パティ・スミスじゃなくてパティ・スマイス！旦那は “悪童” ジョン・マッケンロー

1980年代ニューヨークで結成されたスキャンダル

バンド名が “スキャンダル” というと、一般的な日本の音楽ファンの中では日本のガールズバンドの方が有名かも知れませんが、私が担当したのは、実は1980年代ニューヨークで、女性ヴォーカリスト、パティ・スマイスをメインに結成されたギターポップバンドのスキャンダルです。パティの名前表示はPATTY SMYTHなので、NYパンクの女王、パティ・スミスとよく間違えられますが、彼女よりヒト世代若く、こちらは極めてポップなロックシンガーです。

1983年４月21日５曲入りのEP盤、当時の表現ではミニアルバムと呼んでましたが、この商品形態でデビューしています。邦題は、『ファースト・スキャンダル』。フルアルバムではないというところが、決して鳴り物入りでのデビューではなかったというところだと思いますが、実はこのEPから、２曲のシングルヒットが生まれました。CBSレコーズのEP盤の売り上げとしてはレーベルが始まって以来の最大セールスを記録したとのこと。TOP40ヒットとまではいかなかったのですが、全5曲中の２曲がビルボートのTOP100シングルチャートにはいったのですから立派な実績でした。

このヒットをうけ、翌1984年８月には晴れてフルアルバム『ウォーリア』を発表していますが、CBSレコーズとしてもバンドで売り出すか彼女のソロでいくか、方向性を決めかねていたようです。

このアルバムでの、アーティスト表示が、SCANDAL featuring PATTY SMYTHとなっているところに悩みがうかがわれます。そして、彼らもやっと答えを見つけたようです。1987年にリリースされたこの次のアルバム『ネヴァー・イナフ』からは完全にソロとしてパティ・スマイス本人名義での活動になっていました。

スキャンダルが日本でデビューした頃のマーケティング＆プロモーションとは？

今回はこのパティ・スマイスがまだスキャンダルの一員として日本でデビューした頃のマーケティング＆プロモーションのお話です。

実は、日本デビューさせた1983年４月という時期の担当ディレクターとしての私の動きですが、このふた月前の２月にはジャーニーの “フロンティアーズ” を発売し、同時に武道館含む来日公演などがあり、忙しくしていましたが、同じタイミングで４月発売分の編成会議が実施されるのです。制作の仕事は全てこの会議から始まります。

編成会議に上程する、ということは、つまり営業部や制作進行及び生産管理部門に対して、制作部としては発売したい、と宣言するわけですから、特に彼等は新人ですし、発売する以上は、こうやって売り出しますとか、ウソでもハッタリでもとりあえず会議席上でプレゼンしなければいけません。要するに、やる気を見せる必要があるのです。

ただタイミング悪く、ジャーニー案件で私が忙殺されていたこともありますが、会議に上程するには明らかに準備不足でしたし、確固たるプランニングがあったわけではありません。そもそも商品定価が安い1,500円のEP盤と言うところで、実はどこか軽んじていたのかもしれませんし、売上貢献的にもプライオリティになりづらいものがあるのです。

当時の発売リストを見て分かりましたが、実はこの４月３日にはピンク・フロイドの新譜『ファイナル・カット』も発売され、こちらも私が担当でした。このグループが相手では、ますます、スキャンダルへの意識は薄くなります。

とは言え、いくらピンク・フロイドと言えども、シングルヒットを生み出すラジオ・エアプレイには縁が薄いです。逆にアメリカ本国ではEP盤からの１枚目シングルの「グッバイ・トゥ・ユー」が当たっていたし、当時のヒットは全てラジオから生まれていたので、大した戦略がなくても、ラジオのエアプレイさえあればなんとか格好つく時代でした。

スキャンダルにブレイクのチャンスはあるのか？

ラジオ宣伝チームにピンク・フロイドは必要ありません。“これならエアプレイ狙えるぞ” と言う勢いだけでスキャンダルの発売に向かったのだと思います。そして１枚目に続いて２枚目「恋はひとりぼっち」でもシングルヒットが生まれたこともあり、本格的に我々の気合もはいり、ブレイクのチャンスを狙っていました。



実はこの頃同じCBSソニー洋楽には私が属していた企画制作１部という従来からのコロムビア・レーベルをとりあつかう部門に加えて、新しい企画制作８部という洋楽部隊が新設されていました。CBSに頼らずに、新しいレーベルを契約してロースターを増やしていました。ここからはゲフィンのエイジア、IRSレーベルのゴーゴーズから始まってバーティ・ヒギンズの「哀愁のカサブランカ」やガゼボの「雨音はショパンの調べ」などのヒットが生まれています。

この部門ではオーストラリアのロックバンド、ムーヴィング・ピクチャーズも手掛けていましたが、今ひとつ日本のマーケットにささりきっていません。なんとかブレイクのきっかけを探っていました。

当時の国内制作部門のアーティストに触れてみると、この年の夏、爆風スランプがデビューしています。J-POPと言う単語が生まる以前ですし、日本のロックバンドがステップアップしていくライブ環境も未熟なこの時期、当時のバンドにとって大学の学園祭ツアーをやって評判を得ることが、ブレイクのきっかけになっていました。

とは言え新人の爆風スランプだけではなかなか学園祭にブッキングできません。

“私の発案で”、と言えれば、これはなかなか自慢できる企画だと思いますが、残念ながら間違いなく私ではありません。スキャンダルもムーヴィング・ピクチャーズも単体でのプロモーションでの動きに限界を感じていました。突破口として、日本のロックバンドの方法論を使ってみようか、と決めたのです。

スキャンダル、ムービング・ピクチャーズ、爆風スランプでの学園祭ツアーが実現

つまり誰がどう動いて如何なる流れで決まったのか、すっかり忘れてますが、それぞれこの企画に賛成し、スキャンダル、ムービング・ピクチャーズ、そして日本の爆風スランプという３アーティストでの学園祭ツアーが実現したのです。

もちろん学園祭へのブッキング自体は、そちら方面に長けている爆風スランプの関係者が頑張ってくれた結果、この年の秋、10月か11月だったと思いますが、早稲田、中央、日大芸術学部での３大学での日程が組まれたのです。

爆風スランプのデビューは８月なので、この頃にスケジュールが決まったのかも知れません。フレコミは米豪日の新進ロックバンドの競演ということになりますが、都内学園祭の開催日程を見つつ、効率よく、よくぞ実現したものだと思います。

スキャンダルというとこの学園祭ツアーが思い出されるのですが、何分にも残念なことに、この学園祭ツアーに関する記録写真がタダの１枚も残ってないのです。自分としてもがっかりです。最終日にホテルでの打ち上げパーティで盛り上がった写真だけは数カットだけ机の中から発見できたのですが、貴重な学園祭ライブの記録は写真だけでなくプログラムもフライヤーも何も残っていないのです。

期間としては７〜８日間の来日滞在だったと思いますが、３ライブをこなし、一泊二日だけのオフを作り、この間彼らは京都旅行へ。ここは我々は誰もアテンドせず彼らだけでの行動でした。このオフ以外はびっちりと取材が入り、当時洋楽ヒットに影響力のあったTVKではスタジオで公開ライブをやらせてもらいました。

NY出身のヤンキーパンクスでカジュアルな性格、パティ・スマイスの現在

話のテーマは変わります。プロモーション来日を通じてアーティストと仲良くなることはありますが、このパティ・スマイスに関しては、彼女のフレンドリーなキャラもあり、短い滞在期間にもかかわらず、プライベートなレベルまで近しい間柄になることを受け入れてくれました。

本人はNY出身のヤンキーパンクスでカジュアルな性格ですし、例えば、何か彼女からの欲しいものなどリクエストが出された時に、残念ながら、こちらが応えてあげれなかったりすると、“なんでよ、たのむよ” と友達に対する態度で冗談交じりのケリが入ったりするのです。

そもそも、こういうことするアーティストはいないと思いますが、となると、こちらも若かったので、逆につい、ケリをいれ返したりすることもあったのです。アーティストに対してこの姿勢はどうなのか、はなはだ疑問ですが、ファンの方には申し訳ありませんが極めてトモダチのノリを出してしまったのです。

連絡先も交換していますから、その後私がNYへ別件で出張に行った時は、プライベートで食事をしたり酒飲んだりと楽しい時間をもつことができました。その後も２回ほど新譜の折にプロモーション来日していますし、ここまでの交友関係を持つことができたのは後にも先にも彼女だけです。

ちなみに、この交流はその後も数年続いていましたが、ある時期から連絡が取れなくなり自然消滅状態。そこで、昨今のSNSのお陰ですが、40年近く振りに再び彼女とFacebookで繋がることができました。彼女も懐かしがり喜んでくれましたが、調べてみて驚きました。なんと今の旦那さんはあのテニス界の暴れん坊でスーパースターでもあったジョン・マッケンローさんです。

彼と以前の奥さん、女優テイタム・オニールとの間に生まれたお子さん、パティ・スマイスと以前のパートナー、NYパンクスのリチャード・ヘルとの間のお子さん、そしてマッケンローとの自分たちの子供などあわせて６人のお子さんを育てつつ、いままたアーティスト活動を再開しているようです。



YouTubeでもこの活動を窺い知ることが出来ますし、彼女の後ろでマッケンローがテニスラケットならずギターもって仲良くジャムっている映像に思わずニヤついてしまいます。SNS様様ですね。

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2023.06.28