ジョージ・マイケルが好きだ。 夏になると、僕は社会的活動に抵触しない範囲で髭を生やし、短髪にすることにしているのだが、完全に彼を意識している。周りからは、工事現場作業員やら浮浪者みたいだなどと言われどうも凹んでしまうが、ポリシーなので仕方がない。似ても似つかないのはわかっている! なぜここまで好きなのか。理由はワム! の頃からジョージ・マイケルには、アイドルではなくアーティストとしての意識が見えるからだ。そもそも、「ゴーゴーダンスに行く前に起こしてくれ」と歌っているのだから、ワム! サウンドの根幹はブラックミュージックなのだ。 ラップを早い時期に取り入れ、自動車産業の街=モーター・タウンで生まれた黒人音楽、モータウン・グループであるミラクルズをカヴァー。最高のソウルミュージックを奏でる「ツイスト・アンド・シャウト」で有名なアイズレー・ブラザーズもカヴァー。ワム! はモータウンの 80’s バージョンだという解釈ができる。 ソロになってから趣味は露骨になる。R&R の偉人、ボ・ディドリーのビートで叩きつける「フェイス」。ソウルの女王、アレサ・フランクリンとのデュエット曲「愛のおとずれ(I Knew You Were Waiting)」。そして黒人霊歌=ゴスペルを取り入れた「フリーダム! ’90」。ここまであからさまにされると、“ああ、あなたもお好きですなぁ” と思わざるを得ないし微笑ましくなる。 ゴスペルといえば1992年、ウェンブリー・アリーナで行われたフレディ・マーキュリー追悼コンサートで彼はクイーン流ゴスペルとも呼べる「愛にすべてを(Somebody To Love)」を熱唱している。 ブラックミュージック好きらしいジョージのコブシの利かせ方。声の伸び。拍手を求めマイクを向ける観客の煽り方。そしてラストのファルセット。クイーン関連で奇跡的な瞬間は多々あるが、ジョージの熱演も加えて然るべきだ。美しい。その一言しか浮かばない。 まずは、この時の映像を観て欲しい。満員の観客を前にして一挙手一投足、身体全体がこの名曲の「愛を求める」という核心部を伝えている。ライブエイドでのフレディの素晴らしいパフォーマンスが脳裡をよぎるのは、自然なことであろう。 ある知人が、ジョージ・マイケルのことを「霊媒師」と呼んでいた。なるほどと思ったのは、南部黒人の苦悩がゴスペルを生んだわけであり「あちら側」への憧れを「こちら側」に持ってくるという作業が、歌うということだからである。 黒人音楽=苦悩という図式は必ずしも有効ではないが、ともかく歌で「あちら側」、「ここではないどこか」を垣間見せてくれるものがブラックミュージックだと思う。 フレディのソロ作品に「メイド・イン・ヘヴン」というものがあるが、天国へフレディが去った後、「霊媒師」のジョージが追悼コンサートでフレディの「ソウル=魂」を呼び戻して歌った… こう物語にしてしまうと、ちょっと出来すぎた話だが、僕が今でもジョージの熱唱を聴くたび目頭が熱くなる理由はこんなところである。 … ジョージ・マイケルのファンとして、「ラスト・クリスマス」が流れ始める季節を前に、髭を剃ろうか悩んでいる近日である。
2018.11.07
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YouTube / Eagle Rock
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