10月6日

大映ドラマの金字塔「スクール☆ウォーズ」熱き名シーン!俺はこれからお前たちを殴る!

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TBS系ドラマ「スクール☆ウォーズ 〜泣き虫先生の7年戦争〜」放送開始日
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photo:TBS / 大映テレビ  

“実録もの” にエンタテインメント性を見出していた大映テレビ作品


1984年10月より放送されたドラマ『スクール☆ウォーズ』は、とある高校ラグビーの強豪校を舞台に繰り広げられる学園ドラマである。だが、その高校は決して昔から強豪だったわけではない。ラグビーではさしたる実績もなかった公立校が、1人の熱血教師が監督に就任してわずか7年で全国優勝を成し遂げるまでの軌跡が描かれている。

ドラマの制作は “大映テレビ” が担った。70年代、山口百恵の主演で人気を博した “赤いシリーズ” を制作したことでも知られており、お馴染みのキャストに個性が際立つ登場人物やセリフ回し、荒唐無稽なストーリー展開と何より誇張された表現で描かれるその作品群は、いつしか “大映ドラマ” と呼ばれて独特の存在感を示していた。その後、80年代にも数多く制作されることになる大映ドラマは、『スチュワーデス物語』(1983年)や『不良少女とよばれて』(1984年)といった作品が高視聴率を挙げるヒット作となっていた。

『スチュワーデス物語』の原作は元日本航空で広報部長などを務めた経歴のある作家の深田祐介氏。『不良少女とよばれて』は舞楽家の原笙子氏の自伝を題材としたもので、それぞれ事実や実体験がベースになっていた。いずれもリアリティのある世界観を含んでいたこともヒットの要因にもなっていたわけだが、そこは大映ドラマ、極端な演出とキャストの怪演によって物語が進むにつれ、次第に原作と乖離していくこともしばしばであった。

そして本作『スクール☆ウォーズ』にも実在のモデルが存在することは明らかだった。その学校は、その後多くの名選手を輩出したラグビーの名門 “京都市立伏見工業高等学校” 。監督としてチームを率いたのは元日本代表のフランカー山口良治ということで、チームを全国大会に導いた当時から大変話題となっていた。なにしろ同校が栄冠に輝いてから、まだ4年にも満たない頃の話である “事実は小説よりも奇なり” と言われるが、その信じがたいサクセスストーリーと共に、併せて描かれることになる様々なエピソードは、すでに “実録もの” で実績を上げていた大映テレビがドラマ化に挑むにはうってつけの題材であった。

ⓒ TBS / 大映テレビ


サクセスストーリーに不良学生の更生を絡めた学園ドラマの王道


“学園もの” に代表されるような青春ドラマのジャンルであれば、それはかのヒットの3要素、すなわち “友情・努力・勝利” が有効であるのは何も少年ジャンプに限った話ではないだろう。そして『スクール☆ウォーズ』の背景にはそのすべてが揃っていた。ラグビーというスポーツの精神を象徴する “One for All, All for One” “1人は皆のために、皆は1人のために” をスローガンとしてチームメイトと互いに支え合い、落ちこぼれと言われた弱小ラグビー部が猛練習を重ねて栄光を手にするストーリーが展開される。

だがここに、登場人物たちを深刻な事態へと追い詰める、振り幅の大きさを持ち味とする大映ドラマのエッセンスが加わると “学園の荒廃” という激辛スパイスが投入される。そして校則違反や暴力、校内施設が次々に荒らされていくシーンが描かれ、また生徒たちの家庭環境や経済的な困窮などの問題が情け容赦なく降りかかってくる。その回のエンディングでトラブルが無事収束したとしても、画面いっぱいに広がる主人公の笑顔に “この時、知る由もなかった…” という不吉なナレーションが被せられて終わるのがお約束であった。

山下真司演ずる主人公でラグビー部監督の滝沢賢治は、部員たちが抱える問題にひとつひとつ丁寧に向き合い、解きほぐすように解決していく。最初は彼1人だけの行動が次々と賛同者を生み、その輪は同僚の教師や一部の生徒たちを巻き込み、部員たちを取り巻く悪循環は断ち切られる。やがてラグビー部の躍進と選手たちの活躍で、多くの生徒が母校への誇りを取り戻し、世間の悪評は一掃される… 全くよくできた話である。

原作に基づいた企画時のタイトルは『落ちこぼれ軍団の奇跡』。これではあまりにも生徒に対して差別的だとしてテレビ局が懸念を示し、若手俳優たちが躍動する学園ものに相応しいスタイルに改称されたのだが、まさかこのようなシリアスな展開のドラマになるとは想像だにしなかった。作中、教師にすら殴りかかってこようとする不良生徒たちを前にして、真正面から対峙することを決意した瞬間、滝沢は腹の底から沸き立つものを感じながらこう叫ぶ。“学校は戦場だ!” 『スクール☆ウォーズ』というタイトルの伏線が見事に回収された瞬間であった。

ⓒ TBS / 大映テレビ


大映ドラマの荒唐無稽すら誇張と言い切れない原作に記された事実


なお、モデルとなった伏見工高は京都市にあるが、ドラマの舞台となる 川浜高校(* 川崎+横浜)は神奈川にあるという設定だ。そしてドラマの名場面として、まず誰しも挙げるのが、県内の強豪校に予選で屈辱的な大惨敗を喫した直後、ロッカールームでの衝撃的なシーンだろう。

滝沢は自分の指導が至らず申し訳ないという気持ちから、ベンチに引き上げてきた選手たちに労いの言葉をかけ続けるが、惨敗したことに諦観したような態度を見せる生徒たちに次第に苛立ちを覚え、ついにこう言い放つ。

“相手も同じ高校生だ。(中略)それでいいのか、お前らそれでも男か!悔しくないのか!”

滝沢の魂の叫びは延々と続き、その熱情に心を打たれた彼らはやっと心を開き、次々と言葉を口にする。

“悔しいです!”
“俺も… 悔しいです!”
“勝ちたいです!”

滝沢はその悔しさをしっかりと心に刻み付けるようにと生徒たちの名を呼びながら1人また1人と張り倒し続ける。

“そのために俺はこれからお前たちを殴る!いいか、殴られた痛みなど3日で消える。だがな、今日の悔しさだけは絶対に忘れるなよ!”

… いやいや、殴られた方は一生忘れないでしょ。信頼感あってのこととはいえ、体罰厳禁のこのご時世なら教育者としての立場が危うくなるほどの重大な “コンプラ違反” かも知れない。きっとこれもドラマならではの誇張した演出なのだろうと思ってみればさにあらず。ドラマ放送から15年を経た2000年11月、NHK『プロジェクトX』でこの伏見工高の奇跡が取り上げられた際、当のモデルである山口本人が出演して、このエピソードの内容がほぼ事実だということを語っていたのである。ちなみに実際、京都の名門 “花園高校” との対戦スコアは “112-0” 。ドラマでは “109-0” であったから、これに関しては事実がドラマを上回っていたのだ。

まあ、さすがに舞台となる都市を牛耳る大富豪やその隠し子である “謎の美少女” などは実在しないものの、伏見工高OBである平尾誠二、大八木淳史といった名選手たちをモデルとしたキャラクターの登場はラグビー通の関心を呼んだ。また作中、滝沢の唯一の理解者である女子マネージャーや、志半ばで病により逝去した “イソップ” のモデルとなった部員も実在し、その他、学校内で起こった出来事として描かれた内容は、ほぼ実話であるといわれている。

ⓒ TBS / 大映テレビ


原作のモデル山口先生は大映ドラマの影響を受けていた?


面白いエピソードがある。山口がまだ校内規律の立て直しに奔走している頃、ある部員は夜遊びが絶えないため、度々自宅を訪ねては声をかけ非行防止に努めていた。その際、時には部屋に上がり込み、テレビのドラマ番組を一緒に観ながら互いに感想などを述べ合うこともあったという。

“泣き虫先生” と呼ばれた彼は感激屋で涙もろく、ドラマを見ては感動で涙することもしばしばであったが、高校生男子にはどうにも理解できない。それが納得できないと山口は他の生徒にまで電話をかけて度々共感を求めることもあったというのだが、そのドラマこそ大映テレビの代表作 “赤いシリーズ” だったという。時折あまりにもドラマチックな数々の名言を残してきた山口先生のこと、ひょっとすると大映テレビの大仰なセリフ回しには少なからず影響を受けていたのではないかと思わせる出来事である。

18万枚ものセールスを記録した主題歌「ヒーロー」


最後に、主題歌についても触れておこう。麻倉未稀が歌う「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」は1984年の映画『フットルース』のサントラからヒットした、ボニー・タイラーの日本語カバーである。まだまだ洋楽と邦楽の境界線がはっきりとしていた当時、既知の洋楽ヒットであってもその親しみやすさから国内市場においてはカバー曲の売上枚数の方が優勢であった。オリコン順位こそ最高19位に止まったが、半年間にわたるドラマ主題歌として採用されたこともあってロングセラーとなり、最終的に18万枚ものセールスを記録した。



スポーツ人口の増減にはスーパースターの出現やその時のブームといった要素が強く関わってくる。現に当時は部活動におけるラグビー人口が大きく伸びた時期とも言われている。現在、日本国内ではプロリーグ『リーグワン』が創設され、ワールドカップにおける日本代表の目覚ましい活躍によってもたらされた新たなムーブメントにも期待が集まっている。ゲームが緊迫し選手に声援を送りたくなる時には、今だにその高揚感とともにこの主題歌が胸中に響くオールドファンは決して少なくないだろう。

多くの人々は『スクール☆ウォーズ』によって描かれた伏見工高の奇跡が、ほとんど事実であることをドラマを通じて知ることができた。そして同校出身の選手たち、日本代表の活躍を目の当たりにして、その軌跡を現実に投影せずにいられなかったに違いない。ドラマに込められたセミドキュメンタリー性こそ、このコンテンツが人々を引き付けて止まない魅力であり、本質なのだろうと今改めて思うのである。

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2024.10.06
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カタリベ
1965年生まれ
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