2002年 3月13日

エンタメの横顔 — 80年代の音楽シーンを大きく変えた「CD」の登場 ⑤

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【エンタメの横顔 — 80年代の音楽シーンを大きく変えた「CD」の登場 ④ からの続き】

CDにも最初からコピーガードがあれば…


もし、CDが元からコピーガードされていて、「コピーしたいなら、それまでのアナログレコードと同様に、アナログ出力からどうぞ」ということだったなら、それを不満に思う人はいなかったでしょう。DVD やブルーレイディスクがデジタルコピーできないのと同じです。

だけど、「CDから mp3 に変換して、mp3 プレイヤーで聴く」ことが新しい音楽の楽しみ方になりつつあるところに、「あなたは mp3 を違法に流通させるかもしれないので、今後はデジタルコピーできないようにします」などと言われたらどうでしょう?

まずは「おいおい、人を犯罪者扱いかよ」とムッとしますよね。そして、「まぁでも、ファイル交換なんかも流行ってるらしいからしょうがないか…」としぶしぶ諦めようとしたところ、実はその技術にいろいろ問題があったとしたら…。

プレイヤーが故障? 問題だらけだったコピーコントロールCD


前回お話ししたように、「CCCD(Copy Controlled Compact Disc)」は、既存のCDプレイヤーでは問題なく再生できながら、PC の CD-ROM ドライブでは読み取れないようにして、デジタルコピーやリッピングを防ぐというものです。その方法は、私は技術のことはよく分からないので正確には説明できませんが、CDの再生に必要な「読み取りエラー訂正信号」をわざとデタラメにし、CDプレイヤーではそれを補正できるので再生できるが、PC のドライブはデタラメをデタラメと判断して再生できなくなる、というようなことなのだそうです。

しかしながら、「わざとデタラメ」ってどうなの? と誰もが不安を感じるように、それはCDの仕様を規定した「レッドブック」というものからは逸脱する掟破りの行為だったのです。なので、CCCD には、音楽CDの盤面には必ず印刷されている「COMPACT disc DIGITAL AUDIO」というロゴがありませんでした。

そして実際、余計な信号補正の負荷をかけることがCDプレイヤーにはよくないし、PC では読み取りできてしまうものがあったりして、実効性が乏しい割に、マイナス面が多いという、どうしようもないシロモノだったようです。

私が買った CCCD はただ1枚、ビートルズの『Let It Be...Naked』です。だけどちゃんと被害は蒙っています。まだ、プレイヤーによくないなんてことは知らなかったので、何も気にせず聴いていたのですが、やがてプレイヤーが故障して、CDを認識してくれなくなりました。それでも CCCD のせいだとは思わず、修理に出そうとしたらけっこう高かったので、DENON の20万円くらいのいいプレイヤーながらもう古かったし、諦めてお払い箱にしてしまいました。

おそらく CCCD が原因だろうと知った時は、愕然としました。そんな怪しいモノを、名だたるレコード会社が堂々と売っていいんだろうか!?

ソニー・ミュージックの “すごい” CCCD「レーベルゲートCD」


そんな中、業界を代表するソニー・ミュージックが捻り出したのは、「レーベルゲートCD」という名の CCCD。PC で聴けないのは不便だろうから、Atrak3 という(コピーガードがかかった)圧縮音源もついていて、それは1回だけハードディスクにコピーさせてあげましょう、ただし1回目は無料だけど2回目からは有料ですと。で、その、何回目なのかという判断はネット経由でサーバーで行うのですが、そのために、1枚毎に個別の ID を埋め込んだのです。

“1種類” ではなく “1枚” ですよ。つまりドリカムみたいに何百万枚と売れるCDでも、その何百万枚にすべて違う ID が入っていて、ID 毎に圧縮音源の利用状況をサーバーが記録するのです。システムを構築するのにたいへんなお金がかかったはずですが、実際に圧縮音源を(1回でも!)利用した人はわずかだったと聞いています。お金と労力をかけるところを間違っていたとしか思えません。

一方、親会社ソニーのCDプレイヤーには、取扱説明書に「CCCD は動作保証外」と明記してあったそうです。いやはや…。

アーティストたちも反発、自主レーベルを立ち上げた佐野元春


これにはさすがにアーティストたちも反発。「CCCD では出さない」と怒りを顕にするアーティストも多かったし、佐野元春などこれがきっかけで、デビュー以来ガッツリ組んできたエピックを去り、自主レーベルを立ち上げました。

そんな状況ではレコード会社もゴリ押しするわけにはいかず、2002年にスタートした CCCD は、早くも2年後には鳴りを潜め、2006年には全社撤退とあいなりました。

1998年までソニー・ミュージックで音楽ディレクターだった私は、この CCCD 騒ぎの頃は音楽配信の部署にいて、その最前線に立つことを免れていました。もしディレクターのままだったら、会社の方針ですから、CCCD でのリリースを進めなければならなかったはずで、今考えてもゾッとします。そのタイミングで会社を辞めたかもしれません。

とは言え、レコード会社の一員だったのですから、責任の一端は自分にもあると思っています。ですからこのことは、「ああ、そんなこともあったね」で済ますのではなく、もっとちゃんと分析して検証しておかねばと思うのです。

…つづく。

2020.03.05
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カタリベ
1954年生まれ
ふくおかとも彦
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