暦のうえでは春となり、1日ごとに日脚の伸びを感じる今日この頃。来るべき陽春に向けて心が浮き立ち始める季節となった。バレンタインデーとホワイトデーに挟まれたこの時期は、新しい恋が生まれるシーズンでもある。ということで、歌謡ポップスチャンネル『Re:minder SONG FILE』の今回のテーマは、ドキドキする『恋する心を歌った80'sポップス』 全11曲をお楽しみいただく。
恋したときの歓びを歌い上げた「うれしい!たのしい!大好き!」
オープニングにはDREAMS COME TRUEの「うれしい!たのしい!大好き!」(1989年)をセレクトした。今回のテーマにぴったりな、恋したときの歓びを吉田美和の開放的なボーカルで歌い上げたポップチューンだ。サードシングル「うれしはずかし朝帰り」のカップリングに初収録されたあと、セカンドアルバム『LOVE GOES ON…』に'EVERLASTING' VERSIONとして再録音。同アルバムが、日本レコード協会がダブルミリオンを認定する記録的なロングセラーとなったことから、広く知られるようになった。
本年1月からは、ドリカムの企画アルバム『DOSCO prime』(2020年)に収録されたディスコバージョンがNTTドコモの新CM『ドコモU22割』のなかで流れているが、本作がCMに起用されるのは実に5回目。それくらい長きにわたって愛されているエバーグリーンな作品と言えるだろう。
大江千里が歌うストレートなラブソング「GLORY DAYS」
2曲目の大江千里「GLORY DAYS」(1988年)は、名盤の誉れ高いアルバム『1234』の先行シングル。3作続けてアルバム全曲を手がけた大村雅朗のアレンジによるキャッチーでダイナミックなイントロから始まるポップロックで、オリコン16位のヒットを記録した。
1980年代の大江は都会的で洗練された世界観と繊細な恋愛描写から “男ユーミン” とも呼ばれていたが、出会ったときのシチュエーションや燃える想いを余すところなく描いた本作は彼にしてはストレートなラブソング。力強く響くサビのフレーズ「♪きみと出逢えてよかった 愛だけが いま力になる」は雪の日にクルマを運転していたとき、道路脇の雪を見て浮かんだのだという。

杉真理が書き下ろしたハイ・ファイ・セット「素直になりたい」
3曲目のハイ・ファイ・セット「素直になりたい」(1984年)は東芝EMI(現:ユニバーサル ミュージック)からCBS・ソニー(現:ソニーレコード)に移籍した彼らの第1弾シングル。ソニー移籍でレーベルメイトになった杉真理が書き下ろしたスウィンギーなポップスで、恋に臆病なヒロインの揺れる気持ちが歌われている。
しばらく大きなヒットから遠ざかっていたハイ・ファイ・セットは、ブルーノートや転調を採り入れた本作で新しい魅力を訴求。シチズンの腕時計「リビエール」のCMに起用されたことも奏功し、オリコン19位まで上昇する久々のヒットに結びついた。稀代のメロディメーカーにしてポップマエストロとも称される杉によって再生を果たしたのである。

恋する乙女心を爽やかに歌った須藤薫「あなただけ I LOVE YOU」
続く「あなただけ I LOVE YOU」(1980年)はその杉真理の盟友で、ユニット活動も展開していた須藤薫のファーストアルバム『Chef’s Special』に初収録。息も、声も、胸もはずむ、恋する乙女心を爽やかに歌った楽曲で、翌1981年にシングルカットされた。作詞、作曲、編曲はいずれも大瀧詠一で、ストリングスアレンジは松任谷正隆。原曲は音楽番組『サウンド・イン "S"』(TBS系)に出演していたニュー・ホリデー・ガールズのために大瀧が作曲した「愛は行方不明」(作詞:山川啓介、編曲:大村雅朗)で、それが音盤化されなかったことから須藤用にお色直しをされたのだ。
大瀧の回想によると、きっかけはソニーで須藤を担当していた川端薫ディレクターからの依頼だった。大瀧が作詞作曲を手がけた「夢で逢えたら」(創唱:吉田美奈子)を気に入っていた川端はリメイクにあたって大瀧が歌詞を書くことを提案。難産の末、書き上げた大瀧はソニーのスタジオにピアノ4台、打楽器4台、生ギター5本を用意させ、ベース、エレキギター、ドラムとともに同時に演奏する分厚いサウンド(ナイアガラサウンド)を構築した。

ここからは余談となる。大瀧は須藤のためにもう1曲書いたが、男性用の曲だと判断した川端によってボツにされ、それが自身のアルバム『A LONG VACATION』の(以下:ロンバケ)冒頭を飾る「君は天然色」に生まれ変わった。ソニーで大瀧の初代担当ディレクターとなった川端との初仕事である「あなただけ I LOVE YOU」は日本のポップス史上に輝く『ロンバケ』が誕生する土壌を作ったと言っていい。
国内外で40年以上にわたって愛され続けている山下達郎「LOVE TALKIN' (Honey It's You)」
さて、中盤はかつて大瀧が主宰したナイアガラ・レーベルに所属していた山下達郎の「LOVE TALKIN'(Honey It's You)」(1982年)からスタートする。大瀧の『ロンバケ』とともにシティポップの名盤として知られる『FOR YOU』に収録された同曲はポリリズムを用いたファンキーなアーバンソウル。聴く者を高揚させるリズムは、当時の達郎サウンドを支えていた青山純(ドラムス)、伊藤広規(ベース)とともに、さまざまなリズムパターンに取り組むなかで生まれたという。
吉田美奈子の歌詞は英語を多用し、男の恋心をスタイリッシュに表現。彼女はバッキングボーカルとしてもソウルフルなコーラスで楽曲の完成度を高めている。本作はシングル化こそされなかったが、海外のフューチャーファンク・シーンを中心にサンプリングの元ネタとして定着。国内外で40年以上にわたって愛され続けている。

連続ドラマの主題歌として書き下ろされた竹内まりや「恋の嵐」
6曲目はその山下のパートナーである竹内まりやの「恋の嵐」(1986年)をお送りする。大原麗子主演の連続ドラマ『となりの女』(TBS系)の主題歌として書き下ろされた同曲は13作目のシングルで、オリコン20位をマークした。竹内は不倫を描いた脚本に沿って創作したそうだが、3連のリズムに乗った軽やかな曲調もあって、不倫ソング特有の情念やドロドロ感は薄め。ドラマを知らなければ、友達の彼氏に惹かれてしまうヒロインの抑えがたい心情を描いたラブソングにも聴こえてしまうことだろう。
当時の竹内は子育ての真っ最中。夫の山下が “シンガーソング専業主婦” と命名したように、家庭生活を中心にしながら創作活動に励んでおり、中山美穂や中森明菜など、多くの歌手にも楽曲を提供していた。1987年には提供曲のセルフカバーや既発シングル曲で構成されたアルバム『REQUEST』を発表し、ミリオンヒットを記録するが、この「恋の嵐」は同アルバムの1曲目に配され、さらに多くのリスナーに親しまれることとなった。

女性シンガーソングライターによる恋する心を歌ったポップス
歌謡曲とニューミュージックとの異種交配が進んだ1980年代は、竹内以外にもユーミンや中島みゆき、尾崎亜美など、提供曲でもヒットを重ねるシンガーソングライターが続出した。次に紹介する2曲も、作家としての才能も発揮した女性シンガーソングライターによる、恋する心を歌ったポップスだ。そう、中原めいこの「エモーション」(1984年)と、山口美央子の「恋は春感」(1983年)である。
前者は中原の出世作「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」の直後にリリースされたアルバム『ロートスの果実』(オリコン最高8位)に初収録。彼女らしい、いい意味での下世話さを備えたメロディに乗せて、恋する歓びを情熱的に(エモく)歌うダンサブルなラテンポップで、リカットされたシングルもスマッシュヒットを記録した。
後者はコーセー春のキャンペーンソングに起用された4作目のシングルで、山口のソロ作では自身最高のオリコン22位をマーク。春の予感と恋の始まりを重ね合わせたキュートなシンセポップで、リスナーの心を浮き立たせる。シンセサイザーを弾きこなし、東洋的モチーフのなかに独自の世界を構築した山口はデビュー以来、松武秀樹や井上鑑らのバックアップを受け、“シンセの歌姫” の異名をとった。「恋は春感」を収めたサードアルバム『月姫 MOONLIGHT PRINCESS』のテーマは “ジャパネスク” で、プロデューサーは土屋昌已。近年のシティポップ・ブームにより音楽性の高さが改めて注目されており、1980年代に発表したアルバム3作は2018年に初CD化されている。

1980年代は四季折々に展開された化粧品のCMから多くのヒット曲が生まれたが、なかでも春のキャンペーンは心が弾むラブソングの宝庫だった。竹内まりや「不思議なピーチパイ」、矢野顕子「春咲小紅」、高見知佳「くちびるヌード」、松田聖子「Rock’n Rouge」、THE ALFEE「シンデレラは眠れない」、中山美穂「色・ホワイトブレンド」「ROSÉCOLOR」、岡田有希子「くちびるNetwork」、南野陽子「吐息でネット。」―― 。プレイリストにして聴けば、きっとテンションが上がるに違いない。
岡村孝子ソロ転向後初のヒット曲「はぐれそうな天使」
9曲目はやはりCMから火が付いた「はぐれそうな天使」をお届けする。初出は1985年9月に発売された来生たかおのシングルで、今井美樹が出演したホンダの軽自動車『トゥデイ』のCM曲としてオリコン42位まで上昇した。CMは翌1986年2月から岡村孝子が歌うバージョンに引き継がれ、ソロ転向後の岡村にとって初のヒット曲となる。
彼女のディスコグラフィーでは唯一、作詞も作曲も手がけていない楽曲(作詞:来生えつこ / 作曲:来生たかお)だが、恋におちた少女の心の揺らぎを繊細に表現した世界観が、清潔で透明感のあるボーカルにマッチ。「夢をあきらめないで」(1987年)とともにキャリア初期を代表する作品となった。

桑田佳祐ならではの言葉遊びが満載、「夕方 Hold On Me」
続くサザンオールスターズ「夕方 Hold On Me」(1984年)は、シンセサイザーを本格的に導入したアルバム『人気者で行こう』に収録されたソウルフルなナンバー。管編曲に元スペクトラムの新田一郎を迎え、ブラスとホーンを贅沢に使ったファンキーなロックチューンに仕上がっている。
タイトルの元ネタは、ビートルズもカバーしたスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの「ユーヴ・リアリー・ガット・ア・ホールド・オン・ミー」で、歌詞のなかでも「♪夕方 = You ougatta」「♪相方 = I’ve got a」「♪曖昧な = I wanna」とダブルミーニングにした、桑田佳祐ならではの言葉遊びが満載。熱い恋心をエロティックに表現するのも桑田ならではで、ノリの良さからライブの定番曲となっている。
玉置浩二の妖艶なメロディ、安全地帯「恋の予感」
さぁ、いよいよエンディングだ。ラストは安全地帯「恋の予感」(1984年)。日本航空『ハワイツアー キャンペーン '84』のCMに起用された同曲は、玉置浩二の妖艶なメロディに井上陽水の情感溢れる歌詞が乗ったロックバラードで、オリコン3位のロングセラーとなった。
今回のプログラムでは恋の始まりのときめきを明るく歌った楽曲をメインに構成したが、男女の駆け引きを切々と歌った本作は6曲目の「恋の嵐」とともに異彩を放つ存在。大人の恋ではウキウキ、ワクワクだけでなく、こういう苦しさも味わうことがあると教えてくれる作品と言える。以上11曲。さまざまな恋模様を楽しんでいただければ幸いである。
ココロ躍る音楽メディア「Re:minder」がテーマを決めて珠玉のソングファイルをお届け。

▶︎ 放送局:歌謡ポップスチャンネル
▶︎ 放送日時:
・2026年2月25日(水)24:00〜25:00
・2026年3月05日(木)24:00〜25:00
▶︎ 今月のソングファイル
♪ うれしい!たのしい!大好き!/ DREAMS COME TRUE
♪ GLORY DAYS / 大江千里
♪ 素直になりたい / ハイ・ファイ・セット
♪ あなただけI LOVE YOU / 須藤薫
♪ LOVE TALKIN' (Honey It's You) / 山下達郎
♪ 恋の嵐/竹内まりや
♪ エモーション / 中原めいこ
♪ 恋は春感 / 山口美央子
♪ はぐれそうな天使 / 岡村孝子
♪ 夕方 Hold On Me / サザンオールスターズ
♪ 恋の予感 / 安全地帯
▶︎ 番組ページ:Re:minder SONG FILE
2026.02.18