人は必ずどこかの段階で、負ける。落ちる。こぼれる。
人は “負ける” 生き物だ。たとえば、甲子園の高校野球では一校を除いて、すべて負ける。勝った一校の球児たちにしてもプロに行けるとは限らないし、プロになって活躍できるとも限らない。大谷翔平だってメジャーリーグで敗戦投手になることもある。必ずどこかの段階で、負ける。落ちる。こぼれる。
“落ちこぼれ” という言葉が世に広まり、自分の耳にも入って来て、馴染んできたのは中学生くらいのときのこと。ソコソコ勉強はしていたし、高校に入っても何とかなるだろうと思っていたが、人生そんなに甘くない。映画やロックに夢中になっているうちにハイティーンの時間は瞬く間に消費され、気づけば成績も急降下。ヤバい、落ちる! こぼれる!
警察学校の落ちこぼれ生徒たちを描いたコメディ「ポリスアカデミー」
受験戦争―― そんな言葉から逃れられなくなった1984年、高校3年の時期に、日本で公開されたのが『ポリス・アカデミー』。警察学校の落ちこぼれの生徒たちが、大騒動を経て警官になるまでを描いたコメディだ。主人公のマホニーは植木等を彷彿させるお調子者。ミリタリーオタクのタックルベリーは銃を撃ちたいがために警官をめざすヤバい人だし、巨漢で怪力のハイタワーは車の運転が大の苦手だったりする。超内気な女子フックスに、天然ボケで空気を読めないファックラーなどなど、とにかく現実社会では警官になって欲しくないキャラがそろっていた。
それにしても、この連中の楽しそうなこと。パーティを開くわ、いたずらをするわ、恋をするわと、学校生活をとにかくエンジョイしている。なんとなく高校生活に息苦しさを覚えていた身にも、この学校は少々羨ましく思えた。いや、映画だから…… と言われればそれまでだ。いやいや、映画を見ているヒマがあるなら受験勉強をしなさいよ…… という結論に至る。
シリーズ2作目、3作目も面白い!
そんな高校生活だったので、案の定、落ちて、こぼれて浪人生。その夏、『ポリス・アカデミー2 全員出動』が公開され、予備校の夏期講習が終わってから観に行った。マホニーらはすでに警官になっているが、相変わらずノリは軽い。
この物語で、彼らは街のギャング団と戦うことになるのだが、そのリーダー、ゼッドがとにかく最高。テンション高めで、ラリッてるような口調。ワルなのにTVドラマを見て泣いてたりする。落ちて、こぼれて、でも面白いヤツが、ここにもいた!
余談だが、このシリーズにはどの作品にもパーティのシーンがあり、ポリアカの面々がバンドを組んで演奏する。その曲は映画のオリジナルナンバーだが、ハードなビートナンバーで、なおかつサックスが入っていることもあり、観る度にロンドン・パンクを代表するバンドのひとつ、X-レイ・スペックスを思い出してしまうのだが、こんなことを連想するのは筆者だけだろうか?
もとい、なんとか大学に入学できた1986年、シリーズ3作目が公開されるが、これまた最高で、前作でイイ味を出していたゼッドや、彼にいたぶられ続けていた気弱な家具店店主スウィートチャックもアカデミーに入学している。この人たちも学校では、どう見ても落ちて、こぼれる。しかし、それを突破してしまう奇跡!
ポリアカが教えてくれた、負けることさえ楽しく思える “主観的な生き方”
結局のところ、落ちても、こぼれても、面白いこと、やりたいことを懸命に追い続ければ、なんらかの結果が勝手についてくる。負け犬上等。100回戦って、1度だけ最上の勝利を手に入れられれば、それでいいんじゃないのか? それは結果に過ぎないのだから。“ポリアカ” は、それを教えてくれたような気がするのだ。
シリーズは続き、全7作が作られたが、個人的に燃えて観ることができたのは、この辺まで。シリーズに出演した俳優の幾人かは、すでにこの世にいない。校長役のジョージ・ゲインズ、ハイタワーにふんしたババ・スミス、フックスを演じたマリオン・ラムジーは鬼籍に入られた。彼らのキャリアを俯瞰すると、正直なところ “ポリアカ” シリーズ以外に代表作はない。しかし俯瞰することは、重要じゃない。人は必ず負ける。落ちる。こぼれる。ならば、客観的に勝ち・負けを判断するのではなく、負けることさえ楽しく思えるほど主観的な生き方をしようじゃないか。
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2022.05.08