という気持ちを、なくしてないだろうか? もっと、もっと進まないとな!
オールド・ボーイの厄介なところは、「あの頃はよかった」と口にしてしまうことだ。十代でニルヴァーナやレディオヘッド、アークティック・モンキーズを聴いた年下の人たちの声を聴くと嬉しくなるけれど、先述の上司のように、飲み過ぎてつい世代論を語り、酔いがさめてから苦笑いする自分がいることは、ここだけの話にしておく。
2018.09.26
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